4. 海魔の愛し子
第四章 『海女神の娘たち編』
「兄上、執務室をご提供いただきありがとうございます」
「構わないよ。ユーリもギルも、国王陛下の執務室だと緊張するだろうし、かと言って来賓室だと使用人たちの目に入ってしまうからね」
シェリが国王に向け、改めて心内を明白にしてから一週間ほどが経った今日。
現在、このナプティムウトの執務室には、シェリ、ユーリ、ギルが訪れていた。
「ったく、あれほど周りを頼れと言い聞かせておいたってのに。
リリアナのやつ、また一人で全部背負い込みやがって」
執務室に、ギルの苛立たし気な声が響く。
「リリアナ様はいつも突然に選択を迫られてしまうから、自分を犠牲にする方法しか選べないんだ。
そう言うギルにも、心当たりはあるんじゃないのかい?」
「まあ、過去には俺もリリアナを追い詰めたことがあるのは認める」
「…………貴様」
怒気オーラを放ちながらゆらりと立ち上がったシェリに、ギルが「何だ、やるか?」と対峙しようとする。が、
「止めなさい、二人とも。今日はカリュブディス本城の位置確認を行うこと、それに、"返化薬" の効能について話し合うために集まったんだろう?」
ナプティムウトがそう言って、弟組をやんわりと仲裁し、それぞれの席に座らせた。
渋々席に着くシェリとギルを、ユーリもやれやれと呆れた様子で見ている。
「では、本題に入ろうか。
本城の位置についてはユーリから、返化薬のことはシェリに説明してもらう。
ギルにはリリアナ様がマーレデアム王国に不在だったこの一月間の、海上の様子を報告してほしいんだ」
「「御意」」
「了解」
「ええっと。じゃあまずは本城の予測場所の話から。宰相様、僕から話しちゃっていいですか?」
「お願い出来るかい? ユーリ」
「はい、では早速。
カリュブディスの本城なんだけと、渦潮が多発してる所から場所を特定出来るんじゃないかと思って。
だからそれが頻繁に起こってる場所付近を、イシスや他の鮫たちに頼んで調べてもらったんだ」
ユーリは地図を広げ、皆へと見せる。
「これは海底地理を描いた地図だけど、よく渦潮が起こっている海上から垂直に降りた場所、つまり渦潮直下の海底部分に丸印を付けてってる。
渦潮が起こってる場所はいっぱいあるから印ももちろん多いんだけど、丸印のあるところから内部に向かって線を引いていくと……
ほら、ここが中心部になるわけ。
僕は、この中心部の半径数キロ内に、カリュブディスの本城があると見てるんだ」
「なるほど。それにしてもすげぇな、鮫」
「ふふん。海人騎兵団所属の戦闘鮫魚たちは特別に訓練を受けてるからね。海中にいる他の鮫たちに協力を仰げるのも彼らのおかげだよ」
「ホメロスも完全復帰を果たしたしね。それは本当に喜ばしいことだけれど、ベルのことが少し心配だね」
「ですね。訓練を受けてない上、リリィのことになるとちょっと思考が一直線になっちゃうから。
あの子がホメロスたちと一緒に情報収集にまわるのは心配だったけど、でもそこは何とか上手くやってるようですよ。
ホメロスとイシスと、あとオリオンが交代で彼女の面倒を見てくれてるみたいです」
「……すまんな。皆には迷惑をかける」
「ベルは、シェリがリリィ付きの愛獣にしたんだっけ?
