10. 真実の糸口〈前編〉
第三章 『古の海の魔物編』
(幕間)
「ねえねえ、リリィさま。夜中に入江に来てた人って、リリィさまの "こいびと" でしょ?」
すでに宿題を終えてお絵描きを楽しんでいるエマの隣で、私が自作絵本の最後の仕上げに取り掛かっていた時、彼女がこんなことを言い出した。
「こ、恋人……?」
「そう!」
エマはキラキラとした瞳を私へと向けている。
ちなみに彼女が今描いているのは、グッセンスタシューン城の中で踊っている王子様とお姫様の絵。
(ああ、そっか! 確かエマは、シェリとギルが入江で話してるのをこっそり見てたんだっけ)
「リリィさま、あの殿方すごく素敵ね!」
「え?」
「お肌の色も髪の色もあたしたちとは全然違ったけど、とってもきれいな人だった!」
そう言って、エマはニコッと笑った。
「……うん、そうだよ。あの人は私の、大切な恋人なの」
シェリのことを…… 海人族の人たちのことを、そのように言ってくれたことが何よりも
嬉しかった。
「わあ、やっぱり! いいなあ〜っ。
ねえリリィさま、恋バナしよ。恋バナ!」
「こ、恋バナ……?」
(エマは確かこの前、7歳になったばかりのはず…… おませさんだなあ)
「あ! でもその前にちゃんと侍女のお仕事
しなきゃ。ギルと約束したもん!」
私の子供の頃とは違い、とてもしっかりと
しているエマにただただ驚嘆する。
エマが侍女の仕事を終えた後、私たち二人は女子トークで盛り上がった。
まあ、私が主に聞き役だったのだけれど。
ちなみにエマはあの日、夜中に入江の方へと向かうギルの姿が孤児院の窓から見えたため、こっそり院を抜け出して彼の後を追いかけたのだそうだ。
そして、夜中に出歩いたことがバレたエマは、ギルと孤児院長にこっぴどく絞られたことも話してくれた。
しっかりしているけれど、好奇心旺盛な年相応の子供らしい面も持ち合わせており、何だか微笑ましい。
おしゃまなエマに、ギルが何かと振り回されている感は否めないが、それ所以になかなかに良いコンビな気もする。
「あたしも、いつか絶対、ぜーったい!
ギルのお嫁さんになる!!
ギル、いっつも一人で頑張っちゃうから、あたしがお手伝いしなきゃ」
私はたった今書き終えたばかりの、ハッピーエンド版人魚姫の物語をエマに手渡してみる。
すると、彼女は極上のキラキラ眼でそれを読み進めてくれた。
時には眉をハの字にしたり、時にはうっとりとした表情をしてみたり。
彼女の可愛い恋心も、いつの日かギルの心に届くだろうか。
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グッセンスタシューン王国での滞在二日目の朝。
私はギルと共に王国の国立図書館へと足を運んでいた。
図書館の鍵は変わらずギルが管理しているため、今日は私の貸切にしてくれるとのこと。
表向きには閉館日ということにしておくと言っていたので、何だか申し訳ない。
「じゃあな、リリアナ。昼過ぎに飯持って一回様子見にくるからな」
「うん。ありがとう、ギル」
今日、ギルは新しい学業施設開設のため、彼の部下数名と郊外を視察することになっているようで、私とはしばらく別行動だ。
「絶対に一人で出歩くんじゃねえぞ。何か用があればこいつに頼め」
(……ん? こいつ?)
