9. 腕輪と髪飾り
「リリアナ女神様とメリドゥーシャ様はまだお帰りにならないのですか?」
怪訝そうなノワルの声が、アランフォルスの執務室に響いた。
部屋の主は書類に目を通しながらも部下の問いに答える。
「気になるか?」
「逆にアランフォルス様は気になさらないのですか?」
「妃たちには節度ある行動を心がけるよう常々申しておる」
「表向きは、でしょう? 未だ幾人もの側妃が海上まで上がり、人間狩りを行っておられるようですが」
アランフォルスはサイズの合わない大きな椅子に腰掛けながらも、足組みをする。
「ノワルよ、何が言いたい?」
「お二人が、今後貴方様のご意向に沿わない行動をされないと言い切れますか?」
ノワルがそう言い放つと、ブラックダイヤのような美しい瞳が細められた。
「まあ、言い切れるであろうな」
「……それは、何故ですか」
「理由など一つしかない。メリドゥーシャもリリアナも、どちらも余が自ら選別した妃だからの」
「……リリアナ女神様は、正確には違いましょう。あのお方は、本当の意味での妃ではないはずです」
「余は信頼していない者を近くに置くほど馬鹿な海神ではないぞ。
まあ、多少の浮気は許してやれる、寛大な夫君、といったところかの?」
アランフォルスはどこか面白がるようにノワルを見ている。
「で、気になるか?」
「何がでしょうか」
「いい加減に認めれば良いものを」
「何のことかさっぱり分かりかねます」
くるりと踵を返し、ノワルは執務室の戸口へと向かう。
「類い稀なる美しい花には、その蜜を求めて群がる虫どもが後をたたぬであろうな」
ノワルの背に、アランフォルスの言葉が突き刺さる。
「……花も虫も、この海には存在しません。しかし、肝に銘じておきましょう」
巡回に行って参ります、と一言だけ残し、ノワルはアランフォルスの執務室を静かに出て行った。
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「── ──なるほど。つまり、海魔の本質はその中心に位置する軸首に隠されていると同時に、そこがやつの急所ということか」
カップに注がれたをお茶口に運びながらも、シェリがそう言葉にする。
「わわっ! ホメロス、それおやつじゃなくて私の手だよ〜っ。まだあるからゆっくり食べてね」
「……リリィ」
「あ、ごっごめん! ホメロスとも久々に会えたから嬉しくってつい……」
ホメロスのざらりとした頬をもう一度よしよしと撫でた後、私はシェリの横へと戻り腰を下ろした。
てんやわんやですっかり放置されていたピクニックセットを少し拝借して、私たち二人はお茶を片手に議論中である。
「えっと、海魔の本質の話だよね? うん、それで間違いないと思う。
それに、もしその軸首の本質が "恐れ" なら、それを断ち切ればきっと、海魔の愛し子を本当の意味で解放出来る気がする」
「根拠は?」
「ごめんなさい。ない」
「だろうな。同じ女神の愛し子同士としてのカンというやつか?」
「……曖昧すぎるよね」
「海魔の愛し子が恐れているものは、自身を辱めた海人族の男と、母国を滅亡させた人間、といったところか」
「私も初めはそう思ってた。……でも、今になって何かが引っかかるの。
もちろん、その二つも前愛し子様にとっての "恐れ" には違いないはず。
でももし、彼女が海魔になってしまった理由が海人族と人間への復習のためなら、それはもう "恐れ" だけじゃなくて "憤怒"、つまり怒りの感情が入り込んでると思う」
「確かにな。では、海魔の愛し子にはまだ、それ以外の恐怖があるということか。
恐れと怒りの狭間にあり、海人族のいる海と、人間のいる陸を交差させるもの……」
シェリの言葉に耳を傾けつつも、私は自身の腕にはめられている曾祖母の形見を見つめた。