でもベルに助けられたことも正直多いし、あの子なりに必死に主人の役に立とうと頑張ってるのが伝わってくるから、ホメロスたちも見守ってる感じがする」
「そういやあのシロイルカ…… ベルはリリアナがグッセンスタシューンにいる間も、会う度にリリアナに抱きついて甘えてたからな。
あいつがよほど恋しいんだろ」
「……そうか」
シェリが拳にグッと力を込めた。
「ユーリ、ご苦労だった。では次は、俺が返化薬について話そう。まずはこちらを見て欲しい」
シェリは自身の懐から、以前ナプティムウトが薬師たちに作らせた錠剤の返化薬と、今回新たに開発した新薬を取り出し、それらを机上へと並べた。
「シリスハムの血液結果を元にこちらの錠剤に改良を重ねたものが、此度仕上がった液状の薬剤だ。
この薬剤は海魔族となって四月目を迎えたシリスハムの血液を完全分解し、海人族の血液成分とほぼ変わらぬまでに変化させた」
「ええっ! すごいじゃんか!」
「いや、シリスハムは比較的新しい海魔族だったはずだ。よって、1000年前に海魔族となった者たちに、この新薬の効果が現れるかどうかはまだ分からん。今後も研究を重ねる必要がある。
だが一先ず。罪人塔を抜け出し海魔族となった者らには効き目がありそうだ」
シェリは新薬へと視線を向けながらそう話した。少し、目を据わらせて。
罪人たちが、どんな甘い言葉であの塔を抜け出したのかは知らんが、罪人を野放しにするほど騎兵団は腑抜けではない、とその表情が語っている。
「カリュブディスの本城へと到達出来れば1000年前に海魔族となった者たちにも幾人かは接触出来るはずだからね。その機会を逃さないようにしたい」
「はい。その者の血液が少量でも手に入れば、研究はぐんとやり易くなりますから」
「おめぇは血が好きだなラドシェリム……」
「おい、人聞きの悪いことを言うな。我が王国の定めとして、新薬の開発時に人体での実験はご法度。そのため血液、ないし体液を使って改良を重ねるのは当然のことだ」
「いや、まあその通りだけどな……」
ギルが思い出しているのは、あの女神の秘薬 "もどき" 。あの薬剤もギルの血液から作られたものである。
「俺からは以上です、兄上」
「二人ともありがとう。
……あと、シェリ。父上から聞いたよ。
王族と海魔の関係と女神の愛し子の真実を、マーレデアム王国の民らに向けて全て話すと決めたって」
ナプティムウトのその言葉に、ユーリとギルがぎょっとしたようにシェリを見やった。
「はい、いつかは民に話さなければと思っていたのです。愛し子と海魔の関係、それと我々王族の過去の愚行についてを。
リリィに相談せずに発して良いのかも悩みましたが、彼女なら同意してくれると、そう思いますから」
シェリは、自身の鮫笛紐に括り付けられたリリィの婚約指輪へと眼を移す。
「……しょうがないなぁ。シェリ、みんなに話す時は、元恋人の僕が手握っててあげるからね!」
「……絶対にいらん」
「へぇ、なるほどな。お前らどっか怪しい雰囲気 醸し出してんなとは思ってたが、やっぱデキてたのか」
「殺すぞ、ギルストロン」
「……ふふ」
軽口を叩くユーリとギルと、その二人に淡々と言葉を返すシェリたち三人を見やり、ナプティムウトが穏やかに笑む。
「では、シェリとユーリが恋人同士だと誤解されないように、一刻も早くリリアナ様には戻って来ていただかなくてはね」
「全くもってその通りです」
シェリが目を伏せ、拳に力を込める。
ギルはその様子を見ながら再び口を開いた。
「なあ、ラドシェリム。そのリリアナがいねえってのに、このマーレデアム王国が前と変わらず澄んでるように見えるのは、あのカリュブディスがこの王国に対しても一先ずはちゃんと祝福を行なってやがる、ってことで合ってるか?」
「ああ。我々海人族を憎んでいるはずなのにこれほどに祝福を寄越しているのは、あの男がリリィとそういう契約を結んだからだ。
