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14. 夫の証・妻の証

第三章 『古の海の魔物編』


(幕間)




「申し訳ございません、閣下。


女神の愛し子とシリスハムを取り逃したのは僕の判断ミスによるもの。言い訳はいたしません」




怒りと焦り。しかし、どこか落ち着きを含んだ声色でそう話すのは、古の海の魔物一族の一人、ノワル・セイレーンである。





ここは王都から何千キロと離れた場所。薄暗く、汚濁した海水だけが辺りを漂う。


この場に太陽の光が差し込むことはない。当然、愛し子の祝福も届いてはいない。



さらに、この荒地の一角には海岩を利用して構築された、一際 禍々《まがまが》しい建造物がそびえている。


どこか古城のようでもあるし、ただの巨大な岩を削って、所々窓に見立てた空気穴を掘っただけ、と言われればそのようにも見える。



その何とも摩訶不思議な建造物ソレの内部にて、ノワルは今、己が敬愛する "主" に対し、リリィ誘拐が失敗に終わったことを報告している。




「良い、まだ時間はある。


して、其方そちから見る此度の愛し子はどのような女か」



……だが。

ノワルにそう答えるのは、このおどろおどろしい場には似ても似付かない、まだ年端としはも行かぬ少年の声。



「姿形も品性も、閣下から聞き及んでいた通りの方です。


異なることは、"テティス女神様ご本人ではない" 、といった点でしょうか」



「 "アキレア" も "アレキサンドラ" も、テティスの生写しのような娘たちだったからのう」



どこか面白がるような少年の声が、そのように言う。



「しかし、姿形がいくら似ていようとも、やはり人の血が混じる魂は別物です。


それに、リリアナ女神様は、初代愛し子様と海魔の愛し子とは全く異なる道を歩もうとしていらっしゃる。



……あの方は海人族の王子を愛し、婚姻の約束までされたとか」



「……ほう?」



少年の眉がピクリと上がった。



「アキレア様は生涯独身を貫かれた。


アレキサンドラ様は…… 閣下もよくご存知かと。


しかし此度降臨された新たな愛し子様は、そのどちらでもありません」



「テティスの血を受け継ぐ者が、あの海底戦争で "カリュブディスを死へと追いやった" 海人族の子孫へ嫁ぐと?」




少年の声が、突如として低く、地を這う男のものへと変化する。



「まさかそんなことになっていようとは、女神の伝承もすたれたものよ。



ノワルよ。必ず愛し子を我が元へ導くが良い。


"あの方" を殺害した忌々しい海人族どものもとに、テティスの祝福など受けさせてはならぬ」




その"男" に向かい、ノワルが深く拝礼をする。



「我が主、カリュブディス閣下の御心のままに。


必ずや女神を貴方様の元へお返しいたしましょう」






------





シェリとの同棲…… もとい、共同生活が始まったばかりの次の日。


何とか初日の大緊張を切り抜けた私だが、翌日は翌日で、今度は大渋滞である。




「リリィっ! ほんっとに良かった、君が無事で……!」


「リリアナ様、ご無事で何よりです。こちらは陛下方からの書簡になります」


「貴方様をこんな目に合わせるなんて……! 本当に許せませんわ!!」


「トリンティア殿下、落ち着いて下さい。お腹の子がびっくりしてしまいますよ」




「…………何故に皆、示し合わせたように翌日には揃うのか」




本日、私たちが借りているこの家には、ユーリ、ナプティムウト、トリンティア、そして家主であるセシルドが来ていた。



「シェリ! リリィの独り占めはダメだよ! 僕だって心配くらいさせてよ」



目をぱちくりとさせていた私の前にユーリが来てくれた。



「ユーリ、ありがとう。あの後、ユーリたちも大丈夫だったの?」


「もちろん。リリィがいなくなった後、すぐにあいつら逃げちゃったから、騎兵団のみんなも無事だよ。


でも、君は肩を怪我してたでしょ? 傷はもう平気なの?」


「うん、グッセンスタシューン王国で手当てしてもらったから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」



