7. 海賊の海底探検
第二章 『海賊編』
ただ今、時刻は午前八時半。
「ぐえぇっ……」
私の隣にはぐったりとしているギルがいる。
顔色もとても悪い。
「ギル、大丈夫なの?」
「……こ"の"や"ろ"う"……絶っ対ぶっ殺す……!」
くぐもった声を出しながらも、ギルはとある相手に向け、そう言葉を吐き捨てた。
「ほほう、どうした?
たったこれだけの量、しかも、こんな薄液ごときで貴様は根を上げているのか?
だらしがないを通り越して、むしろ弱体で哀れに感じるな」
その相手というのはシェリ。
彼はふん、と鼻で嘲笑い、ニヤリとした笑みをギルへと向けている。
「て"ん"め"え"ーー」
「ギ、ギル。無理に喋らない方がいいよ」
私は思わずギルの背を撫でる。
「リリアナ、あいつらは本当に人間か?
こんなクソみたいな薬飲んで平気なやつがいるのか?」
「"秘薬" ね。ちなみにシェリたちは人間じゃなくて海人族だよ」
「だよな。やっぱ人間じゃねえよな」
「……リリィに気安く話しかけるな」
「ああ? リリアナは俺の妻になる女だぞ」
「貴様、頭の中までイカれたか。
もう一度薬剤をぶち込めば少しはマシになるだろうか。 良ければ試してやるぞ?」
朝からずっとこんな調子で、私もクタクタである。
「やめなさい二人とも、大人気ない。
リリアナ様の御前だよ」
「ナプティムウト様……」
ナプティムウトは中和剤のようなお人である。
この二人の間を取り持つのは、私一人では到底無理だ。
ちなみに、秘薬制作に必要とされたギルの血液をマーレデアム王国に持ち帰ってきたのもナプティムウトだ。
彼は私たちが船を去った後、ギルから血液を採取したとのこと。
が、もしそれがシェリだと、確実にギルは取らせなかっただろうと思う。
あのような両者の状態を見ている限りでは。
今日はギルがマーレデアム王国へと赴く日。
シェリが作った改造版秘薬により、彼は現在、私たちと共に海底へと降り立っている。
ちなみにここは王都郊外。
「気分は最悪だ……」
シェリの注射タイプとは違い、ギルが受け取ったのはドリンクタイプ。
呼吸自体は問題なく普通に出来ているようだが、何だか別の意味で体調が悪そうだ。
「ギル、薬は三時間しか効かないんだよね?
そんな体調でマーレデアム王国を見て周れるの? ほんとに大丈夫?」
「……お前がいてくれたら何とかなりそうだ」
「私? 医学の知識も何もないし、むしろ全然役に立たない気がするんだけど……」
「そんなもんはいらねえよ」
ギルはそう言って、突然私の肩を抱き寄せてきた。
そして、あろうことかシェリやナプティムウトの目前で私の頬にキスをした。
「ちょっと……!」
「よし、元気出たぞ」
「よし、じゃないでしょ!」
私たちがギャーギャー騒いでいる後ろで、ゆらりと動く黒い影が一体、と一本。
「貴様はやはり死ね」
その影の正体はやはりシェリで、彼の愛槍もお目見えである。
「はっ、ほんっと余裕ねえなお前。
そんなんじゃあ、リリアナに愛想尽かされる日なんて目に見えてるようなもんだな」
「……何だと? もう一度言ってみろ」
「ふぅ、リリアナ様。今日は私がお供いたします。さあお手をどうぞ」
ぐったりしている私に対し、ナプティムウトが菩薩のような笑顔を向け、手を差し伸べてくれる。
「……是非よろしくお願いします、ナプティムウト様」
私はナプティムウトに差し出された手を取り、彼にエスコートしてもらうことにした。
「二人は頭を冷やしなさい。
シェリ。君がこんな調子じゃギルの案内なんて出来ないよ?