「姉御!やっぱ相変わらず美しいっすね〜!」
「?!」
突然に背後から声をかけられたため、私は思わずビクリと跳ね上がる。
そして飛び出そうだった心臓を押さえつつ、
後ろを恐る恐る振り返った。
「そんなビックリしなくてもー。ずっと後ろに控えてたんすよ、俺。
お久しぶりっす、姉御!」
聞き覚えがある声だと思ったが、やっぱり。
私を姉御と呼ぶこの人は、ギルの海賊時代の部下の一人だ。船上で披露した私の料理をとても褒めてくれていたっけ。
「こいつの名前はロキだ。リリアナも顔は知ってるだろ?」
「う、うん……
ええっと、ロキさん? ご無沙汰してます……?」
さっぱり訳が分かっていない私のために、ギルが説明をしてくれる。
「要するに、この国でのお前の護衛兼 守役だ」
「も、守役……?」
「リリアナの逃亡、もとい失踪グセはあいつらから色々聞いてるからな」
……なるほど。海に限らず、陸でもなかなかの信用のなさにガックリである。
「そのうちの一割ほどは俺が関わってる気もするが、まあいい。
今回はラドシェリムも不在な上、俺も今日みたいな視察で城を空けることが多いからな。
ロキはチャランポランだが腕は立つぞ」
「あー! キャプテンひでえ!」
ぶーぶーと文句を垂れるロキを無視して、ギルは話を進めていく。
「リリアナ、くれぐれも棍詰めすぎんじゃねえぞ。
ロキ、てめえは何があってもリリアナを守れ。いいな?」
ギルは私たちにそう念を推して、今度こそようやく図書館を後にした。
「というわけで、よろしくっす! 姉御!」
ロキが私に向かってニカッと笑う。
「は、はい。よろしくお願いします……!」
警戒心の強いギルが私と二人きりにして置いていくくらいだから、ロキはよほど彼に信頼されているのだろう。
もちろん、侍女になってくれたエマも同様だ。
(私のお付きになってくれた二人は底抜けに明るいなぁ。
……ギルは陸でも、私の居場所を作ろうとしてくれてるんだろうな)
彼の優しさにしみじみとなりながらも、私は本来の目的を果たすために、ロキと共にとある棚前まで移動する。
以前この図書館で、テティスと海魔に関する古書を一通り読んでみたが、その古書たちにはカリュブディスに関する記述等は一切なかった。
目前の棚に並べられている貴重古書は、全部で十冊。
(前回読んだ古書は確かこれとこれ。
この二冊を除いた古書の中に、古の海の魔物のことが書かれてあるといいんだけど)
この数ならペラペラ読みで何とか近日中に終われそうな気もするが、果たしていかがなものか。
取り敢えず、今日のタイムリミットはエマの学校が終わるまでだ。
「姉御、俺も手伝うっす」
「え?」
私が古書と睨めっこをしているのを横で見ていたロキが、そう声をかけてきた。
「キャプテンから話は聞いてるんで。俺、馬鹿だけど文字はちゃんと読めるんすよ!」
「……それは、とっても助かります! ありがとうございます、ロキさん」
「水臭いっ! 呼び方はロキ! 敬語もなしで!」
「……ありがとう。じゃあ、ロキ。お願いしても良い?」
「了解っす! 俺も元海賊なんで、海の魔物には興味あるんすよ」
ロキはそう言って、棚から本を一冊取り出した。
突然の強力な助っ人の登場に感謝しながらも、私はまだ読んだことのない古書たちを机に並べ、片っ端から捌いていくことにしたのだった。
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「なんっで、シリスハムがノワルと一緒に
いるんだよ…………!」
海人騎兵団本拠地にある医務室で、そう声を荒げるのはユーリだ。
「シリスハムのように、他にも最近にノワルたちの犠牲になった海人族がいそうだね。
……マクリル右大臣の家族も、恐らくはそうだろう」
ユーリのそばには悔しげに顔を歪めるナプティムウトの姿もある。
「そもそもあいつ、何で海魔族になんかなってんの? 腐っても海魔族を取り締まる側の
元海人騎兵だったはずでしょ……!
それに、リリィが正妃って何?! 女神の愛し子を魔物の妃にしようだなんて、あいつら正気?!」
「気持ちは分かるけど、少し落ち着きなさい、ユーリ。
シリスハムはまだ、完全体にはなっていないようだから、海人族としての記憶が残っている可能性もある」
すると、そう話したナプティムウトの方へとユーリが青ざめた表情を向けた。
「まさかあいつ、この期に及んでも、まだリリィとの結婚を諦めてないとか……?
ありえないんだけど。どこまで馬鹿なの?!」
「ユーリ、そうではないよ。もしかするとまだ彼に、人としての心が残っているかもしれないということだよ」
「……宰相様? それってどういう……」
「兄上の言う通りかもしれません」
医務室のドアがギギ、という音と共にゆっくりと開かれた。ドアの向こうには、険しい顔をしたシェリの姿があった。
「シェリ! 残党はどうだった?
