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7.Y-6.506 誕生、『厄災の魔女』

 実は『因果』を仕掛けられる対象は、人間やモンスターに限らない。

 モノや場所に『因果』を仕掛けることも可能なのだ。

 彩香がこの『因果いんがうず』を設置したのは数日前のこと。

 村人たちの視線を避けて、森の中のこの場所にやって来た彩香は、腰のホルダーから『包丁』を取り出す。

 そうして呪われた包丁を振り上げると、、、


 ザクっ!!

「ぅぐぅっ、、、」


 勢いをつけてその先端を、左腕に3センチほどザックリと突き立てた。

 どんなにレベルを上げても痛いものは痛く、彩香は悲鳴をあげて顔をしかめる。

 それでも少なからぬ傷を負った彩香の苦痛が、『断罪の因果(ユニークスキル)』に流れ込む。

 そうしてその傷のむくいを受けさせるべく、彩香の呪われたスキルが発動した。

 彩香の脳内に不気味なアナウンス音声が流れる。


〘因果レベル❷:『標的』〙


 けれどもこれは彩香の自傷ダメージだ。

 報いを受けさせる相手は存在しない。

 行き場を無くした『因果』は、彩香が立つこの『場所』へと降り注ぐ。

 森の中の落ち葉におおわれた地面の上に、黒いモヤのような『因果の渦』が出来上がった。


 これが『因果』のもう1つの使い方。

 自傷することで、『空間』に『因果』を発生させることができるのである。

 この『因果の渦』の効果は、この場所に厄災の呪いを植え付けるというもの。

 そこに足を踏み入れたモノは呪いを受け、低ランクのモンスター程度ならば即死することになる。

 つまり罠のような使い方が出来るということだ。

 けれども彩香がこの『裏ワザ』を頻繁ひんぱんに使っている目的は、もう1つの効果にある。

 『因果の渦』を設置すれば、この場所にモンスターを呼び寄せることができるのだ。


「まだ『渦』は機能してるみたいだし、また『エサ』が集まってくるまで放置でいいか、、、」


 そんな独り言を口にすると、彩香は森の外へと引き返していく。

 彩香はこのような空間への『因果の渦』を、行く先々のあちこちに仕掛けていた。

 とはいえこの『裏ワザ』には大きな問題がある。

 『因果の渦』は自傷ダメージが治ると消滅してしまうのだ。

 そのため彩香は自分の傷を治すことができない。

 数多あまたの『因果の渦』を維持しておくため、今では彩香は常に傷だらけになっているのである。


 そもそも彩香のユニークスキル自体が、もともとダメージを受けることが前提のものだ。

 しかも回復手段が限られることも問題であった。

 彩香は治癒魔法ちゆまほうが使えないし、治癒士ヒーラーを仲間に加えることもできない。

 街の治癒院ちゆいんで治療してもらうのも、嫌われ者の勇者では難しい。

 特に彩香は行く先々の街で問題を起こしまくっているので、なおさら施設の利用は困難である。


 そんな彩香にとってのほぼ唯一の回復手段は、治癒ポーションだ。

 けれどもその効果は限定的だし、何より高価すぎてそれほど多くは入手できない。

 そのためいまや彩香は、血だらけ、包帯だらけ、傷だらけの酷い有り様であった。

 元の美人だった容姿など、もはや見る影もない。

 まさに『魔女』にしか見えない有り様となっていた。


 そしてその姿は、今の彩香の内面をそのまま映し出したものといっても過言ではないだろう。

 もはや人をあやめても何とも思わず、他者の命など経験値という『数値』にしか見えない。

 この異世界に来てから、彩香の人間性は完全に崩壊していた。


 日本にいた頃の彩香は、母の『大切な言葉』を守り続けて、決して人を傷つけるようなことはしなかった。

 それが今では『敵』どころか、普通の人々の命を奪うことすら躊躇ちゅうちょしない。

 というか今の彩香には、ありとあらゆる人間が『敵』にしか見えなくなっていたのだ。

 日本にいた頃では考えられない変貌へんぼうぶりである。


 その原因の一端が、自身の持つ『凶器』の精神汚染にあることも、彩香は薄々(うすうす)勘づいてはいる。

 だからといって彩香は、愛用する『呪いの包丁』を手放すつもりは毛頭ない。

 もはや彩香は、決して止まることのできないところまで来てしまっていたのである。

 その姿はもはや本来の彩香のものではない。

 世界に災禍をき散らす、『厄災の魔女』へと成り果ててしまっていた。



ーーーーー



 そんな『魔女の日々』が延々と続いたある日。


「龍神?」


 彩香が初めて『クソトカゲ』の噂を聞いたのは、バンリャガの街でのことであった。