ハンドレで決めたことはちゃんと守りなさい。
ギルは体調を整えないと。君は三時間で王国を周らないといけないだろう?」
「……はい」
「分かった……」
さすが、兄上様である。
ナプティムウトの側にいると、シェリ以外の人たちも皆、彼の弟のように見えてくるから不思議だ。
しばらく海底を歩いた後、私たちはセラチモルファ・ドムスへと到着した。
「さて。ここからは私たちの愛鮫に乗って移動するよ」
「……おいおい。マジで言ってやがるのか? 相手は人喰い鮫だぞ」
ギルはその気分の悪そうな目を、上方を旋回している鮫たちに向けている。
「ギル。ホメロスたちは賢いし、ずっごく可愛いんだよ」
「リリアナはこいつらだけじゃなく、鮫も手懐けてんのかよ……」
シェリとナプティムウトが鮫笛を吹くと、すぐにホメロスとオリオンが私たちの元へと舞い降りてくる。
「? 何が起こったんだ?」
「シェリたちが今、笛を吹いたでしょう?」
「何も聞こえなかったぞ」
「ピーっていう、可愛い笛の音がしなかった?」
「全く」
……やはり、私には "どちらも" 聞こえる。
以前に起きたリヴァイアサン事件。
あの時も、海人族には聞こえない魔笛の音を私だけが聞き取れた。
そして鮫笛。こちらはシェリたち海人族には聞こえど、人間であるギルにはどうやら聞き取れない音のようだった。
「シェリはリリアナ様と、私はギルと同乗しよう。
君はこのフードを被って、決して我々以外の海人族には見つからないようにね。
侵入者だと思われたら大変だから」
「なんで俺がリリアナと一緒じゃねえんだよ」
「リリィと乗ってもいいんだぞ?
俺たちと別れた後で、鮫たちの餌食となっても良いと言うのなら。
ちなみに喰われるのは貴様だけだ。
リリィには初対面の時から懐いている」
「……鮫は嫌いだ」
そう言って、ギルは渋々ナプティムウトの後ろへと跨った。
シェリと私、ナプティムウトとギルは、鮫たちが動きやすいように少し距離を空けて移動し始めた。
「シェリ」
「……」
「シェリ?」
「……あの海賊。リリィのことを妻だとぬかし、やたらめったら触れようとする。
本当に忌々しい男だ」
「……ああいう人なの。
私の目の前でも、両腕に女の人抱いてるような」
「なるほど。俺が殺してやろう」
「だ、大丈夫だよ? あの時のハンドレは無効になったんだから。
シェリたちのおかげ。ありがとう」
振り返ってそう言葉にすると、少し息をつきながらも、シェリは穏やかな笑みを見せてくれた。
ホメロスの背に乗りながら、私たちは王宮を目指して進んで行く。
ギルは一応、マーレデアム王国の元お尋ね者なので、国王への御目通りは必須らしい。
そのため、まず最初は王宮にある彼の執務室へと連れて行くことになっているのだ。
「でも今日は、ギルにとってもすごく充実した一日になるんじゃないかな。
あんなことばっかり言ってるけど、すごく意気込んでると思う」
「あやつが政治を行えるのか?」
「……どうかな。 でも、王国を正したいって思ってるのはすごく伝わってきた。
ギルが私にこだわるのも、今の国王様は愛し子じゃない、嘘をついてるんだって、民の人たちにそう証明したいからだと思う。
でも、私が持ってる愛し子の証なんて、ほんとに頸にある痣くらいしかないの。
陸じゃ、神力は使えないだろうし」
私は自身の首後ろをひと撫でする。
「……リリィは、愛し子であることを、」
「え?」
「……いや、その紋章のことを今はどう思っている? 」
「どうって……」
少しだけ考えてみた。
もう以前ほど嫌だとは思わなくなっているものの、やはり堂々と見せることには、まだ抵抗がある。
小さな爪痕くらいならまだ良いが、痣は頸全体に広がっている。
「やっぱり、気になることには変わりないよ。
変な痣だって揶揄われたこともあるし、今だって極力、髪を下ろして人には見せないようにしてる。
だって、何だかひどい傷跡みたいでしょ?
