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15. 未来へのミッション

第二章 『海賊編』



「リリアス兄ちゃんって、ほんとは女だったんだな」


「ごめんね、みんなに本当のこと言えなくて。男の人でも、あなたたちが憧れてた海賊でもないの」


「ううん。女神さまでも、リリアスお兄ちゃんが優しいことには変わりないもん!」



「……そう言ってくれて嬉しいな、ありがとう」




グッセンスタシューン王国・初春の祭典から約一月が過ぎた。



ここは、あの国立図書館内。



「よーし、そろそろ読書を始めるよ。今日は何のお話を読む?」



「あたし、お姫様が出てくる物語がいい!」


「オレはやっぱ、海賊が出てくるやつ!」




ギルと話し合った結果、私は月に二度だけ今後もグッセンスタシューン王国へと赴くことになっている。



主な理由は、この場に集まっている子供たちのため。


今まで学校に通えていなかった彼らに向け、私は月に二度、ここで "先生" となる。


と言っても私が担当するのは、読み書き、簡単な計算方法の指導、そして今まさに行おうとしている、絵本の読み聞かせなどささやかなもの。



ちなみに、私がグッセンスタシューン王国を訪れる日は、ギルの部下、もとい元海賊たちが港町や市街地をこっそりと見回ったり、図書館付近の警護をしてくれるようだ。


もちろん、ギルが国王になってからは、港にも必ず警備隊を置くようにしたとのこと。

未だ他国海賊船への警戒は続いているらしい。



私は子供たちが希望した絵本を手に取り、再びこちらへと意識を集中させる。



「じゃあ順番に読もうね。最初は人魚姫のお話から……」


「ようお前ら。ちゃんと勉強してっかー?」


 

と、絵本を開こうとした所で、聞き知った声が図書館へと響いた。




「ギル! お帰りなさいー! 今ねえ、リリアスお兄ちゃんにご本読んでもらおうとしてたの」


「ギルは仕事終わったのか?!今日は一緒にサッカー出来る?」


「お絵かきは? 」



「落ち着けお前ら!まだリリアナの授業終わってねえんだろ?」



図書館へとやって来たのはもちろん、ギル。


彼は子供たちの頭をわしゃわしゃと撫でながら、呆れたようにそう言った。



彼は新国王として、王国復興のため民の人たちと共に日々奔走しているようだが、週に何度かは、必ずこうやって子供たちに会いに来ているようだ。




「ギル、お帰りなさい。会議はもう終わり?」


「ああ終わった。何かあれば手伝うぜ?」


「ありがとう。でも私の方も、この二冊の読み聞かせで最後だから」



私は手に持っていた絵本をギルへと見せる。


一つは船乗りの物語。そしてもう一冊は、人魚姫のお話が書かれたものだ。


  


「……リリアナ、そういえばあの男はどうした」


「あの男?」


「 "人魚王子" のことだ」


「……もしかして、シェリのこと? 」



ギルは人魚姫が描かれている本の表紙をまじまじと見やり、そう問うてくる。



「シェリなら今、中央広場にいるはずだよ」


「まさか、手品を披露してやがるのか?」


「うん、多分ね」


「……よし。読み聞かせが終わったら俺たちも行くか」


「あ、ギルも見たい? 手品」


「ばっ……! 俺は手品の種明かしがしたいだけだぞ?」



見たいけど、素直にそう言えない新国王に苦笑する。




読み聞かせを終えると、私とギルは子供たちと共にぞろぞろと中央広場まで移動した。



広場に着くと、既にシェリの手品ショーが始まっていた。



「すっげーなぁ! 手元から消えたカードが、今度は兄ちゃんのポケットから出てくるなんて!」


「あ、それ!この前黄色いお面被った人がやってたやつよね。なんで人形が浮くのよ〜っ」


「あれやってくれよ!あの青い面の男がやってた、首がポロッと取れるやつ!」



民たちの瞳がキラキラと輝いている。

国が廃れ、娯楽らしい娯楽がなかったこの王国では、シェリの披露する手品がものすごく受けているようだ。



「俺も奇術師になりてえ! 兄ちゃん、弟子にしてくれ!」


一人の男性がシェリに向かい、そう言葉をかけた。



「本気で生業なりわいにしようと思うならそれなりの修行が必要だ。


そしてこれを魔法などではなく、しかと種があると分からせた上で観客を魅せることだ。

そうすればペテン師ではなく、奇術師としての格も上がるだろう」



奇術に興味を持ち始めた人たちがシェリの言葉にふむふむと耳を傾けている。



「兄ちゃん、あの面が次々に変わる術は?