 『絶命の森』の奥地に『龍神』という、村人からあがめられているドラゴンがいるというのだ。



 許せなかった。



 この異世界ミグルにやって来てから、彩香はずっと化け物扱いされていた。

 日本でも悲惨な人生を歩んできた彩香だったが、『新しい世界』でも状況は何も変わらない。

 彼女を取り巻く人々の悪意は、以前と全く同じ。

 日本では『陰湿な悪意』だったのが、より『直接的で暴力的な悪意』に変わっただけである。


 初めてミグルに来た頃の彩香はとても無力で、そんな悪意に翻弄ほんろうされるばかり。

 けれども異世界勇者にふさわしい力を身に着けてからも、人々の悪意は変わらなかった。

 むしろ彩香が強くなればなるほどに、ミグル人から化け物扱いされるようになっていた。

 そうして彩香はこの『新しい世界』でも、何も変わることはないんだと悟る。

 ミグル人たちも地球人と同じく、自分に悪意を向けてくる『敵』なのだと。

 ただし今の彩香には力があった。

 自分にあだをなす『敵』を、虫けらのように駆除できるだけの力が。


 そんな彩香にとって、『龍神』は絶対に許せない存在であった。

 『ミグル人から化け物扱いされる人間』である彩香にとって。

 『化け物なのにミグル人から崇められる龍神』などという存在は。

 だから彩香は、『龍神』をブチ殺してやることに決める。

 彩香のレベル上げのためのかてにしてやるのだ。


 それからの彩香は、ずっとクソトカゲを追い続けてきた。

 途中でターゲットがクソ魔女に変わったものの、龍神と合流したので最終的には同じこと。

 ミルベガスの街では、ついにクソトカゲに強い『因果』を仕掛けることに成功する。

 相手の素性も、『馬宮まみや真一しんいち』という異世界勇者と融合していることも知った。

 クソトカゲたちの探しているものが、その日本人の身体のバラバラパーツであることも判明し、、、



ーーーーー



「ふふふっ、、、ようやく。ようやくだわ、、、」


 そうしていま彩香は、灼熱しゃくねつの地下洞窟にいた。

 彩香が目の前の空中に浮かべているマップ画面には、クソトカゲのアイコンが表示されている。

 そのオレンジ色の●型アイコンは、真っ直ぐ彩香の方へと向かってきていた。

 それを見つめながら、愉悦ゆえつの声が漏れ出るのを抑えきれない彩香。


 ヴォイグル《未踏領域》でもとびっきりの危険地帯である、この獄炎の迷宮。

 この場所で彩香は、クソトカゲたちを待ち受けることにしたのだ。

 並大抵のモンスターでは歯が立たないバケモノどもを、確実に仕留めるための罠を用意して。

 それは幾重いくえにも張り巡らされた、必殺のトラップである。



 そしてその死地に連中を誘い出すためのエサは、、、



 マップ画面の中央には彩香を示す人型アイコンがあり、その近くにはオレンジ色の●型アイコンが2つ光っている。

 そしてクソトカゲたちが向かっているのは、厳密にはそのオレンジアイコンのうちの1つであった。

 そして彩香はそんな連中の動きを完全に把握することができる。

 おかげで的確に罠を仕掛け、相手を着実に追い詰めることができるのだ。

 とはいえ本命の罠の効果を最大限に活かすためには、前準備も必要である。


「まずは小手調べと行きましょうか、、、」


 そうして彩香はマップ画面を操作する。

 するとマップに50個ほどの赤っぽいオレンジ色のアイコンが追加で表示された。

 その●印の1つ1つが、彩香の支配する凶悪なヴォイグル《未踏領域》のモンスターなのである。

 そんな赤オレンジの●アイコンをいくつかタップする彩香。


「先陣はアナタたちよ」


 こうして厄災の魔女の手により、最終決戦の幕が切って落とされようとしていた。


彩香編の前編はここまで。

と同時に7章パート4もこれにて完結となります。


厄災の魔女の能力スキルがついに明かされ、次回からはいよいよ7章の最終決戦がスタートします。

幻獣種すら返り討ちにする化け物を確実に始末するため、彩香が仕掛けた必殺の罠とは?

パート5もぜひお楽しみに。


さてパート4の連載中に700ポイントに到達しました。

評価・ブックマークをくださったみなさま、本当にありがとうございます。

感想やリアクションも、とても励みになります。

7章も残すはパート5とパート6のみ。

これからも頑張って連載を続けていきますので、ぜひ最後までお付き合いください。


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