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12. 海への帰国

第三章 『古の海の魔物編』



「いやーー、絶好の街歩き日和っす。ねえキャプテン、姉御…… じゃなかった、"兄貴たち" !」



「そうだな。おいリリアナ…… じゃねえ、"リリアス" !

はぐれるなよ。今日のお前は、俺の "弟" だ」




「…………ギルは私に男装させるのが好きなの?」



グッセンスタシューン王国に避難してから、早くも三週間が経った。



今日、私はギルとロキと共に、変装して街への視察に出掛けている。



「おいっ! 俺が男を好きみたいな誤解を招く言い方をするんじゃねえ、リリアナ。


今日は "男" 三人で気兼ねなく港町料理を味わいに来たんだろうが」



そう。お忍びでグッセンスタシューンに来ている以上、あまり外を出歩けないでいる私の健康面を心配したロキが、



「城と図書館にこもってばかりじゃ身体に毒っすよ!


姉御も人間なんだから、たまにはちゃんと太陽の光を浴びて下さいっす!」



と言うので、学校のあるエマを除き、本日は "海の魔物に関する情報収集のため" という大義名分の元、グッセンスタシューンを街歩きをすることになったのだ。



以前この王国に滞在していた時は、まだあの前王が政権を握っていたため、貧国で活気がない街並みだった。


しかし、ギルが王位を継いでからは見違えるほどに活性化し、人々も生き生きと生活している。




「あ! 姉御、あそこの店、そこそこ品の良い海鮮料理扱ってるとこなんすけど、実は隠れ人気メニューっていうのがあって、それが何と大衆向けB級漁師飯なんすよ!


姉御、実はそういうの好きでしょ? 俺買ってくるんで、キャプテンとここで待ってて下さい」


「リリアナも元々は港町に住んでたって言ってたよな。


海ではあんな王族やら貴族やらのお堅い奴らばっかに囲まれて過ごしてんだから、なかなか庶民っぽいことなんて出来ねえだろ?」



そう言って、ロキとギルは楽しそうに笑う。



彼らもエマも、この国に住む私の近しい人たちは皆、平民出身者である。


もちろん私も母国では、いちカフェウェイトレスだったので、彼らとの話や味覚は確かに合う。




元気よくお店の方へと走って行くロキを見送りながら、私とギルは、木陰になりそうなベンチへと二人で腰掛けた。



本日のギルは真面目な好青年役らしく、眼鏡をかけ、長い髪もウィッグで短くしているようだ。


いつもの彼とは正反対タイプに変装しているのが何だか新鮮で、私はギルをじっと見やってみる。



「今日の変装もなかなか似合ってるだろ?」


「うん、ものすごく真面目な好青年に見えるよ」


「ぶはっ!」


「あ、今の笑い方がなければ、だからね」



ロキを待っている間、他愛ない話を二人でしていると、ふと、街を行き交う人々の会話が聞こえてきた。




「ここ一週間で渦潮が起こる頻度が倍になってるわね。おかげで漁船が海に出れないそうよ」


「困ったなあ。うちは食事 どころなのに。このままじゃ店が開けれなくなっちまう」




……この話は。



「リリアナは気にすんじゃねえ。グッセンスタシューンは開国したんだ。魚貝の仕入れくらい、何とでもなる。


漁師の仕事が出来ねえなら、今だけ別の仕事をすりゃいいだけだ」



ギルはこう言ってくれたが、私がグッセンスタシューン王国に避難していても、もとい、海にいなくとも、やはり問題は起こってしまうことに気付かされる。



陸にいればカリュブディスやノワルの手が、私に届きにくいのは確か。


でも、私がこうして雲隠れしてるせいか、まるで行方を探っているように、そして怒りを表しているみたいに、近頃海が荒れ始めている気がする。




海の幸の恵みが受けられないことも、漁に出ることが出来ないことも、この先もずっと続かせるわけにはいかない。


やっと、この国の人たちが自分たちの足で歩み始めたというのに。




「……ギル」


「海に戻るとか言うなよ?


