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8. 偽りの恋敵は愛の味方?



「メリドゥーシャ、遅いね。本当に海上まで行っちゃったのかな……」




「男に会いに行く」と言ったまま、メリドゥーシャはなかなか洞窟に戻って来ない。



「何かあったのかな」




さすがに心配になり始め、ふと以前にユーリが海賊船に捕まった時のこと (ギルだったけど)を思い出してしまった。




『メガミ、ダイジョウブ。メリドゥーシャサマ シヌホド ツヨイ』


『セイレーンハ イニシエノ ウミノ マモノ ダカラ』


『……ホンキノ メリドゥーシャサマ アルジヨリ コワイ……』




……確かに。初対面の時に、私の首元を噛んできた彼女の表情を思い出す。



「何事もなかったらいいんだけど……」




私たちは洞窟の入り口辺りに腰掛け、メリドゥーシャの帰りを皆で待つことにした。




------




「本当に来たのね。でも残念ながら、アランフォルス様の本城はここではなくってよ。


わたくしとて海神妃の一人。寝首をかかれそうな相手に、我が主の居場所など当然お教えしないわ」



「俺は海神の城を攻めるつもりも、寝首をかくつもりもない。


女神の愛し子の在処ありかを尋ねに貴様の元へ来たまで」




シェリは騎兵団員たちの元を離れた後、海魔族の案内を受け、マーレデアム王国ではあまり見ない海底山脈付近まで来ていた。


そして今、空気は澄んでいるが、薄暗く、禍々《まがまが》しい雰囲気のこの場で、どこかノワルに似た容姿を持つ海神の妃だという女と対面している。




「ふふ。もし本当に、不老不死であらせられるアランフォルス様の命を狙っていたのだとしたらとんだ大馬鹿者でしょうけれど。


まあ、あの聡いご正妃の元婚約者ですもの。そんな浅はかな男だとは思いたくなくてよ」



「……貴様はどこまでリリィのことを知っているのか」




シェリの長槍を握る手に、思わず力がこもる。



「あら。わたくしと彼女は同僚、もとい同じ主に仕える恋敵でしてよ?

当然、その存在を知っているわ」



「リリィはどこだ」



「もちろん、普段はアランフォルス様と共にいらっしゃるわ。


神力を失っても、ご正妃はとても丁重な扱いを受けているから安心なさいな。


最近は城の者たちとも打ち解けて馴染んでいてよ」



「……もう一度言う。リリィはどこだ。あの娘は俺の妻になる者だ」



「彼女の寿命をご存知ないの? あと数十年しか生きられないそうよ」



「だから何だというのだ。数十年の命も、数千年の命も、同じ尊い命に変わりはない」



「……貴方は時期国王だそうね。もし運良くご正妃と結ばれても、彼女がはかなくなれば、また次の妻を娶ることになるでしょう?