兄上の話によると、リリィが神力を預ける際に、マーレデアム王国にも絶えず祝福を与え続けるようにと合意させたようだ」
「……さすがリリアナだ。土壇場だろうがしっかりしてやがるぜ。
で、俺からの報告はこの一月の間の、海上の状態だったな。
もちろん、祝福はグッセンスタシューンにも届いてるぜ。漁師たちは海に出れるし、港町は前みたいに活気も取り戻した。
だから正直、リリアナが俺たちと同じ人間の寿命に戻ったんなら、グッセンスタシューンに来ればいいとすら思った。
カリュブディスんとこで窮屈な思いしてんなら、グッセンスタシューン城でのんびり過ごさせる方がずっといいだろ。
……でも、それはあいつが望まない。解決してねえことがあるだろうから、陸にも戻って来ねえ」
「……それは、海魔のことか」
「ご明察。前愛し子が海魔になったのはリリアナのせいでもなんでもねえってのに、ずっと気に病んでやがった」
シェリはギルの言葉に口を結んだ。
リリィの性格は、もう皆が把握している。
何でも一人で抱え込む性分も、十分に理解している。
「ならば、こちらから出向くまでだ」
リリィが帰れないと思うのなら、此方から迎えに行けば良い。彼女が向き合おうとしている事態に、己たちも向かえば良いのだ。
「我々の女神の愛し子はリリィだけだ。必ず取り戻す」
リリィの指輪に手をやり、それをぐっと握りしめた後、シェリはそう言葉を紡いだ。
「だね。リリィがマーレデアム王国にもグッセンスタシューン王国にも帰れないって思ってるなら、こっちから迎えに行かなきゃでしょ」
「たりめーだ。俺も行くぜ」
「ちょっと、いくらなんでもギルは無理でしょ? 君は秘薬を使ったって三時間しか海の中にいれないし。
カリュブディスの別城すら、ここからだと片道六時間強かかったんだ。僕が予測した本城の方は、おそらくその倍以上だよ」
「時間なんて、そんなことは知ったこっちゃねえな。
まあ、秘薬はここぞの時にとっておきてえから、俺の取り敢えずの移動は海上だ。
城は大臣らに任せて、俺は一週間ほど暇を取る」
「……王様になっても相変わらず自由だね。というか、ギル一人で船を動かすのはさすがに反対されると思うよ。仮にも国王なんだし」
「一人では行かねえよ。俺には海賊時代の優秀な部下らがいるからな。
あとはリリアナ付きの二人組が、毎日毎日辛気くせえ顔しながら、やれリリアナは元気なのか、不自由してないかなんとか言って詰め寄ってきやがる。
ちなみに一人は腕利きの守役。もう一人は跳ねっ返りの侍女だ。こいつらは黙ってても勝手に付いてくるだろうよ」
ギルは、エマの孤児院と学校側には休暇届を出して、船旅の間は俺が勉強を教えるしかねえな、等とぶつぶつ言いながら頭をガシガシとかいている。
「……相変わらず、頼もしい者たちだな。
では、決まりだ。リリィ奪還に向けて、今日はとことん話し合いを進めるとしようか」
どこか挑むような笑みを浮かべ首を縦に振るユーリとギル、そして穏やかに頷くナプティムウト。
彼らは騎兵団と海賊たちの海陸両方からの進行ルートを確認するため、机上にある地図へと再び眼を移したのだった。
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「ちょっと貴女、その顔貸していただけるかしら」
場所は変わり、ここはカリュブディスの本城。
昨日予測なしに河豚毒を摂取し、倒れてしまった私は、念のためもう一日大事を取るようにとアランフォルスに強く言われていたため、朝食後は部屋で大人しく読書をして過ごしていた。
扉がノックされ、ルビだとばかり思っていた私は、「どうぞ」と声をかけたが、
「……私に何かご用でしょうか?」
「何って、病み上がりの弱った姿を見に来てやったのよ。
わたくしの言った通り、貴女は死ななかったでしょう?」
ノックの主は、毒歯を立ててきたあのリーダー格の側妃だった。