「女性の肌に傷を付けるなんて……! 絶対に許さないわ」


「ト、トリンティア様、心配かけてごめんなさい。本当にもう全然痛くないですから」



と、今度はユーリを押し退ける勢いでトリンティアが目前に来てくれた。

なので、私は慌てて軽く左肩を回してみせた。



そして、改めて。私は皆を見渡して言葉をかけた。



「みなさま、今日は来て下さってありがとうございます。


本当はシェリが、みんなを呼んでくれたんでしょう?」



「近々集まりたいと声はかけたが、翌日に集結されるとは予想外だったな。



……だが。ギルストロンが言っていたことも気になっていたのは確かだ。

其方、我々に何か相談したいことがあるのだろう?」



「……うん」




私はシェリと共にお茶の準備をした後、集まってくれた皆に、グッセンスタシューン王国で得たカリュブディスたちの情報を伝えた。



そして。さらに私が考えている、"例の計画" についてのことも。



……だが、案の定。




「絶対に、だめだ」


「そうだよ! リリィを狙ってるやつのとこに、君自身を行かせるなんて!」


「私も同感です。それに、カリュブディスのもとにはあのノワルもいます。


どうも彼はリリアナ様を好意的ではなく、どこか敵対視しているように思えてなりません」



「そうね。友好的に感じている相手への態度ではないわね。


リリアナ様に躊躇ちゅうちょなく怪我を負わせている辺りも」




そう話す皆の表情は重く、硬い。



「……みなさんがおっしゃることはごもっともです。


でも、もしカリュブディスたちからの攻撃が今後も続けば、いずれマーレデアム王国だって反撃に出ますよね?


……そうなると、戦争になってしまいます。1000年前みたいに」




「……リリィ、君の気持ちも分かるよ。でも、それが国同士の決着の付け方なんだ。


カリュブディス側が話し合いに応じる可能性があるなんて僕は思わない」


「そもそも、彼らは前回の戦争の件で我々に恨みを持っていますからね」



「王都が血の海になることだけは避けねばならんとは思っている。


そのために王都郊外での戦闘を想定して計画を進めているのだ」




私は眉を寄せ、唇を噛み締めた。


彼らはまつりごとを行う、いわばプロ集団だ。海人騎兵団にも所属していて、戦闘情報や敵側の情勢にも精通している。



私の意見など、平和な国で、平穏に育ってきた者の綺麗事言葉に過ぎないだろうと思う。



……でも、それでも。



「戦闘って、王都郊外から始めましょうって言って、相手もそれに応じてくれて、そこから素直に始められるものなんですか?


マクリル右大臣のお屋敷みたいに、もし他の海魔族たちがすでに王都に忍び込んでいた場合はどうなるんでしょうか?



王都が血の海になる可能性はゼロだって言い切れますか? 女神の間が襲撃された時は、何の前触れもありませんでした」




息継ぎも忘れそうになるほどに、私は言葉を話し続けた。


皆が目を見開いて私を見ていたが、もはや気にはしていられなかった。




「私も王国民の人たちを争いに巻き込みたくはありません。


だから、まずは武器を使わない "意見の交換" から試してみませんか?」



「……意見の、交換?」


「はい。いわゆる、"論議と答弁" です。それを "交渉と譲歩" に進ませます。


私が母国で社会人として働いていた時もそうでしたけれど、どんな時でも "コミュニティケーション" にまさる危機回避方法はないと

思うんです」



(もちろん、カフェでのいざこざと国家間での戦争では規模が違いすぎるのは分かってる。でも)



「どんなに大きな争いでも、原因になったことは、最初はほんの些細な出来事や誤解からだったはずです。


それを 、"意見の交換" をし合うことで、いかに憤りを最小限に抑えていくかが、お互いの国を守るための最重要ポイントになります。



"目先のことより100年後、1000年後の未来を考えて行動すること"