そもそもどこに戻るつもりだ? マーレデアム王国にはいられねえから、俺んとこに避難させられたんだろうが」


「そうだけど……」



「今は余計なこと考えてんじゃねえよ。後々、嫌でも魔物と対面することになりそうだからな。



リリアナが今やるべきことは、怪我一つせずにここで過ごすことだ。


お前が安全な場所にいると分かった上で、ラドシェリムたちは行動してるはずだろうからな。あいつらの計画を台無しにしてやるな」



「でも、このままじゃここに住む人たちの生活にも支障が……」


「ったく。しっかりしろ! お前がそんなんでどうする。


マーレデアム王国背負ってラドシェリムと2000年生きてくんだろうが」



「……ギル…………」


「リリアナはあと2000年も生きなきゃいけねえんだ。

目先のことより、未来を見ろ。一日先のことより、100年、1000年先のことを考えやがれ。



リリアナがグッセンスタシューンの民のことを想ってくれるのはありがてえが、お前はいつも自分ばっか責任を感じすぎだ。


ラドシェリムらにもちゃんと頼れ」




"今日の私は今日出来ることをしよう"



……ギルの言う通りだ。グッセンスタシューン城に初めてきた日に、私は確かにそう思ったはずだったのに。



「弱気になるな、リリアナ。お得意の前向きさはどうした?


もっと周りの者を頼れ。お前が思ってるのと同じくらい、皆もお前のことを大事に思ってんだ。


マーレデアム王国のやつらだけじゃねえ。エマやロキだってそうだ。


……俺もだ。なんたってお前の "ダチ" だからな」




……いつからだろう。こんな風にギルが言ってくれるようになったのは。


出会いは決して良いものではなかったし、その後一緒に過ごした中でも、もちろんこんな信頼関係はなかったと思う。



ギルが引き合わせてくれたエマとロキもそう。彼らとはまだ出会って間もないが、一緒にいるととても心地良い。


共に過ごしていると、女神の愛し子という立場を少しだけ忘れ、まるでただの友人になれたかのような気持ちになる。




「……ありがとう、ギル」


「礼を言われる様なことじゃあ…… って、お、おい! リリアナ、泣くんじゃねえ!」



「姉御?! ちょっと、何姉御のこと泣かせてるんすかキャプテン!!」



ちょうどロキが両手に戦利品を持って帰ってきた。



「ばっ、俺が泣かせたわけじゃ…… い、いや、俺か?」



「……ふふっ。ごめんね、ギル、ロキ。これは嬉し涙だから全然大丈夫だよ」



「もーー姉御! うっかりキャプテンのこと刺しちゃいそうになっちゃったじゃないすか」


「冗談やめろ。お前に短剣持ち出されりゃ、俺に勝ち目はねえ」



「わあ、ロキってやっぱり強いんだね」


「ずっと海賊生活してたんで、ちょっと腕には自信あるんすよね〜」



ロキはそう言って力こぶを作ってみせる。



「あはは。ギルを負かしちゃうくらいだなんて、すごいね」



「姉御、安心して下さい! キャプテンからは俺が守るっす」


「おいっ、俺は敵じゃねえ!」



二人の会話がおかしくて、今度は違う意味での涙が、私の目元にまったのだった。







海の魔物に関する情報はあまり得られなかったが、港町への散歩や海のB級グルメ等を堪能した私たちは、街の喧騒にまぎれながら城への帰路についていた。




「"ワカメチップス" や "新鮮魚肉フランクフルト" は海人族の人たちにも受けそうな気がするなぁ。シェリやユーリも絶対好きそう」


「あー、あれは美味かった。酒のつまみにもなりそうだ。


うし。店主に商談持ちかけてグッセンスタシューンの特産品に推薦してみっか。生モノより日持ちしそうだしな。


エマが最近、厨房の奴らと仲が良いみてえだから、あいつにも手伝ってもらって城で試作品作りを……」




「あたしが何ーっ?」


「?! エマ!」


「良かったーっ、 会えた!」




グッセンスタシューン王国の新たなビジネス展開について談義を交わしつつあった私たちに声をかけてくれたのは、噂をすればのエマ。


彼女は学校帰りらしく、大きなリュックを背負いながらもこちらへと駆け寄ってくる。




「学校お疲れ様。そっか、エマの学校って確かこの近くだったよね」


「うん! 今日はみんなで街へ視察に行くって聞いてたから、もしかしたら帰りに会えるかなあって思って。


って、あれ? リリィさま、もしかして泣いた……?」




私の目元に少し赤みでも残っていたのだろうか。エマはオロオロとしながらも、その小さな両手で私の手を握ってくれた。


そして、両隣にいる男性二人のことを何故かジロリと交互に見やる。



「エ、エマ……? あの、びっくりさせてごめんね。ギルとロキの話があんまりおかしくって、笑い泣きしちゃっただけだよ」



「ほんとにほんと? 二人に泣かされた訳じゃない?」


「あ! ひでえっすよエマ!」


「そうだぞー。俺たちがリリアナをいじめたみたいな言い方しやがって」




「あはは! うん、エマ。ほんとにほんと!