貴方の立場なら当然、彼女の他にも多くの妃を取らねばならない」



「マーレデアム王国は代々一夫一婦制。例え国王であってもだ。


そもそも、そんなものがなくとも俺はリリィしかいらん。

……万が一。彼女が先に天に召されることになっても、俺の後の人生でそれが変わることはない」



「そんなことは無理ではなくて? お子がいなくては後継に響く」



「有難いことに、俺には優秀な姉兄がいる。


彼らのどちらかの子孫が俺の後を継いでくれるだろうが、もしそれが叶わぬ時は我が民が新たな国王を選出する」



「王としての責任を逃れるつもりなのかしら?」



「聞き捨てならんな。王国は国王一人が支え切れるほど小さきものではない。一人の者で成り立つ国など、この世にはどこにも存在しない。


皆それぞれがあらゆる方法で、あらゆる方面で、自身の渾身こんしんの力を込めて国という支柱を支えているのだ。


もちろん、その中枢となるべき存在は国王だが、その周りには常に同志たちがいてくれる」




メリドゥーシャの青い瞳には、微塵もひるむ様子を見せないシェリの姿が映し出されていた。



「……貴方は家人やお仲間をとても信頼しているというのね。幸せなことだこと」



「ああ。俺はこの上なく恵まれている」



「ふん…… 上部だけ取り繕った論を言おうものなら、貴方のその肉を食らってやろうかと思っていたけれど。


見目は色男なのに芯はしっかりしているわね、坊や。

……貴方なら信じてみてもいいかしら」



「……どういうことだ」



「そのままの意味よ。この場の先に、その答えが在るわ」


「答え?」



「いらっしゃい、海人族の王子よ。わたくしが案内するわ。


しっかりとその眼を開けて、ご自分で確かめなさいな」





------




「ねえ、みんな。やっぱり何か変じゃない?

メリドゥーシャ、今思えば何か思い詰めたような表情をしてた気もするし。私、ちょっと外に出て探してくるよ」




メリドゥーシャがこの洞窟を離れてから、もう軽く一時間は過ぎている。さすがに遅いのではないだろうか。


   

『メガミ オレタチガ ミテクル カラ ココデ マッテロ』


『……メガミハ ココ デタラ ダメ』


『メガミ。メリドゥーシャサマ ハ キット 

ダイジョウブ』




一人オロオロと洞窟内を歩き回っていた私のことを、三従士たちがやんわりと制する。



『ソレニ ダンダン "オト" ガ チカヅイテキテル』



「音?」



『 "オビレ" ヲ ユラス オトガ "フタツ" 』




私の耳には何の音も聞こえないのだが、その "尾びれ" というのは、もしやメリドゥーシャのものだろうか。

でも "二つ" って一体……





「ふう、ただ今帰ったわ。遅くなってごめんなさいね」



「?! メリドゥーシャ!」




やはり。洞窟の入り口から、ひょっこりと顔を覗かせたのはメリドゥーシャだった。



「遅いよメリドゥーシャ! すっごく心配したんだから!」




私は洞窟にスルリと入ってきた彼女の元へと駆け寄った。



「ごめんなさいね、リリアナ。でも、おかげで目的は達成出来たわ」



「目的って、何の?

でも、ほんとに心配したんだよ。怪我とかはない? 大丈夫?」



「大袈裟ねぇ、大丈夫よ。男に会いに行って、すみから隅まで確かめてきただけよ。


本当に貴女に相応しいかどうかを」



「相応しいって…… 一体何のこと?」



「彼ならまあ合格よ。やはり貴女が選んだだけあるわ」




さあ、とメリドゥーシャに手を引かれ、私は洞窟の入り口へと立った。






「…………どうして」




そして途端に、その外側の光景を目の当たりにした私の手が、足が、全身が震え出した。



力が抜け、立っていられなくて、思わず膝を崩しそうになってしまった私のことを、三従士たちが慌てて支えてくれる。




「……リリィ」




私の瞳に飛び込んできたのは、今でも夢に見るほど焦がれてやまない、群青の髪に金の瞳を持つ、とても美しい海人騎兵だった。



呆然と彼を見つめるしか出来ないでいる私の隣で、メリドゥーシャが彼に向かい、言葉をかける。



「こちらへいらっしゃいな、海人族の王子。

時間がないから一時間だけよ。


せいぜいお二人で、感動の再会でも噛み締め合ってちょうだい」




メリドゥーシャがそう言うと、彼は巨大なカルカロドン・カルカリアスに跨り、私たちのいる洞窟の方へと近付いてくる。


……もう一つの尾びれの音は、ホメロスのものだったのだ。




私はメリドゥーシャの手をぎゅっと握りながら、彼女への質問と自身への独り言を繰り返す。



「シェリ、どうして…… ほ、本物……?


メリデューシャ。メリデューシャ、これってどういう、一体どういうこと?!」



「貴女への一つ目の恩返し、といったところかしら」


「恩? 恩って何の恩? この前作った陸のお菓子の?」



「落ち着きなさいな。

あら、あの鮫は随分と泳ぎが速いわね」




平然と前を向いて淡々と言葉を返してくるメリドゥーシャの横顔を、私はじっと眉をひそめて見やった。




本当に、一体、どういうこと?