……これは、陸王のギルが私に言ってくれた言葉です。


未来のマーレデアム王国に傷痕を残さないためにも、私はカリュブディスに直接会って、話をしてみたいです」



シェリたちは何も言わずに、ただただ私を見つめていた。


視線が自身に集中しているせいか、油断をすれば足も手も、いや身体全体が震え出しそうになる。



「……生意気言ってごめんなさい。でも、私もマーレデアム王国を戦地にしたくありません。


私のことを温かく受け入れてくれた、この国の人たちを私も守りたいんです」



でも、身体をすくませている場合では

ない。私は腰骨を立て、瞬きせずに皆を見渡した。




「……リリィの意見はしかと受け止めた。国王陛下にも進言し、さらに助言をいただくとしよう」


「うん…… あ、私、お茶を入れ直してきますね」


「リリアナ様、私もお手伝いいたします」


「ありがとうございます、セシルド様」



シェリの言葉の後、私を気遣うようにセシルドが隣へと来てくれた。


私は彼と共に台所へと向かう。




(……私の意見はちゃんと伝えることが出来たと思う。あとは、国王様やシェリたちがどうやってそれを消化してくれるかだ)




------




リリィとセシルドが席を立ち、台所へと向かった後。




「…………ねぇ、シェリ。リリィってグッセンスタシューン王国の政治にどれくらい関わってる感じなの?」


「政治はギルストロンらが動かしている。リリィは後見人として、子供向けの教材作りと、月に二度、その子供たちに対し勉学を教えているのみだ」



目を伏せ、目頭に指を当てていたシェリが、ユーリの質問にそのように答える。



「それってつまり、リリィは誰からも政や戦争論を学んだ訳でもないってことだよね?


あの子、まだ18歳だよね……? いや、人間界では成人してるのかもしれないけど。


でも、一番冷静な視点から物事を見てるし、戦慣れしてる僕たちよりも全然、論点を正確に把握してる気がしたんだけど」



「さすが、といったところだね。あの方はこの王国に降臨されてからまだわずか一年強ほどだけれど、自身の愛し子としての立場やそれを取り囲む状況を本当によくご覧になっている。


そうせざるを得なかった部分も、もちろん多いとは思うけれど」


「リリアナ様はまさしく、マーレデアム王国の救世主ね。


強さと美しさと聡明さと、それらをすべて包み込む優しさを兼ね揃えていらっしゃるお人よ。


あんなに素晴らしい女性はこの世界のどこを探しても他にいなくてよ」




そう言い弾む三人の言葉を、シェリは黙って聞いていた。



(……本当はリリィを、海人族とカリュブディスの争いに巻き込みたくはなかった。


腕中に閉じ込めて、平和だけを感じ、どんな時でも笑って過ごさせたいと思っていたのに)



だが、いくらそう思ったところで、彼女は他者を救うためならいつだってその羽を惜しみなく広げる。

そして、どんな隙間からも、己の元から飛び立って行ってしまうのだ。



(……上手くいかないものだ。この先もずっと、俺はリリィを追い求め続けるのだろうな)