私、エマもロキも、ギルのことも大好きだもん」



私が笑顔でそう答えると、



「わーい!私もリリィさま大好き!」


「うっ……姉御、嬉しいっす」


「こんな人ったらし、ラドシェリムはさぞや大変だろうなあ」



とまあ、予想通りの温かい反応が返ってくる。




本当に、私は人に恵まれた人生を歩ませてもらっていると思う。


それは女神の愛し子だからとか、テティス女神の血筋だからとか、そんな上部だけのものではない。



(そうだ。私は一人じゃない。海にも陸にも、私を想ってくれる人たちがこんなにもたくさんいてくれる)



海に戻ればやらなければならないことが山積みだ。目先を嘆くなら、一月先の未来をより良くできるように考えよう。




「じゃあ、陸メンが揃ったところで。みんなで城に戻るぞ」


「うん!」




エマと私は手を繋ぎながら、ギルとロキは港町料理の感想を言い合いながら。


私たちは今度こそ四人で、グッセンスタシューン城へと続く道を歩き始めた。






シェリが近々私を迎えに来る予定だと、ベルからそう言伝があったのは、この日からちょうど一週間が過ぎた頃だった。




------





私が再び海を離れ、グッセンスタシューン

王国に滞在してから一月と十日ほどが経った

今日。




「世話になったな」


「別に礼なんて言われることはしてねえよ。俺らの裏総大将を守ってたまでだ」




港町の入江に立つのは、ギル・エマ・ロキの陸メンバーと、海人族のシェリ。


と、双方の間に、私。

ところで、裏総大将ってまさかの私のこと……?