シリスハムがリリィを連れてった後、あいつら急に蜘蛛の子散らすように逃げやがったんだ」
「マクリルの屋敷周辺や王都全体に騎兵団を派遣しているが、ノワルや海魔族たちは一向に見つからないとの知らせを受けている。
引き続き捜索させるがな」
シェリは部屋へ入ると、ユーリとナプティムウトの元まで歩み寄った。
「シェリ、何かリリアナ様の件で分かったことでもあるのかい?
さっきの私の話に信憑性を持たせるような」
「……これを」
シェリが二人に向けて差し出したものは、リリィが家族の形見として大切にしていた、あの腕輪だった。
「これは、リリアナ様が曾お祖母様から譲り受けたとおっしゃっていた……」
「これを持って、先程ベルが俺の所へ帰ってきました。
どうやらリリィは、無事にギルストロンの元へとたどり着いたようです」
シェリがそう話すと、ナプティムウトの横で話を聞いていたユーリが慌ててシェリの腕を掴む。
「ちょ、ちょっと待ってシェリ! 一体どういうこと?
リリィ今、グッセンスタシューンにいるの?
だって、シリスハムに連れてかれたんだよ!」
「確かにシリスハムがリリィを攫ったが、事実、リリィは現在グッセンスタシューン城に滞在しているようだ。
……ベルがリリィからの言伝を預かっていた」
「……あいつ。シリスハムのやつ、まさかリリィを逃したの……?」
「シリスハムは今どこにいるんだろうね。ノワルの元に帰っているとは思えないけど」
ユーリとナプティムウトの言葉を受けつつ、
シェリは自身の鮫笛の紐にリリィの腕輪を通す。
「どちらにせよ、このままではシリスハムは完全なる海魔族となる。
そうなればもう、自分自身のことすら思い出せなくなる」
「……シリスハムは、それも分かってて海魔族になったってこと?
ノワルの手を取ってあの塔を抜け出したのは、僕たちと敵対するためじゃなく、全部リリィのためだったってわけ?」
「肯定は出来ないが、その可能性は高い」
「……何だよ、それ」
ユーリは力が抜けた己の手を、シェリの腕から離した。
「シリスハムの真相がどうであれ、ノワルは今、血眼になってリリィを探しているはずだ。
リリィが海陸どちらにいようとも、あやつらが彼女を奪おうとする限り我々は戦わねばならん。
……しかし、海底戦争に発展し得るかもしれん戦闘に民を巻き込むわけにもいかない」
シェリは医務室の窓から王都の方に目を向ける。
「このままノワルたちを王都から排除し、郊外地区へ追い込む。同時に、あの者たちを統率するカリュブディスの住処を暴く。
ユーリ、王都の警護と捜索はお前に任せたい。
俺は王都郊外へ出る。"罪人塔" を全て確認する必要が出てきた」
「……分かった。王都を閉鎖して全地区に海人騎兵たちを配置するよ。部隊の振り分けは?」
「罪人塔には私も同行するよ。
それからシェリ。王都に配置する部隊だけど、"第一部隊" は外しておいてくれるかい?」
「……シリスハムが元隊長だった第一部隊は、我々と共に罪人塔の方へ向かわせますか?」
「彼らだって、当時は自身の隊長のことをきっと慕っていただろうしね。私たちの知らない話が色々聞けるかもしれない」
「分かりました。
それではユーリ、第二部隊と第三部隊を連れて王都へ行ってくれ。民たちをくれぐれも不安にさせないように頼んだぞ。
第一部隊と第四部隊は俺と兄上と共に王都郊外へ。
第五部隊は王宮と女神の間近辺の警護を担当するよう伝えて欲しい」
「了解。……もし、シェリがシリスハムに会うことがあったら、僕が後で一発殴らせろって言ってたって伝えておいて」
「海人騎兵同士の戦闘はご法度だ。やめておけ」
「……納得いかないけど仕方ないね。
じゃあ行ってくる。何かあったら早魚でも飛ばして。
