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7.Y-5.505 因果の渦

 村のすぐ外の空き地で繰り広げられた、あまりにも一方的で残虐ざんぎゃく殺戮劇さつりくげき

 『厄災の魔女』彩香はその間、顔色1つ変えることはなかった。

 戦いの喧騒けんそうが収まり、あたりが静けさに包まれる。

 すると村の中からかすかに、無数のすすり泣く声が聞こえてきた。

 村に閉じこもっていた非戦闘員の女性や子どもたちのものである。

 彩香に見つかることを恐れて隠れていたが、愛する者たちの悲惨な最期に涙をこらえきれなかったのだろう。


 もっとも彩香からすれば、大した量ではない『経験値』になど、何の興味もない。

 自分に襲いかかってこないのなら、わざわざ殺して回るのも面倒なだけである。

 とはいえ村人たちの運命は、結局変わらなかった。


 ギャルルゥガァァッ!!

「いゃぁぁあぁぁぁぁっ!!」


 グゥギュワァァッ!!

「助けてぇぇっ!!」


 村の中から聞こえていた泣き声が、断末魔だんまつまの悲鳴に変わる。

 獣たちの獰猛どうもうな鳴き声とともに。

 村はいつの間にか、オオカミのようなモンスターの群れに囲まれていたのだ。

 村人たちは1人また1人と、老若男女問わず猛獣の牙の犠牲になっていく。


 本来ならこのあたりには現れるはずのない、凶悪なモンスターの大群。

 それが彩香が村人たちに攻撃された原因であった。

 始まりは数日前のこと。

 彩香が村の近くで目撃されたのと時を同じくして、オオカミモンスターが大量に出没するようになったのだ。

 それから数日のうちに数名の村人が相次いでオオカミの犠牲となった。

 村の男たちはそれを彩香のせいだと決めつけ、問答無用で襲いかかってきたのである。

 とはいえそんな村人たちの思い込みは、、、

 もちろん大正解である。


「思ってたよりたくさん集まったみたいね」


 村を襲う大量のオオカミを眺めながら、無感動に口にする彩香。

 今まさに村人たちが虐殺ぎゃくさつされているというのに、何の引け目も感じていない。

 それどころか、目撃者が消えて都合がいい、くらいにしか思っていなかった。


 とはいえ彩香だけが無事、ということなどあるはずもない。

 村の中の『エサ』が減るにつれ、オオカミモンスターたちはどんどん彩香の方に集まってくる。

 たちまち十数匹の猛獣に囲まれる彩香。

 相手はさっきの村人たちより数段レベルが上の相手だ。

 もっとも彩香からすれば、やることは何も変わらない。


「『標的』っ!」

「『狂乱』っ!!」


 彩香を傷つけて『因果』の発生したオオカミに、片っ端からコマンドを発していく。

 程なくして群れの大半は同士討ちの混乱状態に陥っていた。

 その隙をついて彩香も呪いの包丁をふるい、自分の手で直接オオカミたちの命を刈り取っていく。

 こうしてものの10分ほどで、一帯から『厄災の魔女』以外の命が消え去ったのであった。


「やっぱり人間の方が効率がいいわね。だけど、、、これだけ殺したのに、レベルが上がらないなんて、、、」


 今回彩香が倒したオオカミは30匹ほど。

 その前に村人を10人ほど殺したが、結局レベルは1つも上がらなかった。

 とはいえ得られた経験値リルの正確な数値は、情報板(※異世界タブレット)の『所持金表示機能』で確認できる。

 実入りとしては村人10人と、オオカミ30匹とで同じくらいだ。

 1匹あたりで計算すると、やはり人間の方が経験値効率がいい。

 そう、彩香がこんなことをしている理由は、全て『レベル上げ』のためなのだ。


 人々の命を犠牲にしてまで、取りかれたようにレベリングに突き進む彩香。

 まさに他者の命をかてに欲望を満たす魔女そのものである。

 これまでの人生で決して人を傷つけることなどなかった彩香が、なぜこれほどレベルアップに執着するようになったのか。

 それはひとえに、彩香を取り巻く環境がそうさせた、としか言いようがなかった。


 この異世界ミグルに来てからも、彩香は日本にいた頃と変わらず不幸であった。

 周りが『敵』ばかりで、誰からも憎まれるのも同じ。

 それでも彩香は幸せだった。

 何故ならここでは彩香には、『敵』をブチ殺す力があるからだ。

 今の彩香にとっては、強さこそが正義であり、弱さは悪であった。


 日本にいた頃の彩香は、弱いから踏みにじられ、全てを失った。


 この世界での彩香は、強いから理不尽をはねのけ、『敵』に報いを受けさせることができる。


 だからこそ彩香は、がむしゃらに強さを追い求めるようになっていた。

 そしてこの世界ではステータスというもので、強さが目に見える形で表示される。