シェリは小さく息をつき、そして苦笑する。


そして改めて。確固たる証が欲しいと思った。



リリィの夫は己だという証を、彼女に刻んでおきたいと。





「……これの話し合いは王宮に戻ってからにいたしましょうか。ところで姉上、兄上。依頼していた "例のもの" は、もう仕上がっておりますか?」



シェリはリリィがまだこちらへと戻って来ないのを確認した後、姉兄に向かい相談していたある件について尋ねた。



シェリのその言葉に、トリンティアとナプティムウトは顔を合わせ、頷き合う。



「完璧よ、シェリ」


「リリアナ様に、とてもよくお似合いになると思うよ」



すると、トリンティアがバッグの中からある物を取り出し、それをシェリへと手渡してくれた。




------




セシルドと私がお茶を持ってリビングに帰ってくると、四人はすでに話し合いを終えていたようだった。


私はお茶請けに、陸から持ち帰った例のワカメチップスをお出しした。

ちなみに海底に持ち帰ってすぐに、マーレデアム王国の油 (防水の油?)で揚げ直してある。


ちなみに予想通り、海人族の人達にもとても評判が良かった。



ワカメチップスと共に陸で得た情報を皆へと伝えた後、彼らはそれぞれの愛鮫と共に帰路についていった。





「リリィ、疲れていないか? 其方はまだ帰ってきたばかりだというのに、翌日からこのような会談になってしまってすまない」


「全然大丈夫! むしろ、すぐに話し合えて良かった。ありがとう。


……ところで。シェリはそんな私に呆れてない?」



「……何故呆れることがある」


「政治のこと、全然勉強不足なのに自分の意見ばっかり先走って言っちゃったから……」



視線を逸らしつつそう伝えると、シェリが私の顎に手をやり、頬へと唇を寄せた。



「正直、驚きはした。でも、それは褒め言葉の方だ」


「褒め言葉?」


「そうだ。其方にはいつも驚かされることばかりだ」



そして、今度は私の両手を取ってその甲にキスを落とす。



「シェリ……?」


「マーレデアム王国の民たちをこんなにも愛してくれて本当に感謝している。


リリィ、これを受け取って欲しい」



シェリのその言葉と共に、私の右手薬指に "あるもの" がはめられた。



「気に入ってもらえるといいのだが」


「…………シェリ、これって……」



それは、翠緑色の大宝石と黄金色の小宝石たちがあしらわれたリングだった。


角度が変わるたびにキラキラと輝きを増すその美しい宝石たちに、思わず目を奪われてしまう。



「代々、王家の婚約指輪の制作を請け負ってくれている職人たちに頼んで作ってもらった。


メインのエメラルドがリリィ。その周りを囲むイエローダイヤが我々海人族を表している。土台には其方の愛獣、ベルの姿を掘ってもらった」



シェリは私の指にはめられたそのリングに、もう一度そっと唇を乗せる。



「ああ、それと。其方が曾祖母殿から受け継いだこの腕輪も返さねば」



シェリは、今度は自身の鮫笛の紐から腕輪を取り外すと、それを私の左腕へと付けてくれた。



「気付いたか? リングは其方の腕輪のデザインに少し寄せてある。二つ付けていても揃いのようで違和感がないだろう?」



「…………うん。すごく、嬉しい。ありがとうシェリ」




何だか、涙が溢れてくる。


この指輪は、私がシェリの妻になるのだという証。

シェリと家族になれる日が近付いていることを感じさせてくれる。



「全て片付いたらすぐにでも結婚しよう」


「……シェリ。私ばっかり、こんなに幸せをもらってもいいのかな。まだ何も解決してないのに」



「いついかなる時も、例えどんな状況下に置かれていたとしても、幸せになる権利は誰もが持っている。


王族でも王国民でも、もちろん女神の愛し子であってもそれは同じだ。



……まあ。其方に男として愛される権利だけは、今もこの先もずっと、俺が独り占めするがな」



そう言って、シェリはほんの少しだけ意地悪な笑みを見せた。




「…………今夜。リリィの全てを俺にくれ。

俺の全ても、其方に渡したい」




なのに。

声も、抱き寄せてくる腕も、私の髪を撫でる手指も、何もかもがとてつもなく優しいのだから反則だ。




目前の問題は山積み。

この幸せは、嵐の前の静けさかもしれない。


それでも、二人で在る未来のために私たちは突き進んで行かなければ。



私はシェリをぎゅっと抱きしめ返した。




私の全部をかけてこの人を幸せにすると、そう誓ったのだから。





------




「宰相様、こっちですこっち!」


「ユーリ、ご苦労様。彼の様子はどうだい?」




セシルド宅での会議から五日後、ユーリとナプティムウトが向かった先はマーレデアム王国内において民たちが一番訪れたくはないであろう場所。



騎兵団本拠地、右塔地下ニ階部分に存在する罪人収容所、もとい罪人地下牢だった。