あれも修行を積めば出来るようになるのか?」



「 "変面" のことか?

あれは我が国が遥か昔に、とある東国の伝統芸を真似て確立させたものだ。秘芸ゆえ、種を明かすことが禁じられている。

よって、あれの修行だけは積ませられんな」



シェリがそのように返答すると、民の人たちはとても残念そうにする。


シェリはやれやれ、とでも言うように肩を上げた。



「変面以外であれば、今後いくらでも教えてやる。


さあ、そろそろ仕事に戻れ。さぼっていると、またお前たちの王に叱責されるぞ」



シェリがそう言うと、人々は名残惜しそうに中央広場を後にしていくのだった。






「……奇術を生業、か。ふん、悪くねえな」



シェリたちの様子を静かに見守っていたギルが、私の隣でそう呟いた。


唇の端を上げていたので、彼はまた、何かプランの目処めどでも立てたのだろう。




「あ! "ギルストロン様" と愛し子様!」



すると、シェリの手品を堪能していた人たちがギルに気付き、今度はこちらへと駆け寄ってきた。



「お前ら。娯楽もいいが仕事に遅れるんじゃねえぞ」


「ギルストロン様は厳しいなあ」


「たりめーだろ。今からが踏ん張り時なんだぜ?」


「 ははは! "アムレート二世陛下" 、どこまでも付いていきやすぜ?」


「おうっ、頼むぜ相棒ら!」



民の人たちと和やかにそう話し始めたギル。



"ギルストロン様"

"アムレート二世陛下"



彼らの様子を見やりながら、私は一月前に交わしたマーレデアム国王との会話を思い出す。






『ギルへの言伝ことづて、ですか?』


『はい。私の "友人" だった、彼の祖先のことをお伝えしたいと思いまして。



同じ黒髪、深紫こきむらさきの瞳を持ち、大胆不敵な性格で民にも慕われていたようです。


当時、海人騎兵団の団長を務めていた私のことを、此度のラドシェリムたちのように船上で捕らえ、解放の条件に友になれと言うような男でした。



民を想い、種族の違う者にも敬意を払う、本当に良き国王だった。


彼もあの者のように、分け隔てなく慈愛を与え得る王になって欲しいと願っております。



"ギルストロン・アムレート" の血を受け継ぐ、グッセンスタシューンの若き国王に、どうかそのようにお伝え下さい』





国王のこの言葉をギルに伝えてからというもの、彼は自身のことを、


"ギルストロン・アムレート二世"


と名乗るようになったのだ。




「リリィ、来ていたのか。子供たちへの授業はもう終わったのか?」

 