 いつしか彩香はステータス画面の数字だけが、生きる目的となってしまっていた。

 獲物を求めてミグル中のダンジョンを駆け回り、その過程で出会った『敵』は全て殺し尽くす。

 そうして冒険者として活動を始め、ミグルでの生活にも慣れていき、彩香は強くなった。


 レベルはまだ21で、強さで言うとニッケル(Dランク)か、もう少しでゴールド(Cランク)が見えてくる程度でしかない。

 ステータスが向上して身体能力は強化されたものの、戦闘技術は素人に毛が生えた程度だ。

 当然のように仲間がおらずソロの彩香では、普通ならニッケル(Dランク)のモンスターを倒すことすら困難なところである。

 けれども彩香の呪われたユニークスキルを使えば、格上のモンスターであっても倒すことは難しくなかった。


 実際に今の彩香は、シルバー(Bランク)くらいのモンスターなら簡単に処理できるようになっている。

 クロム(Aランク)でも、それほど苦労はしない。

 それどころか過去に数匹だけ、それも辛うじてとはいえ、プラチナ(Sランク)モンスターを倒した経験もあった。


 おかげで他の勇者と比べて、彩香の成長スピードは格段に速い。

 疫病神やくびょうがみの加護のせいで、モンスターや盗賊に襲われやすいのも、プラスに働いている。

 しかもモンスターよりも人間、ミグル人よりも日本人の勇者の方が、『経験値が美味しい』ことにも気づいていた。

 今では彩香は襲ってくる人間たちを、都合の良い『エサ』としか思っていない。

 さらには『断罪の因果』スキルの『裏ワザ』を見つけたおかげで、モンスターを呼び寄せることすら可能になっていたのだ。


「『因果網ネットワーク』っ!!」


 村人もオオカミたちも全滅し、命の死に絶えた村。

 そんな村の外に広がる空き地で、彩香はコマンドを発する。


 ヴィンっ!!


 すると彩香の目の前の空中に、半透明の緑色の四角いモニター画面が現れた。

 レーダーのように4重の同心円が描かれており、画面中央には彩香を示す青い人型アイコンがある。

 周辺の地形を表す等高線なども書き込まれており、村の建物や森、川の位置も描き込まれていた。

 これが彩香のユニークスキル『断罪の因果』の3つ目の効果、『因果網ネットワーク』である。


ーーーーーーーーーーーーーーー

ユニークスキル:

 断罪の因果

ーーーーーーーーーーーーーーー

己を傷つけた相手に報いを与える

スキル効果一覧

・反射

・因果

ネットワーク

ーーーーーーーーーーーーーーー


 これは彩香が発生させている『因果』の情報を参照できる能力である。

 その『おまけ』として、この異世界ミグルのマップまで確認できるのがありがたい。

 『因果』を植え付けられた相手がどれだけ遠くにいようと、その現在地が分かる優れモノだ。

 結ばれている『因果』の位置は、●印のアイコンで表示されていた。

 『因果』の強さ(※レベル❶〜❺)に応じて、アイコンの色は黄色〜オレンジ〜赤へと5段階で変化していく。


 それぞれの『因果』のアイコンをタップすれば、サブウィンドウがポップアップして、対応する相手の詳細な情報を見ることも可能だ。

 閲覧えつらんできる情報は、『因果』のレベルによって変化する。

 因果レベル❶の『接続』だと現在地くらいしか分からない。

 レベル❷の『接続』で、勇者スキルのステータス鑑定+α(プラスアルファ)くらい。

 そして因果レベル❸の『狂乱』以上ならば、相手の詳細なステータスや個人情報まで読み取ることができた。


 そしていま現在この周辺には、1つだけ薄いオレンジ色の●型アイコンが表示されている。

 強さで言うとレベル❷相当だ。

 場所は村から出て森に入り、200メートルほど進んだあたり。

 その位置をマップ画面で確認しながら、彩香は真っ直ぐアイコンの方へと向かっていく。

 ダンジョン化した森の中に分け入り、道なき道を10分ほど進む。

 そうしてたどりついた森の木々の合間の小広い場所で、地面の上に『ソレ』が不気味にうごめいていた。


「やっぱりもう残ってないか。さすがにさっきので全部だったみたいね」


 オオカミのおかわりを探してやってきた彩香は、そう残念そうにつぶやく。

 そんな彩香の目の前にあるもの。

 それは真一たちがバンリャガの近くのダンジョン、『ホッス渓谷』で見つけたのと同じ『黒いモヤ』。

 真一が結晶トカゲの調査依頼で訪れたときに遭遇し、ドリーが食べてしまった『アレ』である。

 これこそが彩香の『断罪の因果ユニークスキル』の裏ワザ、『因果いんがうず』なのだ。


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