メリドゥーシャにとっては夫の敵に当たるはずのシェリの登場。

しかし、何故だか彼女は落ち着き払っている。


というか、彼のことをここまで連れてきたのは、もしや彼女?




"男に会いに行く" とは、まさかのまさか。

今度は私がメリドゥーシャの手をぐいと引き、彼女の顔を覗き込む。



「説明して!」


「残念。説明したいのは山々なのだけれど、

王子様がもうご到着よ」




ほら、とメリドゥーシャが洞窟の外を手のひらで指したと同時に、私の視界からは彼女の姿が消えた。



代わりに、私の眼にはよく見知った海人騎兵団の制服と青い肌が映っていた。




洞窟へと到着したシェリが、私のことを抱きしめたからだ。




「…………シェリ」


「…………」




彼は何も話さない。

話さないけれど、私を抱く腕がどんどん強くなっていくことも、そして、その腕が震えていることも十分に分かる。






「……全く、羨ましいわ。お互いにただの一人だけ。これほどにまで強く引き合える貴方たちが」




メリドゥーシャは一時間後にまた来ると言い残し、三従士を連れて洞窟の外へと出ていってしまった。




洞窟内に残されたのは、私たち二人だけだ。




「……シェリ。シェリ、どうしてここにいるの? マーレデアム王国は? 他の、みんなは?」




シェリの顔を見てしまわないよう、私は視線を下方へと向け、そう問いた。

目が合えば、その瞬間に涙が止まらなくなることが分かっているからだ。


私は唇をきつく噛みながら、彼の胸を押し返す。しかし。



「……何故」




シェリの口から漏れた声は、ささやかで、消え入りそうで、今にも壊れてしまいそうなほどにもろく感じられた。



「何故、リリィはいつもいつも、俺から離れようとする。


どんなに約束を交わしても、何故、其方はいなくなる。



何故だリリィ。俺は、そんなに頼りないか」




シェリが私の頬に手を添え、額に自身のものを合わせた。


彼の瞳から溢れ出ている生暖かい純水が、私のまぶたに落ちてくる。




…………ああ。どうして私はいつも、この人を悲しませてしまうのだろう。




世界一大切な人をただ守りたいだけなのに、どうしていつもいつも、私はこの人を苦しめることしか出来ていないのだろう。



何故、ただ寄り添うだけのことが未だ出来ないでいるのだろう。



本当は彼に伝えたいことが山ほどある。

でも、今の私にはそれが許されない。




「何か言ってくれ、リリィ」




以前、愛する人と同じ時代に生まれ、共に悠久の時間を歩めることは奇跡だと思ったことがあった。



本当にその通りだ。

今までの私の人生は、奇跡だったのだ。



二つの涙が私の頬で合わさり、一つに溶けていく。


この雫たちのように溶けて、溶けて一つになれば、永遠に共にいられるというのに。




「……シェリ。いつも約束を破ってばかりでごめんなさい。あなたから逃げてごめんなさい。


臆病者で、自信がなくて、あなたが差し伸べてくれる手を取る勇気がなくて、あなたを傷つけてばかりいて、本当にごめんなさい」




出てくる言葉は謝罪と、



「私、この先誰とも結婚しないって約束する。


先におばあちゃんになっちゃっても、ずっとシェリだけ好きでいる。

死んじゃった後は、空からシェリのこと見てる」




罪滅ぼしの言霊ことだまだけ。


私はシェリの背に手を回し、彼のことを思い切り抱きしめた。



「もしも、また生まれ変わることが出来たら

次は貴方と同じ時間を生きたい。

人間でもいいし、海人族でもいい。魔物でもいいよ。


シェリと一緒にいられるなら、何だっていい」




私がそう言葉を放った途端、シェリが私を自身の身体から乱暴に引き離す。

そして、今度は痛いくらいに両の腕を掴まれた。



「いい加減にしろリリィ!! 其方は何も分かっていない。   


何が共に生きられないだ?