「少し、薬が効き始めたみたいですね。姿の変化へんげと言葉の衰退が止まってるから。


それはそうと、こんな薬剤どうやって手に入れたんですか? これ、シェリが作ったんじゃないんですよね?」



「そうだね。この薬は、宮廷医 かかえの薬師くすしたちに頼んで制作してもらったんだ。


医務室の書棚をひっくり返して、これの精製方法を片っ端から探したよ」



ナプティムウトは自身の懐から小さな錠剤たちが入った小瓶を取り出した。



「でも、この "返化薬へんげやく" はもっと改良する余地がある。次はシェリにも協力を仰がないとだめかな。


……変化は一旦止まったけれど、元の姿に戻り始めたわけではないからね」



そう話すナプティムウトの視線の先には……





「久しぶりだね、シリスハム。一年ほどぶり、かな」



地下牢の片隅でうずくまっていた男の肩がビクリと跳ね上がる。


ナプティムウトへと向けられたそのうつろな眼は、相も変わらず光を宿してはいなかった。



「シリスハムは海魔族になってもう四か月以上経っちゃってますけど、見た目はまだまだ海人族ですね。こいつがシリスハムだってのも分かりますし。


……他のやつらは、容姿がみんな同じでしたから」



ユーリはシリスハムを一瞥いちべつしつつ、あの時の完全体なる他の海魔族たちを思い出していた。



「シリスハム。私のことを覚えているかい?」



『……ナ、ナプティムウトダンチョウ……』



「脳衰退も止まってるみたいですね。僕たちのことも自分のこともちゃんと色々覚えていそうですし。


ま、こっちは聞きたいことが有り余ってるんだから好都合ですよ」



「……ユーリ、私が話すよ。


シリスハム。やはりあの時、君はリリアナ様を逃してくれたんだね。


愛し子が陸へと赴ける方法を君は古書か何かで得ていて、上手くいけば……って感じだったのかな。


もし、上手くいかない場合は王宮に連れて行くつもりだった。違うかい?」



『…………』


「……シリスハム。君を見込んで、協力して欲しいことがあるんだ。


一つは、君にも使用した、"海魔族を海人族へと戻す薬剤" のこと。

古い医薬書に載っていた精製方法だと、やっぱり効き目が良くないんだ。


だから、君の血液が今どのような状態にあるのか調べさせて欲しい。出来ればこの先も定期的に。



あと、もう一つは、」



『……カリュブディス ノ モトヘノ ユウドウ……』



今度はボソリと、シリスハムがそう言葉を紡いだ。

ナプティムウトは深刻な面持ちで頷く。



「……そうだ。我々はまだ、彼らの根城をつかめてはいないんだ。


カリュブディスの元には、おそらくはリリアナ様が行くことになると思う。


海底戦争が勃発してしまう前に、どうにか話し合いの場を設けたい。時間がないんだ」



『……"ジカンガ、ナイ"……?』



シリスハムはハッとしたように顔を上げ、そう呟いた。



「……? どうしたんですか、シリスハムのやつ」


「……何か、思い出したことでもあるのかもね」



ナプティムウトは地下牢の鍵を解錠し中へ入ると、シリスハムの目前で腰を落とした。



「君を海人騎兵団の一員として任命したい。どうか、我々に協力してほしい。



……それに君も、リリアナ様に何か伝えたいことがあるんだろう?」



ナプティムウトがそう言うと、シリスハムはゆっくりとその場でたたずまいを直し、彼へと跪いた。



「君がもう少し言葉をうまく出せるようになったら会合を開こう。今後に向けての作戦会議をね。


リリアナ様には、君のこともちゃんと話しておくから」



ナプティムウトの言葉に頷きながら、シリスハムは自身の右手に拳を作り、それを左胸へと当てた。




「さて、と。じゃあ一時的にだけど海人騎兵に復帰だね、シリスハム。


君は部隊には属さない特別団員になってもらうよ。まだエモノは出せるよね?」



ユーリがそう問うと、シリスハムは右手のひらに長剣を創り出してみせた。



「……よし。シリスハムには近々、ノワルたちともう一度接触をしてもらう。


カリュブディス側と連絡を取り合えるのは、僕たちの中じゃ君しかいないからさ?


裏切り者だって言って魔物らに殺されないように、何人か君の元部下も付けとくから。



……でも、その前に」



ユーリは自身の手にも愛剣を創り出した。



「シリスハムには一年のブランクがあるからね。ここでちょっと手合わせしとこうよ」



口元に弧を描きながらユーリが長剣を構えると、シリスハムは目を細めながらそれに習った。



「今後、君がまたリリィを守らなきゃいけない時が来るかもしれない。


その時に使い物になりませんでした、じゃあシャレにならないからね」



『…………』




この日からしばらくの間、右塔の地下二階部分では金属が激しくぶつかり合う音が鳴り響くことになったのだった。




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