さらに、一月近くも会えなかった恋人との感動の対面のはずが…………



「姉御! どうしても帰っちゃうんすか?!」


「やだあリリィさま〜!」



と、私付きの二人組に両サイドから腕をガッチリと掴まれているため、身動きが全く取れないでいる。




「二人とも…… そんな、永遠の別れじゃないよ? 月に二回は図書館での勉強会で会えるし」



「だって姉御! 姉御の守役、海ではこの色男がやるんでしょ? 何か悔しいっす!」


「リリィさまは寂しくないの? 私たちのこと大好きって言ってくれたのに」



「ロキ、エマ……」



二人はとても悲しそうな表情をしていて、エマなんて今にも泣き出しそうだ。



「……もちろん寂しいよ。大好きだって言ったのも本当。


海と陸って、世界がまるで違っているみたいに見えるけど、本当は全部繋がってる。

ほら、港町が良い例でしょ? 海の平和と陸の活気は平行してるの。


……でも、今は海の方が荒れてるみたいだから。それを抑えたいから、行かなくちゃ。


ロキとエマとはずっと繋がっていたいもの」



「……姉御」


「ううう〜っ、リリィさまあ」



二人が私の腕を解いたかと思えば、今度は正面からぎゅっと抱きしめられた。私も彼らの背をゆっくりと撫でた。



「行ってこい、リリアナ。お前にしか出来ねえことだ」



ロキとエマの様子に苦笑しながらも、ギルはそう言って、私の頭をポンポンと撫でてくれた。





「…………諸君。そろそろリリィを離してもらっても良いだろうか」



すると、シェリはそんな私たちを見て、何故か遠い目をしながら、はあ、と深くため息を付いていた。



「ラドシェリム。てめえも苦労するな」


「何とでも言え……」




片手で顳顬を抑えているのシェリの肩に、ギルが面白がるようにして肘を乗せる。



「で、俺の情報らは大いに役立ちそうか?」


「……まあな。正直これほど有意義なものを

仕入れてくるとは思わなかった」


「同感だ。それに、ここまで "あいつ" が役立つとはな。大いなる収穫だったぜ」


「解放するのか?」


「まだに決まってんだろうが。有益な情報をもたらせば解放してやるとは言ったが、"いつ" とは決めてねえ。


あの一族のつぐないはこんなもんでは終わらせねえよ。あの男も、さすがにそれくらいは分かってんだろ」


「ふん。まあ当然だな」





「シェリ、ギル? さっきから二人で誰の話をしてるの?」



「俺の "部下" に意外に有能なやつがいるって話だよ」


「ふうん……?」


「ま、リリアナが気にすることじゃねえよ。


お前はお前の目指すものに突き進め。この前は反対だと言ったが、今はそうじゃない」



「ギル、それって……」


「ラドシェリムらとよく話し合え。お前一人が決め切れることじゃねえからな。


宰相のナプティムウトや左大臣家跡取りのユリウス。

それに、あの "姉上様" にも相談してみろ」



「あ、姉上様……?」


「何だよ。お前も知ってるだろ? こいつとナプティムウトにはおっかねえ姉貴が一人いるの」


「えっ?! ト、トリンティア様のこと?」



おっかないなんて、ギルはまた何ということを言うのだ。


それにしても、何故彼が今さらトリンティアの話をするのだろう?




「そのうち例の右大臣が役職を降りるだろうからな。違うか? ラドシェリム」


「……相変わらず、貴様は嫌気がさすほどに鋭いな」


「自分の甘さがこんな大事件に繋がったんだ。当然、実息子らに役職を譲るなんてことは、もう出来やしねえ。



そうなると、答えは一つだ。役職は国王に返還される。返還されたらその地位に付ける適任者なんて、たったの一人しかいねえだろ。


他の大臣にその役を付けちまったら、またいらん嫉妬やら内部争いが起こりそうだしな。


今の海底王国はそんなことしてる暇ねえだろ?」



シェリがさらに深く息を吐き出した。ギルはそれを楽しそうに見やっている。



「ちょ、ちょっと待って。私には話が全然見えないんだけど、一体何の話?」



「要するに近い将来、マクリルとかいう男の代わりに、今度はこいつらの姉が右大臣の地位に就くってことだ」



私の質問に、ギルがあっさりとそう答えた。


……トリンティアが右大臣になる?




「シェリ、そうなの……?」



「まだ決定ではないが、恐らくはそうなるだろう。


姉上は文官コースを主席で卒業された後、女王教育もずっと受けられていたし、今は義兄上のために国王秘書のことも学ばれている。



……それに、あの圧倒的な威圧感が後ろにあると思うと、俺も前を向かぬわけにはいかないからな」



そう言って、シェリは苦笑いする。



…………つまりはシェリが、次代の王になる時。


その後ろには宰相であるナプティムウトが

控え、両サイドには、左大臣家後継者のユーリと、次期右大臣に内定予定のトリンティアが並ぶ。



マーレデアム王国は今後、この人たちが主軸となり、王政が構成されるということだ。




「大丈夫かあ、リリアナ?」



笑いをこらえきれないといった具合に、ギルが今度は私の方を見やる。



……今の今まで頭から抜け落ちていた。



皆、言わずもがな。家柄も大層良く、見目麗しく、そして類稀なる英明さぞろい。


私はそんの彼らと共に、今後も女神の愛し子として、さらには次期国母として、同じ立ち位置に在らねばならない。



ふところにはB級グルメのワカメチップス (防水袋に入れてる)をお土産に忍ばせている私が…………




「…………みなさんの秀逸さと眩しさをお手本にして、何とか頑張ろうと思います」


「ぶはははは!!」



ついにはギルが声を出して笑い出した。大分と失礼だが、彼が笑いたくなるのも分かるので何も言えない。



「ぶくくっ。でも、ま、お前なら大丈夫だろ」


「こんなに笑っておいて…… どうせ庶民丸出しだよ」



「本気で思ってんだよ。リリアナは賢い。それに、美人なのも海陸共通だろ?



