3.32.94 異世界文化、満喫デート
気になるその魔道具は、サイズ的には懐中時計ってところだろうか。
ものすごく便利そうなのだが、店員の様子からするに人気は無さそうである。
「時間くらい空を見りゃ分かるってのに、わざわざ魔導具を使おうなんて物好きはいねぇからな。ずっと売れ残ってんだよ」
空を見れば時間が分かるって、どんだけアバウトなんだよっ!!
とツッコミそうになった真一だったが、思い返してみれば確かに、この街ではこれまで1度も時計を見かけていない。
冒険者ギルドにも食事屋にも宿屋にも時計はなかった。
それどころか店員の口ぶりからするに、そもそも『時計』という単語すら存在しない感じである。
もしかしたらこの異世界は、時間をあまり気にしない文化なのかもしれない。
そういえば沖縄の人って、待ち合わせに2〜3時間は平気で遅れるらしいもんな、、、
などと考えながらも、真一は時計の魔導具が気になってしょうがない。
少し眺めていると、時計の読み方はすぐに分かった。
4✕4の16個のブロックのうち、いちばん下の段の4つが『秒針』のようだ。
これらは全て緑のライトで、2秒弱ごとに点いたり消えたりしている。
どうやらこの異世界の1『秒』、というか、『最小の時間単位』は、1秒と2秒の間のようだ。
数えてみると、だいたい1.7〜8秒くらいっぽい。
時計の数え方はエピー先生の算数教室で指を折っていたのと同じ、バイナリ(2進数)方式だ。
右端のブロックが1異世界秒で、そこから左へ順に2、4、8異世界秒。
点灯しているブロックの秒数を全て足して計算する。
下の段の4つ全部が点くと15異世界秒だ。
そして16異世界秒目になると緑のライトが全て消えて繰り上がり、3段目のオレンジのライトが変化する。
この3段目の4つのオレンジが『分』相当のようだ。
地球時間では30秒くらいだろうか。
この世界の『1秒』が地球の2秒よりちょっと短いくらいだから、この世界の『分』は、その16倍で30秒弱という計算になる。
さらにオレンジが全部点いて16異世界分に達すると、上から2段目の水色のライトに繰り上がる。
これは『異世界の分』の16倍で、地球時間の8分弱。
地球では『分』と『時間』の間の単位がないので、上手く表現できる言葉がない。
だが読み方は店員の男が教えてくれた。
どうやら1日を1/16ずつ、細分化していって数えるようだった。
「な、見方は簡単だろ。上の段の赤が『ミック マルス《日》』、2段目の水色が『シセク マルス《日》』だ」
ここの現地語では『日』を『マルス』と言う。
そして地球で言う『時』、『分』、『秒』にあたる単位は存在しない。
代わりに『1/16』を表す単位である『ミック』を使い、1日を16等分して『ミックマルス』と数えるのだ。
いちばん上の段の赤のライトが、この『ミック マルス《日》』をカウントするもの。
この『異世界の1時間』にあたり、地球時間だと2時間くらいだ。
「3段目のオレンジが『パーシク マルス《日》』、いちばん下の緑が『ロイク マルス《日》』。な、意外と便利だろ?」
16個のライトで、この世界の1日を全部表すことができるってわけか、、、
真一は暗算して整理してみる。
この世界の1マルス《日》は、地球時間の114514秒で、約31.8時間。
1ミック マルス《日》は、地球時間の約7157秒で、ほぼ2時間。
1シセク マルス《日》は、地球時間の約447秒で、8分弱。
1パーシク マルス《日》は、地球時間の約28秒。
1ロイク マルス《日》は、地球時間の約1.7秒となる。
そしてこの数字はかなり見覚えのあるものであった。
そう、ヒーラーさんの自動回復魔法、『ロングサステナヒール』である。
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補助効果:
HP自動回復 【+1 / 28秒】
▶ロングサステナヒール 【1384 / 114514秒】
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今では至聖龍の回復スキルのおかげで、これに頼らずとも生きていけるようになった真一だが、ヒーラーさんは変わらずに魔法をかけ続けてくれている。
その効果時間である『114514秒』がこの世界の1日であることは、以前から気がついていた。