私が陸から海に持ち込んだ私物はこの形見の腕輪と、ギルから手渡されたヒトデ型の髪飾りだけ。
……ちなみにこの腕輪だが、最近になってアランフォルスがテティスに贈ったものだということが判明してしまった。
(アランフォルス様が贈ったものを肌身離さず着用しているなんて、何だかすっごく変な感じ……)
……いけない、思考が脱線してしまった。
でも、そのおかげか私はあることに気が付いた
「腕輪は私の家が代々受け継いできた、正真正銘テティス様の所有物だった物。
なのに、髪飾りはずっとグッセンスタシューンの王家が保管してた。それはどうしてなのかな」
今までかけらも疑問に思わなかったことが、何故か今さら気になり始めてしまった。
「……ほう。その腕輪がテティスの所有物だったとは初耳だ。ではあの髪飾りも彼女のものか?」
「それは分からないの。ギルは初代愛し子様の紋章が入った指輪も持っていたから、この髪飾りだって他の女神一族の人が購入したり、作ってもらったりしたものかもしれない」
「リリィの神力に耐え、グッセンスタシューンの全土に祝福を飛ばす役割を担えるほどの宝飾品をか?」
……言われてみれば、確かにそうだ。それならばこの髪飾りの最初の持ち主もやはり、テティス自身ということか。
愛し子の神力に耐え得る物ならば、それ以上の神力を持つ者、つまり神ないし女神が所有していた可能性が高い。
……しかし。
今それよりも気になっていることは、シェリが何だかご機嫌斜めだということ。
でも、何となく理由は分かっている。
きっと私が、腕輪と髪飾りは未だ所有しているのに、シェリからいただいた婚約指輪は彼の元へ置いていってしまったからだ。
気まずさが増し、私は思わず話を逸らした。
「しゅ、祝福を飛ばせる装飾品といえば他にもあるよね? 私が借りていた女神の秘宝もそう!」
「ああ。女神の秘宝は愛し子の神力で造られた特別なものだ。この世のどこにも、それを創造できる素材など存在しない。
が、おや?
今までは気が付かなかったが其方の腕輪も何やら見たことがない材質で作られているな」
シェリの眼が私の腕輪を凝視している。せっかく話を逸らしたと言うのに、また舞い戻ってしまった。
「あ、あ〜! えっと、髪飾りの素材は金と
パール、それにホワイト珊瑚だったよ!」
私はアランフォルス本城の自室に保管してある、ヒトデ型髪飾りの特徴をペラペラと話す。
……聞かれているのは腕輪のことなのに。
「なるほど。ではその髪飾りは神力で創造されたのではなく、人の手によって作られたものだ。
で、その腕輪は一体どこの誰からテティス海女神が受け取ったものなのだ?」
シェリの表情がとても怖い。
おそらく、すでに目星が付いているのだろう。降参である。
「……黙っててごめんなさい。実はこの腕輪、アランフォルス様がテティス様に贈ったものらしいの。二人が婚約をした時に」
「やはりな」
「で、でも、ほら。テティス様はその後陸に上がったから、結局アランフォルス様とは結婚しなかったでしょう?
だから腕輪はずっと陸にあって、曾おばあちゃんの一族が受け継いで……」
受け継いだ。曾祖母のご先祖様たちが。
……私の生まれ育った母国に渡った、海魔の愛し子の、妹王女の一族が?
「リリィ、何故他の男が其方の先祖に贈ったものを身につけていて、恋人である俺が贈った指輪は外しているのだ」
夫でも、恋人でもない者から贈られた装飾品を今日まで子孫に受け継がせてきた理由は、
テティスがおそらくその贈り主であるアランフォルスのことを、とても大切に思っていたからだ。
彼女はアランフォルスの実姉である前カリュブディスの親友だった女性。
"我々の父親同士が定めた "婚約" という縛りがなければ、余にとっても、テティスは姉同然の存在だった"
アランフォルスは以前、私にそのようなことを話した。
では、あのヒトデ型の髪飾りは?