私は思わず、警戒体制に入る。
部屋には私の他にパルとメノウがいた。彼らは側妃が現れるや否や、身体を震わせながらも私を隠すようにしてその両手を広げた。
「あと、貴女が知りたい情報は、実はわたくしが握っているのではないかと思って。それをわざわざ教えに来てあげたのよ」
「……どういうことですか?」
「貴女、"海魔" について知りたいのではなくて?」
「?! ど、どうして……!」
「あら、図星だったかしら?」
側妃はクスクスと艶やかに笑みながら、部屋にあるダイニングチェアへと腰掛けている。
「わたくし、アランフォルス様の元には2000年以上前から嫁いでいるの。
だから、"海魔の愛し子" のことはもちろん知っているし、実際に会ったこともあるわ。
2000年も前のことだし、正直貴女を見るまでその姿を思い出さなかったけれど、貴女を見れば見るほど記憶が蘇るわね。本当に瓜二つよ。
貴女と海魔は確か、共にテティス女神様のご子孫なのよね?」
私の顳顬から、ヒヤリとした汗が流れる。
この側妃は一体何を知っているのか。何のために、海魔の愛し子のことを私に話そうとしているのか。
私はパルとメノウを後ろに下がらせ、チェアに座る彼女の前へと足を運んだ。
「……正直、知りたいです。出来るなら前愛し子様がその生を終えられる前に、心を解放したいと思っています」
……だが、言ってしまった。
全くもって信頼できる相手ではないはずなのに、まるで誘導尋問を受けているかのように
彼女へと言葉を返してしまった。
私は側妃の次の言葉を静かに待つ。
「……いいでしょう、教えてあげるわ。
貴女、人には九つの感性、ないしはそれに伴う劣等感情を持っているという理論話はご存知かしら?」
「九つの劣等感情……? "七つの大罪" のことなら何となくは知っていますけど……」
人には七つの悪い感情が存在するという話なら、私も聞いたことがある。
「わたくしは罪の話などしていないわ。人格論についていっているの」
「人格論?」
「ええ、そうよ。人には九つに分類される感情を持ち合わせている、という理論よ」
側妃は続けた。
彼女の話によると、人には【憤怒・傲慢・欺瞞・嫉妬・強欲・恐怖・暴食・邪淫・怠惰】という、九つの感情に囚われる傾向があるという。
"七つの大罪" と何処か似たり寄ったりな話だが、彼女によると違う点が二つあるそうだ。
「九つの感情論をタイプ別に分けると、欺瞞、ないし恐怖が抜けているの。
欺瞞…… つまり上部だけの虚栄、そして何かに対する恐れ、そのどちらかが存外、人の中枢にあったりするもの、ということかしら。
賢い貴女なら、この意味は理解出来得て?」
九つの感情? 九つの人格?
この話は初耳だ。
……でも。"9” という数字だけは、ここ最近ずっと考えている人物と関係がある。
それは言わずもがな、"ヒュドラー " である。
そう呼ばれていた海魔は、確かに九つの首を
持っていた。
……もしかして。
「あなたがわざわざ、そんな話を私にしたということは、それは海魔…… ヒュドラーの首には前愛し子様の感情が、それぞれ当てはめられている、ということですか?」
「その通り、ご名答よ」
"九つある首のうち、恐らくは中心に位置する首が主軸。その首を滅することが、海魔討伐の要となるはず。
あの首だけは他の八つのそれとは違い、どこか戦闘に "怯えている" ように感じました"
もし、シリスハムの残した言葉がそれに当てはまるのだとしたら。
「軸首が隠し持つのは、"恐怖" の感情……?」
海魔の心に渦巻くたくさんの感情。その中心にあるものが、もし "恐怖" だというのなら。
その対象が、旧グッセンスタシューン王国を滅亡させた "人間" と、海魔の愛し子を追い詰めてしまった "海人族" であるなら。
その中心的立場にいる "私と彼" こそが、彼女を鎮める鍵になるということ……?