あ、手紙が偽造じゃないって証拠に、名前の横に魚の絵でも描いといて。シェリの絵なら、絶対に誰にもマネ出来ないからさ」
「おい」
「じゃ、今度こそ行ってきます」
「……頼んだぞ、ユーリ」
「御意」
ユーリが医務室から出て行った後、シェリは自身の胸元に下げられたリリィのブレスレットに手を添える。
(リリィは無事だ。彼女は今陸上にいる。ノワルの魔力が効かない人間たちと共に。
俺が今 成すべきことは、大規模な戦闘が勃発する前にカリュブディス側の勢力を少しでも剥ぐこと。
ノワル・セイレーンを押さえ込むことが
勝敗の鍵か)
シェリはブレスレットを一度握りしめた後、ナプティムウトの方へ向き直る。
「我々も急ぎましょう、兄上」
「私は少し、ここで調べ物をしてから行くよ。
シェリは2部隊を率いて先に王都郊外まで行きなさい。私もすぐに追いつくようにする」
シェリはナプティムウトの言葉に頷くと、そのまま踵を返し医務室を後にした。
部屋に残されたナプティムウトは、シェリとユーリが立ち去った扉の方を、今一度見つめる。
「……シリスハム。かつての同僚だったシェリもユーリも、今じゃ団長と副団長だ」
ナプティムウトが医務室のデスクに視線を移すと、そこには以前ユーリが実家から借用してきた古の海の魔物について書かれた書物たちが数冊置かれていた。
「君は今、どこにいる? たった一人で、何をしようとしているんだ」
その書物たちを見据えながら、
ナプティムウトはかつての部下を危惧するように、一人そう呟いた。
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私が国立図書館に通い出してから、今日でもう一週間になる。
私はロキと共に古書を読み進めてきたが、なかなかカリュブディスの本質を突いたような記述にはたどり着かない。
(ふう。やっぱりカリュブディスのことは、巨大な渦潮を引き起こす魔物ってことだけしか載ってないなあ。
貴重古書たちにカリュブディスの記載がなかったら、他の古書を掘り出して調べるしかないか…… また振り出しに戻っちゃうな)
この一週間、ずっと私に付き添って読解の手伝いをしてくれていたロキにも何だか申し訳ない。
「ロキ、少し休憩にしない? さっき、ギルがお昼ご飯持ってきてくれたから一緒に食べよう」
「腹が減っては戦は出来ぬ〜! あざっす、姉御!」
ロキは相変わらずの陽気さだ。そして早速、ギルが持ってきてくれたサンドウィッチに手を伸ばしている。
「姉御が知りたかったこと、何か分かりました?」
幸せそうに口いっぱいにサンドウィッチを頬張りながら、ロキが私に問う。
「残念ながら、この棚の本たちには書かれてなかったよ。
ロキもたくさん読んでくれてありがとう。疲れてない? 大丈夫?」
「大丈夫っす!
でもそっかー。俺が読んだのも、カリュブディスがポセイドンの娘ってことしか書いてなかったっすからね〜」
うん…………?
「ロキ、今何て……?」
「え? カリュブディスは海の魔物だけど、実は海神ポセイドンの子供って。
これは姉御もキャプテンも知ってることでしょ?」
「あ、えと、ロキは今 "娘" って言った? 息子じゃなくて?」
「海神と地母神の娘って書いてありましたけど。え? 違うんすか?」
「……ロキ。それが書いてあった古書ってどれかな?」
ロキはきょとんとしながらも、私に一冊の古書を差し出した。
「この本の…… あ、ここっす、姉御!
"カリュブディスは海神ポセイドンと地母神ガイアの娘。
もともと人間界で暮らしていたが、やがて海へと戻り、巨大な渦潮を引き起こして人を襲う魔物となった" 」
「……カリュブディスは女性で、もともとは陸で暮らしていた?」
(どういうこと? カリュブディスはテティス女神様の元婚約者じゃないの?