髪飾りは曾祖母の腕輪と同様、細部にまで装飾が施されており、宝石が散りばめられている。素人目に見ても分かるほどの、職人技術が光る一級品だ。
……女神であるテティスにそのような髪飾りを贈れる人は、きっとただの一人だけ。
彼女の夫だけだ。
"グッセンスタシューン" の本来の意味は、"神の終着地"。
つまり、改名されたグッセンスタシューン王国の初代国王となった人物。
(腕輪はアランフォルス様から。髪飾りは初代国王様から)
二度と会うことが叶わない、愛おしい弟からの贈呈品は "妹王女" が。
「リリィ、聞いているのか?」
そして、故郷と不老不死を捨ててまで愛し求めた男性から贈られた髪飾りは。
私はお茶を一口、コクリと嚥下した。
すでにそれは冷めていて飲みやすくなっているはずなのに、なかなか喉を流れていかない。
「……リリィ?」
「シェリ。テティスの、あの髪飾りを受け継いだ人はきっと……」
「なあに、この色気のない光景は」
「?!」
するとその時、またもや突然に意図していなかった人物の声が、洞窟の外側から聞こえてきた。
喉をなかなかに流れないでいたお茶が遡り、私はケホケホと咳き込んでしまう。
今日はこんなことばかりである。
「メ、メリドゥーシャ……?!」
「一時間後に来るって言っておいたでしょう?
それにしても何なの? この甘くない空間は。恋人同士、数か月ぶりの再会でしょう?
それがどうしてこんな縁側でお茶なんてすすり合っているのよ。もっとイチャイチャしているかと思っていたのに」
イチャイチャって……
シェリの前で言うのはやめてもらいたい。
あと、メリドゥーシャの後ろに控えている三従士たちの前でも。
彼らがオロオロしているではないか。
「そろそろお話し合いはお開きにしてもよろしくて?
リリアナはあくまで、現時点では海神のご正妃よ。あまり遅くなるとノワル辺りに色々と疑われてしまうわ」
さあ、と言うようにメリドゥーシャが私の方へと手を伸ばしてくる。
祝福を贈り浄化を促す力は、私にはもうない。
それに、海人族の人たちよりも、何十倍も早く私の寿命は尽きてしまう。
それでも、本当はシェリや皆のいるマーレデアム王国に帰りたくて仕方がない。
……でも、私はまだ戻るわけにはいかない。
「……そうだな。次に会えるのは少し先だ。その海神妃が本城の所在を明かしてくれれば
すぐにでも其方に会いにいくのだが」
「リリアナは貴方に本城の場所を言わなかったのね」
「聞けば良かったか」
「いいえ。だってそれはフェアじゃないもの」
メリドゥーシャの青瞳が、シェリを見据えた。
「本城で待っているわ、リリアナの愛しい人。貴方が海魔のことをどのように理解し、どのように決着を付けるのか、実に興味深くてよ。
先に言っておくと、リリアナを連れ戻すために貴方がたが本城を目指していることは、我が主はすでにお見通しのご様子よ」
「ふん。神とはつくづく厄介な者だ」
シェリは私の額に唇を寄せ、「すぐに追いつく」と囁いた後、私の背をそっと、メリドゥーシャの方へと押し出してくれた。
「……シェリ。"また"、話の続きをしようね」
「もちろんだ。なるべく直近でな」
シェリはそう言って穏やかに微笑み、洞窟の外に控えていたホメロスに飛び乗った。
「海神妃よ、此度のこと礼を申し上げる」
「これはあくまで、海、そしてわたくしの愛する夫を救ってくれたリリアナへの恩情のためよ。だから貴方にお礼を言われる筋合いはなくてよ」
「……そうか。リリィがもうしばし、世話になる。よろしく頼む」
シェリはメリドゥーシャに一礼すると、ホメロスと共に静寂な海の中へと紛れていった。
「メリドゥーシャ、ありがとう」
「……いいえ。さて、ピクニックはお開きにして本当に帰るわよ。ノワルがきっと貴女を探しに来ているでしょうから、あの子と鉢合わせしないように戻りましょう」
「うん…… ん? お開きって?」
ピクニックは中止になってしまったのでは?と思ったが、私たちの後ろではお茶と共にお菓子をつまんでくつろいでいる、三従士たちの姿があった。
いつの間に……
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「あらノワル。どちらにお出かけをしたの?」
ノワルが少々額に汗を滲ませ、巡回から帰還すると、すでに本城へと戻ってきていたらしいメリドゥーシャに声をかけられる。
「……メリドゥーシャ様、お帰りなさいませ。随分と遅いご帰宅だったのですね」
「あら嫌だ。帰宅が遅かったのはお前の方でしょう?