そしてその回復効果が28秒ごとなのは、どうやら『パーシク マルス《日》』から来ていたようだ。
いろいろと謎だった数字が何なのかが判明して、かなりスッキリした真一であった。
少し悩んでみたものの、真一は時計を買うことにする。
この異世界の人はかなりアバウトのようだが、日本から来た真一からすると現在時刻が分かるのはやはり嬉しい。
かなり希少な魔導具らしいが、ずっと売れ残っていたおかげで1リルぽっきりで売ってもらえた。
オマケで紐を付けてくれたので、真一の左の首にかけてもらう。
かなりいい買い物ができたと満足の真一。
ただしエピーは納得してくれたものの、ドリーが『食えないものを買うなんて』とご立腹だ。
仕方がないので向かいにある屋台スイーツに突撃する。
カップ状のふっくら生地に生クリームみたいなものがたっぷり入っていて、カラフルな果物やキノコがトッピングされていた。
それを2つ買って、エピーと真一ではんぶんこして食べる。
一瞬で1個を丸飲みにしたドリーが横から物欲しそうにじ〜っと見つめてくるが、2人して無視した。
さらに暗くなってきた街を歩く。
人通りはぜんぜん減る様子はない。
老若男女、人間と獣人、行き交う人々は様々だ。
トラック、車、二輪車、キックボードと乗り物も多い。
ただしガソリンでも電気でもなく、魔法で動いているらしい。
『魔動車』とでも呼べばいいのだろうか。
働く車も変わっている。
真一が見つけたのは巨大なローラーが前方についた、バイクみたいな作業車両だ。
そのローラーはブニョブニョしたスライム状のもので出来ている。
メシ屋のテーブルや、宿のトイレにあったクリームミストと同じものだ。
どうやらこうやって街をくまなく走り回って、道の掃除をしているらしい。
賑やかな街を散策していると、娯楽品の店も見つけた。
中に入ってみると、ポップなアイドルっぽい曲が流れている。
本なのか音楽なのか画像なのか、何を売っているのかは良く分からない。
とにかく異世界の本屋かレコードショップみたいなものだ。
ただし実物の本を売っているわけではない。
店内にはカラフルな文字や絵が書かれた謎石の石版が所狭しと陳列されている。
どうやらサンプル的なディスプレイのようだ。
客はその謎石版サンプルに、何か板状のタブレットっぽい魔導具端末をタッチさせている。
すると光る数字やら文字やらが空中に浮かび上がり、タブレット端末に吸い込まれていく。
まさかのデジタル販売方式のようだ。
いや、魔法だからマジカル販売?
となるともしかしたら魔法インターネット的なものだってあるのかもしれない。
何にせよ異世界の魔法文明はあまりにも新鮮で、見るもの全てが珍しい。
アニメなんかで良く見る中世の文化レベルかと予想していたが、いい意味で裏切られた。
そりゃ魔法のある世界なら、工業も料理も娯楽も魔法を使ってガンガン発達するはずである。
地球よりも遥かに便利なものもたくさんあって、ワクワクが止まらない。
それに何より、、、
これって完全にデートだよな?
2人の美少女との街歩きを、真一は心の底から楽しんでいた。
そうこうするうちに日は沈み、空は真っ暗になっていた。
だけど路面の夜光塗料の明かりが想像以上に明るくて、歩くのに困らない。
大通り沿いの店や家のカラフルな魔法照明も相まって、バンリャガの街は夜の方が幻想的な美しさがあった。
確かに木造の建物も多く、それらは直線的でそこまで珍しくない。
だけど謎石製の建物は流線的なラインやアーチが目新しく、本当に異世界だなぁと実感する。
そんななか真一は、ようやく目当ての店を見つけた。
ひときわカラフルな魔法照明によるライトアップ。
芸術的なカーブを描く謎石製の大きな店先には、ショーウィンドウらしきものがある。
ガラスではなく、何か透明なエネルギーフィールドで出来た窓だ。
そんなショーウィンドウの向こうには、オシャレな服が並んでいた。
間違いなく異世界ファッションのお店である。
「エピー、服屋さんだ!入ってみよう!」
「これは美味しいニャミュ?」
「食べ物じゃないから、絶対に食べるなよっ!」
ワンパターンすぎるドリーに念を押しながら、真一は異世界アパレルショップに突撃するのだった。
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