何故其方はもう来世の話をする?

今! リリィと俺は同じ時代に生きていて、今後もそれは続くだろう?!



それとも何だ?

其方の残りの人生に俺は必要ないとでも?」



「……っそんなこと一言も言ってない!


私が人間の寿命に戻ったの、シェリも知ってるでしょう? だからあと100年もしないうちに、私死んじゃうんだよ!」



「だから何だ」


「だから何だって、何よ……!

私、すぐにおばあちゃんになっちゃうの!」


「白髪のリリィも良いな」



「ふざけないで!」


「全くふざけてなどいない。


顔に皺を作って笑うリリィも最高に美しいだろうし、俺はそれを隣で見る権利があると思うが?


妻になってもらう約束をしているからな」




シェリはまるで私のことを逃すまいとでもいうように、さらに両手のひらに力を込めてくる。



「……っシェリ、腕痛い」


「痛くとも離してやるわけにはいかん。


頑固な婚約者殿が別れ前提の勝手な言い分ばかりを並べるものだから、今回ばかりは俺も少々腹を立てている。



……自分にな」




シェリは私の腕を掴んだまま、まるで獲物に噛み付くよう己の唇を私のものへと強く押し当てた。


私の唇を喰むことを繰り返しながらも、彼は話を続ける。



「リリィが臆病で、自信も勇気もないのは最初からずっと知っている。

民や皆を不安にさせないよう、自分自身を騙し続けて強く在ろうとしていることも。


俺が不甲斐ないせいで、其方に辛抱な思いばかりさせていることも、嫌というほど分かっている。



でも、リリィを手放すという選択肢は俺には一生ない。其方が逃げればどこまででも追いかけて捕まえる。


俺は其方の気持ちをんで自身の渇望かつぼうを押し殺せるほど出来た偉人ではない。



……愛した女とただ一緒に生きていきたいだけの、普通の男だ」



そう言って、シェリは一度唇を離した後、今度は触れるだけの優しいキスを私に落とした。




「俺と結婚してくれ、リリィ。

其方の人生全てを守らせて欲しい。


代わりに、俺の残りの人生も全て其方がもらってくれ。心も身も何もかも、全部丸ごとリリィのものだ。返品は受け付けんぞ」




シェリの手のひらにやっと腕を解放される。

しかし、今度は私の頬がそれの餌食となってしまった。


むに、と少しばかり強く押し潰され、私の両頬が中央に寄る。


いつものごとく意地悪な笑みを浮かべたシェリと目が合った。

彼の頬を伝っていた涙は、もうすっかり乾いたようだ。




「……私のこと、シェリが看取ってくれるってこと?」




シェリは未だ、私の頬を押したり引いたりしている。



「そういうことになる」


「……シェリのことは誰が看取るの?」


「もちろんリリィだ」




……どうやって? とは、もう聞くまい。




「リリィ。俺たちは今、同じ時代を、同じ時間を間違いなく共にしている。

長くても短くても、その事実に何ら変わりはない。


いつの日かこの肉体が滅び、例え魂だけになったとしても、俺たちはずっと共に在る」




私の両眼からは相変わらずずっと涙が溢れ出ていてシェリの手を濡らしてはいるが、それがもう痛みを含んだ哀しいものではないことは分かる。


何故なら、シェリの美しい金の瞳には、頬を押しつぶされ、まるで "河豚ふぐ" のようになっている何とも滑稽な自身の姿が映し出されているから。




「……ふ、あはは……!」



思わず吹き出してしまったほどに。



「リリィは何故、こうも簡単なことを100倍も1000倍も難しく考えてしまうものなのか」



「……とても反省してます」


「当たり前だ。王国中が其方の帰りを今か今かと待っているのだぞ。早く戻って安心させてやってくれ。


……皆、リリィがリリィでいてくれるだけで、それだけで心が救われているのだ」



「……嬉しいね」




マーレデアム王国民の温かい笑顔たちが脳裏に浮かぶ。