何より、民の心を一番代弁してやれるのは、その庶民として育ったお前だよ。


見劣りする所なんて一つもねえんだ。


あいつらと肩並べて、そんでもって胸張って魔物と討論してこい!」



ギルがそう言葉にすると、エマとロキも覚悟を決めたように私から手を離した。



「姉御、またすぐ来て下さいよ…… 俺、街中どこへでもお供するっすから!」


「……リリィさま。今度会う時までに、リリィさまの大大大好きなスフレパンケーキ、完璧に作り方マスターしておくからね」




「……うん、楽しみにしてるね、ロキ、エマ。


それと、ギル。たくさん励ましてくれて本当にありがとう。ワカメチップスもバッチリ宣伝してくるから。


みんな、行ってきます!」




こうして、三人の大切な友人たちに見送られ、私は第二の故郷であるこのグッセンスタシューンの地を後にしたのだった。







「シェリ、迎えに来てくれてありがとう」


「……ああ」


「手紙でのやり取りはあったけど、マーレデアム王国の人たちはみんな無事?


ユーリや騎兵団の人たちや、ホメロスたちの怪我の具合のことも、ずっと気になってて」


「…………」


「……シェリ?」




現在私たちはベルの背に乗り、海底に向けて下降している最中。


シェリはギルたちと別れて海へと入ってからはあまり言葉を話さず、ずっとこのような

調子である。




シェリに会えて嬉しい。陸にいた時も、彼のことを思わなかった日など一日だってなかった。



本当は大好きな恋人の腕に飛び込みたいけれど、深刻な状況に置かれている身でそんなことを思ってしまっても良いのかを考えていると……




「…………リリィは?」


「え?」



シェリが突然、前に座る私のことを抱きしめてきた。



「気が狂いそうなほどに会いたかったのは俺だけか?」


「!」



後ろを振り返ると、少し顔を赤くして不満げに表情を崩すシェリと目が合った。




「……其方が無事で、本当に良かった。今度こそ、心が壊れそうだった」



「シェリ……」




シェリの抱きしめる腕が少し震えている。


ノワルに付けられた肩の爪痕はだいぶと薄くはなっているが、未だ残るその傷に、シェリはそっと唇を寄せる。



「リリィはギルストロンの従者たちにも随分と好かれていたな。


海でも陸でも、其方はいつも他者を虜にしてしまう」



シェリは、はあ、と、今日何度目かの深い深いため息をついた。



「王国の者はみな無事だ。ホメロスたちも回復に向かっている」


「ほんと? 良かった……!

……あと、シェリ。私だってずっと会いたかった。シェリと同じ気持ち」



私はやっと、彼の胸へと顔をうずめることが出来た。涙がにじむけど、今は泣いている場合ではない。



「あとシェリ。さっきギルも言ってたことだけど……」



「リリィ。急く気持ちは理解できるが、もう少し落ち着いてから話をしよう」



そう言って、シェリはさらに私のことを強く抱き寄せる。




「今はリリィがこの腕に帰ってきたことだけを感じたい。


其方には二度と恐ろしい思いをさせたくない、自身を犠牲にさせるような状況には置きたくないといつも思っているのに……


俺が不甲斐ないせいで、不安な思いばかりをさせてしまって本当にすまない」



「……そんなことない。シェリがどんな時でも私のことを想って行動してくれてるの、ちゃんと知ってる。


ギルの所に避難するように手配してくれたのもシェリだって聞いたよ。

いつも私のこと守ってくれてありがとう」



「……リリィは俺を甘やかすのが上手くなったな」



シェリは腕を少しだけゆるめると、私の頬に片側の手を添え、唇を寄せた。そして私の額にはそっと、彼の額を合わせてくれる。



「……シェリ。私はこのまま女神の間に戻るの?」

 

「いや、ある場所に、其方の隠し場所を用意してある」


「か、隠し場所……?」


「女神の間も王宮も、敵側に場所を把握されているからな。


"とある民家" に其方を非難させる手筈てはずを整えてある」


「民家? 」


「ああ」



シェリがベルに指示を出すと、ベルは海森ではなく、逆方向となる王都郊外の方へと私たちを運んで行った。



やがて、私たちは民家がポツリポツリとしか建てられていない、どこかのどかな雰囲気が漂う場所に到着した。


シェリは、ベルに私たちをここで降ろすよう言い聞かせる。




「シェリ、ここは……」


「俺の親戚宅だ」


「……え?」




シェリが案内してくれたのは王都の中心部からほど遠くに位置する、とある平家の一軒家。



しかもそれは、王族である彼の "親族の家" ということだった。





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