楽しかったわ、久々のお外でのピクニック」
「左様ですか。リリアナ様もお部屋に戻られているのですか?」
「ええそうよ。今頃読書でもしているのではなくて?」
「……どなたかに出会われましたか?」
「どなたとはどの方?
ピクニックメンバーはわたくしとリリアナ、それと彼女付き従者の三名だけよ。
お前も知っているでしょう? 送り出してくれたのだから」
「……そうですね。失礼いたしました」
ノワルはメリドゥーシャに腰を折り拝礼すると、彼女の横を通り過ぎていく。
「ノワルは今からどこに向かうつもり?」
「……陸菓子の製造方法を知りたいと申しておられる側妃の方がいらっしゃいますので、リリアナ女神様にお伺いをしようかと。
もちろん、僕一人で部屋を訪ねるわけにはいきませんから、アランフォルス様と共に」
「あら、それならわたくしがお供するわ。あの美味なお菓子たちには興味があってよ」
「貴女様と彼女は、つい先程までご一緒だったはずでは?」
「ピクニックではお菓子の作り方ではなく、美容の話に花を咲かせていたものだから。
リリアナの話は興味深いことが多くて飽きないのよ」
だからわたくしも付いて行くわよ、とでも言うように、メリドゥーシャはノワルの前を進み出す。
ノワルは少し疲れたように息を吐いた。
「ふん、そのため息は一体何かしら?
まあいいわ。ちょうどわたくしも、お前に "相談事" があったのよ。
久方ぶりに、少し姉弟のおしゃべりをしてみるのも良いのではなくて?
ここからリリアナのお部屋まで、まだ少し
距離があるでしょう?」
メリドゥーシャはノワルの方を振り返り、片側の口角を上げてみせた。
それを見やり、ノワルは少し不審そうな顔になる。
「ゴミ以下の僕に相談事など、一体何なのですか」
「全く、皮肉っぽく育ってしまったわね。せっかく生かされたその命、もう少し有意義に使えないのかしら?」
「相変わらず辛辣なことで」
最初からビリビリと火花を散らしながらも、二人は肩を並べ、リリィの部屋を目指したのだった。
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(すっかり遅くなってしまったが、何とか今日中には野営地へ戻れそうだ)
リリィと別れた後、シェリは海人騎兵団が待機している場所へとホメロスを走り泳がせる。
「すまんなホメロス。お前も疲れただろう」
キュキュキュ!