「貴女の決意が固まったら、わたくしが海魔のところへ案内してあげても良くってよ」
「えっ?」
「万が一アランフォルス様にバレたら、もちろんわたくしの命はないでしょうけれど」
「……あなたは、どうして……」
「借りを作りたくないだけよ」
「借り……?」
「……全く、呆れるくらいのお人好しね。他人のことばかり考えているから、自分のことが疎かになるのよ」
側妃はため息をつきながらそう言い放つ。
私は、そういえば昨日ノワルにも似たようなことを言われたな、と思った。
……それにしても。アランフォルスは彼女たちに、もしや私の神力がなくなった過程を話したのだろうか。
「あと、悪かったわね」
「へ……?」
「毒の件よ。もう何ともないのでしょうけれど」
「ああ……。私のことはもういいです。でも、パルとメノウにはちゃんと謝って下さい」
私は後ろに控えていた二人の姿が側妃から見えるよう、少し立ち場所をずらした。
「……いいわ。
お前たちが愛し子を庇うなんて思いもしなかった。歯向かってくる姿も初めて見たわ。
それほどに、この娘を心から慕っているというのね。傷付けて、申し訳なかったわ」
まさか、謝罪を受けると思っていなかったの
だろう。二人は固まってしまっている。
あまりにも素直な側妃の対応に、謝罪を促した私まで驚いたほど。
「……謝ってくれてありがとう。あなたのお名前を聞いてもいいですか?」
「貴女はわたくしよりも位が上よ。敬語はいらない」
「……あなたの名前を教えて」
「仕方がないからお教えするわ。わたくしは メリデューシャ・セイレーンよ」
「私はリリアナ・マリンクロード。もう知ってるかもしれないけれど。
じゃあ、改めて。
"メリドゥーシャ" 、さっきの話だけど、もっと詳しく聞かせてくれる?」
「ふふ。相変わらず、貴女は全然他者を疑わないのね。もしかすれば嘘の話かもしれなくってよ?
貴女を油断させて、陥れようと企んでいるのかも」
少し意地悪げな笑みを浮かべながら、メリデューシャがそう言う。
「……それはないんじゃないかな?
だってメリドゥーシャたちなら、私に、遠回しに嘘をついて誘き寄せて、なんて面倒なことはしなさそうだもの。
もしまた私を攻撃してくるなら、この前みたいに堂々と正面きってぶつかってきそうだから」
私はメリドゥーシャの青い瞳ををじっと見やった。
「言ってくれるじゃないの。しかもあながち間違っていなくてよ。
……きっとアランフォルス様に対しても、貴女はそのように物おじしないのでしょうね。
彼がご興味を持たれるわけだわ。……ノワルもね」
「……アランフォルス様は面白がってる感じだけど、ノワルは私のこと、あんまりよく思っていないと思うよ」
「……男たちは、この鈍さに惹かれるのかしらねぇ。まあ、いいわ。
では、"リリアナ" 。一先ずはわたくしのお部屋にいらっしゃいな。一人では不安でしょうから、貴女付きのその海魔族たちも一緒に連れて来なさい」
メリドゥーシャはそう言ってダイニングチェアから腰を上げ、優雅に尾ビレをなびかせながら扉の方へと泳いでいく。
さらに、「それと」と彼女は言葉を付け加えた。
「話は海魔のことだけで終わらせないわ。だってわたくしが真にお話したいのは、貴女の "恋人" についての方だもの。
ほら、早く支度なさい。扉の前で待っているから」
彼女はキラリと眼を光らせ、そう言葉を言い残して部屋から出て行ってしまった。
こ、恋人のこと……? うーん……
「私、メリデューシャにシェリの話なんてしたっけ……」
いや、彼女とは昨日が初対面。しかも最悪の出会いを果たしたばかりだ。
「アランフォルス様から何か聞いたのかな。それにしても、まさかの恋バナのお誘いを受けるなんて、昨日の私なら考えられなかった……」
昨日今日の、なかなかの急展開に戸惑いを隠せず、呆然と立ち尽くしている私。
するとやはり、「早くいらっしゃい!」という声が扉の向こう側から聞こえてきた。
そのため、私とパルとメノウは訳の分からないまま慌てて支度をし、彼女の待つ扉外へと急ぐ。
途中でルビのことも拾わなくっちゃ、なんて思い巡らせながら。