すると、今度はシェリが私たちのもとへと歩みを進めて来る。



「うん。今日もみんな真剣に取り組んでくれたよ」


「そうか、えらいなお前たち」



シェリが子供たちを褒めると、皆はとても嬉しそうな顔をする。



シェリの手品が皆の心を掴んでいるせいか、彼は子供たちのちょっとしたヒーローになりつつあるのだ。



「やいてめえ、俺以上にこいつらの人気を得るんじゃねえよ」



と、民たちとの会話を終えたらしいギルが、こちらの会話へと混じってくる。



「ほう、羨ましいのか? 貴様にも手品の一つや二つ、教えてやってもいいぞ?」


「……提案には飲みたいが、おっそろしく腹が立つな」



顔を合わせば何かと突っ掛かり合うこちらの二人。

もう最近は仲が悪いんだか良いんだか、段々と分からなくなってきた。




ギルは民の人たちに指示を飛ばし、子供たちを家に帰らせた後、私たちの見送りのため、港町の入江まで同行してくれた。




「で、今回。グッセンスタシューン王国とマーレデアム王国が "同盟" を結ぶことになったが、その条約内容はちゃんと考えてきたんだろうな?」



人気のない入江に到着するや否や、ギルがそのように話し始めた。

シェリも、仮面と被っていたフードを外す。



「そのまま貴様に問い返してやろう。愚案を提示すれば即刻切り捨てる」


「ああ?!」


「はいはい!二人とも、お終いにしてね。


ちゃんと話し合わなくちゃ。

今回は個人同士じゃなくて、王国間の同盟なんだから」



「……分かった」

「チッ。リリアナに免じてやらあ」



バチバチと火花を散らされるのは、本日二度目だ。



だが今の言葉の通り、マーレデアム王国及びグッセンスタシューン王国両国間において、この度海陸同盟を結ぶことになったのは事実だ。


そしてそれに伴い、グッセンスタシューン王国における私の役職も定められることとなった。



私は他国に見つからないよう新国王のみが知る、"とある場所" に身を潜める。

そのため、ギルとの共同統治は不可能となり、"女王" ではなくなる。


だがギルや民たちは、どうしてもグッセンスタシューンと愛し子との関係を確かなものにしたいようだった。



そこで彼らが私に発案した役職は、"グッセンスタシューン新国王の後見人" というもの。


つまり、ギルの後見人という立場はどうかということだった。


だが後見人といっても、実際に彼の保護者的存在になるわけでも、財産の管理をするわけでもない。


あくまで、新国王のバックにはテティス海女神の愛し子が付いているぞ、攻めてくれるなよ、という他国への脅しのようなものだと思われる。



なかなか複雑な立ち位置だが、今後もグッセンスタシューン王国再建に協力したいという思いは確か。

だから、私はその提案を受けることにした。

 




「で、てめえらからの発案は? マーレデアム王国、海人騎兵団副団長殿の意見を聞こうか?」


「ふん、では我々から言及しよう。


此度の同盟は、"女神の愛し子を守護する" という同目的に基づいたもの。


よって、グッセンスタシューン王国近辺海域の警護、つまり、他国海賊船の見張りを我々海人騎兵団が請け負うというのはどうだ?」


「……へえ? てめえら騎兵団の連中がグッセンスタシューンの番人になってくれるってか?」


「この王国は鎖国国家のせいか、警備が甘すぎる。

さらに貴様が国王になれば、以前のように何月もの間、海上を自由に遊泳するなど到底無理な話だ。


それに、人間の船では行動出来る範囲などたかが知れている。


俺たちは海中を行き来出来る上、優秀な戦闘鮫魚たちも所有している。そちらの方が他国にも悟られぬ上、効率も良いはずだ」



「……なるほど。耳が痛い話だが悪くはない。


ならてめえは? その見返りに一体何を望む? 」



シェリは条約内容が書かれている文書を取り出し、それをギルへと手渡す。



「遥か海底に存在する我がマーレデアム王国、さらには我々海人族の存在が陸の地で認知されることを、是が非でも阻止してもらいたい」



シェリはそう言い切った。



「……それは何故だ」


「貴様の知る通り、我が王国の人口は年々減りつつあるのだ。


海人族は一国家一部族。人間社会のように、多くの国々が存在しているわけではない。


それに、人間は我々海人族の見目を嫌う。

肌の色、瞳の色、及び姿形を、異形いぎょうの忌むべき存在として捉える。



俺は王族として、マーレデアム王国を滅亡させるわけにはいかんのだ」



ギルが、グッセンスタシューン王国が他国から侵略されるのを回避したいように、シェリもまた、人間という脅威からマーレデアム王国を守ろうとしているのだ。



「シェリ……」


「リリィ、気分を害したのならすまない。しかし皆が皆、其方のような心根を持つ者ばかりではないのだ」



私の頬に手を添え、苦しげに微笑むシェリ。



「……ほんと、くだらねえ。種族の違いなんてよ。


肌や目の色が違おうが姿形が違おうが、同じ人同士だってのによ」



ギルが心底鬱陶しそうに、言葉を吐き捨てた。



「いいだろう。その条約を結んでやる。もう一度、今度は国同士の "ハンドレ" だ。



マーレデアム王国や海人族らの情報が他国へ漏れないように、俺が全力で止めてやる。

もちろん、リリアナの居場所のこともな」



そして、そのようにも言ってくれる。



「あとは、リリアナ。 お前はちゃんと自分の意思で海へ行くんだな?」



"自分の意思で"