「……いや、そうでもないか?」
ホメロスの泳ぐスピードが騎兵団一なのは周知の事実。
だがそれを抜きにしても、海魔族の後を追って海神妃の元へと急いた往路より、むしろ現在の方が力が有り余っているように見える。
「リリィの菓子には魔法でもかかっていたか?」
いや、原因は菓子ではない。理由はもっと明白だ。
リリィとの再会、そして彼女がホメロスのことを優しく撫でてくれたから。
うむ、これに尽きる。
「お前といいベルたちといい。皆本当に、リリィのことを慕っているのだな」
シェリはホメロスの肌を優しくひと撫でする。
「リリィは直に戻ってくる。心配はいらん」
此度リリィに会うまで、己とて全く不安がなかったかと問われればすぐには反論出来ないだろう。
もちろん、必ず連れ戻すという意思のもと、この数か月を奔走していたのは言うまでもない。
しかし、リリィの直進的かつなかなかに頑固な性格はもうこれ以上なく知り尽くしている
ため、もし無事に再会を果たすことが叶っても、彼女の強固な責任感が壁となる可能性も十分に考えていた。
でも結果として、今回もリリィと己はその壁を取り除くことが出来たのだろう。
例え、恋人に泣いて縋る、という無様な姿を晒すことになろうとも、彼女を諦めるという選択肢が自身の中には微塵もなかった。
今後も互いの意見に相違が生じたとしても、それはそれで良しとすら思える。
違いを受け入れ、ただ歩み寄ることをやめなければいいだけの話なのだ。
「あ! やぁーっとシェリが帰ってきた! 遅ーいっ」
「お疲れ様、シェリ。リリアナ様は、元気だったかい?」
シェリの表情を見て現状を察したのか、ユーリとナプティムウトがほっと息をつく。
「ただ今戻りました、兄上。
ユーリ、指揮を任せてすまなかった。皆に変わりはないか?」
シェリが騎兵団員たちを見渡すと、彼らはすぐさま、シェリに向かい跪く。
「お帰りなさいませ! あーっ、戻られてほんっと良かった。
リリアナ様は? あいつらにイビられたりしてませんでした?!」
「ご無事で何よりです、団長。リリアナ様のご様子はいかがでしたか?」
「団長、本当によくお戻り下さいました。リリアナ様の状況を、我々にもどうかお聞かせ下さい」
部隊長であるヒューマ、エルゴ、そしてオルフェスの三人がそう言葉を紡いだ。
「リリアナ女神様にはまだまだご指導いただきたいことが多くございます。一刻も早く、皆の待つ我がマーレデアム王国へとお戻りいただきたい」
ネレオもそう話しつつ、
「リリアナ様の作って下さる飯がまた食いたいです。俺、締切に間に合わないって、リリアナ様と互いに青ざめながらこなす書類仕事が実は大好きなんです!」
と言うマルフェスを、呆れた様子で見ている。
シェリはそんな騎兵団員たちの様子に苦笑しながらも、終始穏やかな表情を崩さなかった。
すると、そんなシェリの肩をユーリがガシッと掴んできた。
「シェーリ! 帰ってきてすぐで悪いけど、もう出発したい。僕も早くリリィに会いたいし!」
「ユーリ、そうしたいのは俺も山々だが、皆に伝えなければならないことがある。
リリィが教示してくれた、海魔との戦闘方法とその本質についてをな」
「戦闘方法? それってリリィが考えたの?」
「いや、違う。分析したのはシリスハムだそうだ」
「……ははっ、さっすが元部隊長。僕たちが海魔と交戦してる時にそんなこと見極めてたんだ。
……ほんと、抜かりないんだから」
ぐっと握りしめられたユーリの拳が、シェリの眼に映る。
「シリスハムは部隊長を務めていた時も、軍師的な役割を担うことがあったからね。
……肉体はもうなくとも、彼は立派な騎兵団員だよ」
シェリの横に並び立ったナプティムウトが思いを馳せるようそう言葉にする。
「……シリスハムに良いところを持って行かれたままですからね。俺もあいつには負けていられません」
辺りはもう真っ暗になっているというのに、海中に漂う水泡だけは、相変わらずキラキラ、コポコポと優雅に舞っている。
「夜明けと共に、この野営地を出発し、カリュブディスの本城を再び目指すとしよう。
今から手短に、リリアナ様がシリスハムから預かっていた言伝を皆に伝える。どうか聞いてくれ」
静かなる夜の海にも、シェリの迷いのない声だけは溶けていかなかった。