ノワルは私のこともカリュブディスの妃に添えようとしていたし、他にもたくさん側妃がいるって言ってた)
「姉御〜? 固まってますけど大丈夫っすか?」
「ロキ、今日ギルって何時頃お城に戻る?」
「キャプテンなら、もうそろそろ帰ってくるんじゃないすか?」
「私たちも戻ろう!」
「え? 何かあったんすか?」
「ロキ、お手柄! このサンドウィッチもどうぞ!!」
「ええー?!」
ますますきょとんとしながらも、サンドウィッチを引き続き頬張っているロキの横で、私は古書に書かれている文字を、もう一度目で追う。
(本当のカリュブディスが別にいるとしたら、ノワルの主は一体誰なの?
"カリュブディス" と "ノワルの主" 。
二人を繋ぐ鍵はどこ?)
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「あ、二人ともお帰りなさーい! おやつ出来てるよ〜」
ロキと私がグッセンスタシューン城へと戻ると、今日は学校がお休みだったエマが侍女のお仕事をテキパキとこなしていた。
「今日はねえ、リリィさまが大好きなパンケーキを作ったんだー」
「わあ、ありがとうエマ。美味しそう!」
「えへへ! 料理長さんに教えてもらいながら作ったんだよ」
エマは同年代の子供たちに比べて本当にしっかりしている。
ギルのために花嫁修行も頑張っているだけあって、簡単な料理ならちゃちゃっと作れてしまうのだ。
「エマすげー! 俺も食いたいっす!」
「はいはい、ロキの分もちゃんとあるから。手を洗ってきてね!」
「お〜やりぃ! 姉御、手洗い場行きましょー」
ロキが私の手を掴んで洗面所へと
急ぐ。
先日、ロキに年を聞いてみると、彼は18歳で私と同年だということが分かった。
同い年だし気軽に名前で呼んでもらいたいと伝えたが、彼は、「いや、俺にとって姉御は一生姉御なんで!」と言って、引き続き姉御呼びとなった。
……話が逸れてしまったが、何が言いたいのかというと、エマは姉キャラでロキは弟キャラだということ。
毎日一緒にいるおかげか、何だか近頃はこの二人が本当の姉弟のようにも見えてきた。
「ふふっ。二人は何だかお姉ちゃんと弟みたいだね。年は逆なのに」
「それ、キャプテンにも言われたっす! もー勘弁して下さいよ〜。俺にも年上の威厳ってもんが……」
と、ウンヌンカンヌン言ってはいたが、ロキも何だか楽しそうである。
(兄弟っていいな。私は一人っ子だからなぁ。シェリたち三姉弟も仲良しだし。
あ、そういえば書類仕事組のマルフェスって、第五部隊隊長のオルフェスの弟なんだっけ)
などと、マーレデアム王国の兄弟事情を考えながらエマの元へと戻ると、ちょうどギルが視察から城へと帰還した所だった。
「お帰りなさい、ギル」
「おう。お前ら今日は早えな」
「ギル、ちょっと話したいことがあるんだけど、この後時間あったりする?」
「……カリュブディスのことか?」
「うん」
「なるほど、そいつは奇遇だな。俺も今日ちっとばかし気になる情報が手に入った」
ギルはそう言って、片方の口角を上げる。視線は何故か床の方へと向いていたが。
「ちょっとー二人とも! せっかくおやつ作ったんだから、"かいぎ" は後でしてね!」
「……そうだね。エマのパンケーキ、いただいていい?」
「もちろんだよー! みんなで一緒に食べよう」
ニコニコしながら、パンケーキの乗ったお皿を並べてくれているエマに癒されつつ、
「うまそー! 俺、腹ペコペコなんすよね〜」
と、つい先程大量のサンドウィッチを平らげていたロキの発言に驚きつつ、私たちは皆で食卓テーブルへと着く。
(カリュブディスが女性かもしれない説。
ある意味振り出しに戻っちゃったけど、これが真相の手がかりになるはず。
……海底戦争は絶対に起こさせては駄目だ。カリュブディスを名乗る、"ノワルの主" と
接触するまでに、もっとたくさんの情報を得ないと)
マーレデアム王国の大切な人たちの命を守るために。
「みんな、お味はどうー?」
「姉御の飯も最高ふけど、エマの菓子もぱねえっふ〜」
「ロキ! てめえは食うか話すかどっちかにしろ!」
孤児として育ってきた彼らが、やっと手に入れたこの温もりを守るためにも。