きっとギルは、海魔となった愛し子のことを思い、そう私に問いかけたのだろう。


グッセンスタシューン王国の民を救うために、海ではなく陸に帰ることを望んだ、あの王女のことを。



「……うん。そうだよ。海には、私の一番大切な人がいるから」



そう言葉を紡ぎ、私は横に立つシェリの手を取った。



「……そうか。ならいい」


「ありがとう、ギル」


「ふん。俺ににここまで言わせた女はお前が初めてだ」



そう言って、ギルが私の頭にポンと手を置いた。

彼の表情が一瞬曇った気もしたが、すぐに元の勝気なかんばせになった。




「さて、これで海陸同盟が無事に結ばれた。

マーレデアム王国の連中とはこれからもビジネスがしたいと思ってる」


「悪くないな。貴様と手を組んでおくのは我が王国にとっても有益になる。



グッセンスタシューンは、真の愛し子が加護する国へと生まれ変わったのだ。

しかと建て直し、一刻も早く本来の姿を取り戻せ、


"ギルストロン" 」



「……は! しっかり目ぇ開けてよく見てろ、


"ラドシェリム" 。


あと今後、てめえのせいでリリアナが泣くようなことがあれば、海陸同盟はチャラになるぜ?」


「肝に銘じておこう」



そう言い合いながら、シェリとギルは一度だけ、拳同士を合わせた。




……800年前もこのような光景が在ったのだろうか。


友となった、ボルドガンフル・ポセイドン国王とギルストロン・アムレート一世の。



シェリとギルの姿を彼らに見立て、私は一人、悠久の時代ときに思いを馳せた。



「じゃあな、リリアナ。お前が俺を選ばなかったこと、いつか絶対に後悔させてやるよ」



ギルはそう言って、私の髪を一房 すくうと、そこに口付けを落とした。



彼は私の髪を手放すとこちらに背を向け、手をひらひらとさせてその場を去って行った。




「……全く。最後まで嫌味な男だが、改めてお手並み拝見といこうか。



神の終着地を、王国民らの再出発地へと変えて見せろ。


今のギルストロン・アムレート二世になら、それを担うだけの手腕がありそうだが?」





シェリからギルへ贈られたその花向けの言葉と共に、グッセンスタシューン一連の件は、一先ず幕を閉じたのだった。







マーレデアム王国へ戻るなり、シェリが私を王宮の中庭へと案内した。


そこに設置されているテーブルの上には、ティーポットやカップ数脚、それに焼き菓子といったティーパーティーセットが、既に用意されていた。



「シェリ、急にどうしたの? 久々に中庭でお茶会をしようなんて」


「其方の復帰祝いがまだだと、騒がしい奴らが多くてな」



シェリに席へと誘導された私。

するとハーブティーならぬ "マリンプラントティー" を、シェリ自らが入れてくれる。

所作も実に優雅。



何でも完璧にこなしてしまう彼を見て、私は少し息をつく。



「はあ。ほんと、シェリは何をしても様になるんだね」


「惚れたか?」


「……もともと惚れてます」


「ふっ、そうだったか」



シェリが顔をそむけ、くっくと肩を震わせる。


こうやって彼が笑う姿を、何だか久々に見た気がする。




私たちは二人でお茶を飲みながら、少しばかり穏やかな時間を過ごしていたのだが、



「あーっ、ひどい! 二人で先に始めちゃってるー!」



突然、中庭にユーリの声が響いた。私は驚いて、思わず勢いよく後ろを見やる。


すると大門の前には、ユーリを初め、ナプティムウトやトリンティア夫妻、モネやルルにネレオやマルフェスといった人たちが集まって来ていた。



「みなさん!」


「来たか」



私とシェリは席を立ち、皆を出迎える。



「はぁー、今日は一段と訓練疲れたー!

リリィがいないと本拠地がほんっとむさ苦しいったら。訓練中もみんなどんよりしてるしさあ」



ユーリが焼き菓子をつまみながら椅子を引き、私の隣へと腰掛けた。



「こら、ユーリ。行儀が悪いよ。


でも騎兵団員も戦闘鮫魚たちも、リリアナ様がいらっしゃる方が士気が断然上がるのは確かだね」



ナプティムウトはユーリにお小言を言いつつも苦笑している。



「まあリリアナ様! 今朝お着せした羽織物はいかがなさいましたの?!」 


「そんな薄着でいらしてはなりません。お身体が冷えてしまいますわ」



ユーリとナプティムウトより、少し遅れてこちらへとやって来たモネとルル。

私は彼女たちに姿を確認されるや否や、膝に置いていたショールで身体をぐるぐる巻きにされてしまった。



「リリアナ女神様、添削していただきたい書類が山積みでございます……」


「俺の描いた図案のチェックもお願いしたいです……」



以前よりもクマが濃くなってしまったネレオとマルフェスにもそう詰められる。



「あなた方。リリアナ様が復帰されて嬉しい気持ちは分かりますが、そんなに一気に押し寄せては彼女がお疲れになってしまうわよ」


「リリアナ様は本当に、皆に頼られておいでですね」



トリンティアは少々呆れていたが、セシルドは微笑んでいる。



トリンティアはここ最近、悪阻も少しずつ収まってきたようで体調も良さげだ。



「ラドシェリムでんかーっ、リリアナさまー! 遊びにきたよーっ」



その時、カイリを始めとした王都に住む子供たちがこの中庭へとやって来た。

どうやらシェリが、彼らにも声をかけてくれていたようだ。



「リリアナさま、またおままごとしようよ!」


「ラドシェリムでんか、他のやつらもでんかにボール投げの特訓して欲しいって!」



子供たちはそう言いながら、シェリと私の腕をぐいぐいと引き、大人たちの中から連れ出していく。



「わわわ……! みんな、早い早い! 」



子供たちの足が速く、私が転びそうになっていた所、



「いたーいっ」

「こけたぁ」



と、私たちの後ろを走っていた小さな男女の子供たちが、本当に転んでしまった。

二人は当然、その場で泣き出してしまう。



私は慌てて、シェリは苦笑しながら駆け寄り、彼らのことを抱き上げた。



「よしよし、二人とも痛かったね。大丈夫、私がおまじないをかけるから!