「このまま其方を王国に連れ帰りたいのは山々だが、国王陛下と守護者たちに仰せつかっていることもあるからな。


俺もリリィと共に、海神の城へ向かう」



「えっ?! 一人はさすがにダメだよ。

アランフォルス様は王族のシェリのことすごく目の敵にしてるし、海魔だって近くにいるんだから」




王家の血筋といえば、ナプティムウトも同様。先日もかなり酷い攻撃を喰らっていたはずだ。



「……そう言えば、兄上が言っていた。


海魔と海人騎兵団との戦闘を、シリスハムが客観的視点から分析を行っていたと。


さらに、その導き出した見解を証明するかのごとく、あやつはたった一人で海魔の急所に一撃を喰らわせたということも」




シェリは私の頬に当てていた片方の手を自身の顎へと添え、考える素振りをする。




海魔、もといヒュドラーのことを、シェリに話すべきは、今だ。




「……シェリ。実は私、シリスハム様からシェリへの言伝ことづてを預かってたの。

ヒュドラー との交戦方法と、彼が見つけ出したヒュドラー の弱点。


あと、これはメリドゥーシャ…… さっき私たちと話していたアランフォルス様のお妃に聞いた話だけど、ヒュドラー には "九つの感情" が備わっているんだって」




私は頬に触れている方の彼の手背に、自身の手のひらを重ね合わせる。



「それでね。私は、その人格に隠されたヒュドラーの本質を知ることこそが、"海魔の愛し子" を解放する糸口に繋がるんじゃないかって思ってる」




そう言葉を紡ぐと、今度はシェリの手背がくるりと裏返り、彼の長い指がそれに重なる私の指を絡め取った。



このように互いに恋人をいつくしむ一方。



「リリィ。詳しく聞かせてくれるか」


「うん。長くなりそうだから座って話さない?」




同じ志を持つ者同士として、見事にパディを成立させてしまう私たち。



愛情と共闘。

茨の道を共に歩むならば、まずはこの第一歩からだ。





"眠れ、眠れ、我の愛しい子


母なる海がお前を守り、

父なる海がお前を導く


海神ウミカミやここにいる

海神ウミカミや共に在る


眠れ、眠れ

我の愛し子"





昔、幼い頃に曾祖母や母が歌ってくれていた子守唄があった。


……この唄はおそらく一般的ではなく、私たち一族だけが知っている子守唄だと思う。



昔は何となしにその唄を聞くばかりで、その歌詞の意味など考えたこともなかった。




しかし、今ならば十分に理解できる。


"海女神一族" である私たちにとって、海とは祖国そのものであり、

そして海神や海女神といった、"ウミカミ" の加護を受けながら今日まで生きながらえて来たのだということが。



だが、それは裏を返せば、

人間、海人族、神という本来交わることのないトライングルの囲いの中に、"女神の愛し子 たち" は未だ囚われたままだ、ということなのかもしれない。




……でも、幸いなことに、私には愛する恋人がいる。頼もしい海陸の仲間たちがいる。


つまり、そのトライアングルから抜け出させるため、あるいはその場を居心地の良い空間へと変えるため、手助けをしてくれる人たちがいるのだ。



海魔の愛し子と私。その紙一重の差は、きっとそれにある。

そして、その事実があまりに悲しい。彼女には、頼れる人がいなかったのだから。




海魔の愛し子が2000年の寿命を終える日が刻一刻と、もうすぐそこまで追いついて来ている。


きっと次の再会が、彼女と過ごせる最後の時間となるだろう。





「シェリ。ヒュドラー …… 海魔の愛し子の心内を占めているのは、きっと "恐怖" の感情なんだよ」




願わくば、彼女が永遠の眠りについてしまう前に、どうかその心に寄り添えるように。




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