痛いの痛いの飛んでけー!」


「お前たちは強い子だ。リリアナ様のまじないで、もう痛みもなくなってきたのではないか?」



シェリの言う通り、泣いていた子供たちはあっという間に笑顔を取り戻していた。


彼らを地へと降ろすと、再び他の子供たちの方へと元気よく駆け出して行く。



私は集まってくれた大人たちの方へと一度振り返り、大きく手を振った。



「ごめんなさいみなさま、先に始めてて下さい! 少しだけ、子供たちと遊んできますね」



そう伝えると、皆が手を振り返してくれた。

私はその様子を見てホッと息をつき、シェリと共に子供たちへと向き直る。



「では行こうか、リリィ」



シェリが差し出してくれた手を、私は今度こそ迷わずに取る。



「うん! 子供たちは元気だからね。


私たちも全力でいかなくちゃ!」





今の私たち二人に課された役割ミッションは、子供たちをたくさん笑顔にさせることだ。




------




「姉上、あの二人がうまくいっているようで何よりですね」


「そうね…… 今回ばかりはシェリにも勝機があるかどうかが分からなかったから」


「大丈夫ですよ。まだ交際を始めて日は浅いかもしれませんが、二人の間には確かな信頼関係が築かれていますから」


「そう願うわ。


ティム…… あなたとわたくしで、あのお二人を必ず支えましょう」


「もちろんです、姉上」



「シェリとリリアナ様に、どうかテティス女神の御加護がありますように」




シェリとリリィは今、未来を繋ぐ子供たちと共に在る。


その光景を目にしながら、トリンティアとナプティムウトはしかと頷き合った。




------




「イルトゥーキアよ。其方はあの若い二人をどう見る」


「……ラドシェリムとリリアナ様のことでございますか?」



執務室の窓から中庭の様子を眺めていた国王が、隣に並ぶ王妃へとそう問うた。



「左様。 私はラドシェリムに 、"酷なこと" を強いてしまっているだろうか。


……今後はおそらく、リリアナ様にも。


彼女は女神の愛し子としての責務もお持ちな上、我が王国だけでなくグッセンスタシューンのいしずえともなられたというのに」



国王は深いため息をついた。

王妃はそんな彼の背に手を添え、優しく微笑みかける。



「だからこそですわ、陛下。

王家と愛し子。互いの背負うものを分かち合えるからこそ、あの二人は高みを目指し、並び歩んでゆけるのです。



ラドシェリムはもう子供ではありません。リリアナ様も、まだお若いとはいえ2王国をお支え下さる器量の持ち主です。


きっと、何も心配いりませんわ」



はっきりとそう告げる王妃を見やり、国王は少し眉を下げ微笑み返した。



「……そうであったな。 しかし、其方といいトリンティアといい、そしてリリアナ様といい……


王族の女性たちは皆、本当にたくましいな」


「あら、陛下。そうでなくては心配性で責任感のお強すぎる夫を、生涯支え続けることなんて出来ませんことよ」



イルトゥーキアはにっこり笑ってそう言い放ち、少し細くなった国王の手を、自身のもので優しく包んだ。



この王国は近い将来、次世代の者たちへと託される。



国王夫妻は再び中庭へと眼を移し、未来に向け思いを馳せた。




「信じましょう、陛下。

彼らが必ず、マーレデアム王国を繋いでくれます」


「ああ。我が王国の未来は、あの者たちにゆだねよう」





若く聡明な王。


かたわらに、王と同腹の守護者たち。



そして、その若王の横に並び立つのは、テティスの意思を受け継くマリンクロードの娘。


海女神の愛し子である、あの美しき女神の化身。




国王夫妻の脳裏には今、マーレデアム王国の "未来" が映し出されている。




 

いつもご訪問いただきありがとうございます! 

こちらで第二章終了です^^ 明日はエピローグを投稿します。


その後は第三章、第四章(完)と続きます。もうしばしお付き合いいただけると嬉しいです。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

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