私だって一応女の子なんだから、少しくらいは気にするよ」
私は頸に当てていた手を下へと下ろした。
すると入れ替わるように、今度はシェリが私の頸にかかる髪を避けた。
「俺はこの痣も含めて、リリィを美しいと思っている。
リリィにとってはあまり好ましいものではないのかもしれないが、これは俺と其方を繋いでくれた、大切な架け橋だ」
そう言うと、シェリはそこに唇を寄せた。
「リリィは全てが美しい。身体も心も、全てだ。
どうか、ずっと俺のそばにいてくれ。
……俺から、離れて行かないでくれ」
「シェリ……?」
シェリは、私があの陸上王国の後継者だということを気にしているのだろうか。
頸から気配が遠退くと、私は少しばかり後ろを振り返った。
彼の顔は、やはり少し曇っていた。
シェリの様子がいつもと違うことに気付いたが、
「……すまん。何でもない。
リリィ、王宮が見えてきたぞ。
……そして非常にまずいな」
彼が何やら急に焦り出したため、私も慌てて前を向いた。
しかし視線の先にいたのは、王宮の中庭に佇む麗しいトリンティアだった。
ちなみに一足先に王宮へと到着していたナプティムウトとギルは、すでに彼女と共にいる。
どうやら私たちが到着するのを皆で待ってくれているようだが、何だか様子がおかしい。
「リリアナ様、お帰りなさいませ」
シェリと私が中庭へ降り立つと、トリンティアはいつも通りの優しい笑顔で出迎えてくれた。
「トリンティア様、ただ今戻りました」
「お疲れではございませんか?」
彼女は相変わらず、とても優しい。
私には兄弟がいなかったから、こんな素敵な人がお姉さんだったらいいなといつも思ってしまう。
「で、そこのあなた。
今、わたくしに何と言ったのかしら?」
が、優しい笑顔からは一転。突然トリンティアの顔に影が落ちる。
彼女の目は大変据わっている。
その表情は、例のあの人へと向けられていた。
「ナプティムウトが弟より200歳年上だっつってんだから、そのまた姉のあんたは一体いくつなんだと思って、年齢を聞いただけだろ?」
「ギ、ギル?!」
途端、私は真っ青になった。
トリンティアに何てことを言うのだ……!
「リリアナ。こいつらって一体何歳なんだ?
若く見えるが200歳は優に超してるんだろ?」
「……私が601、シェリが352歳だよ」
ナプティムウトは敢えてトリンティアの年齢を言わない。
「マジか……何なんだよ海人族ってのは。大方そこの姉は800歳超えってとこか?
ちなみに俺は28だ。
リリアナとの年齢差は俺が一番合う」
……この人はもう、本当に黙っていてほしい。
トリンティアは髪が逆立って目がこれでもかというくらい釣り上がっているし、
シェリは青筋が顔だけではなく全身へと広がってしまっている。
「……貴様」
「お前たちは三人姉弟か?
それなのに年齢差が "200" も空いてるってのは……
ああ、そうか。
人間と海人族は"身体の造り" が違うからか」
ギルはそんなことを言い出し、さらに、
「王家にリリアナを取り込もうとするのは止めろ」
こんな言葉を続けた。
私はポカンと口を開けてしまった。
ギルは一体、何が言いたいのか。
それにしても、考えたこともなかった。
シェリたち姉弟の年齢差なんて。
どうしてそんなに歳が離れているのか、なんて。
ギルは王宮に向かい、一人ゆっくりと歩いて行く。
私は彼に声をかけることも出来ず、ただその背中を見つめているしかなかった。
「……リリアナ様。 わたくしは夫と結婚して、もう400年になります」
すると、何故だかトリンティアが私に向けて、急にそのようなことを言い出した。
「……? はい、トリンティア様。
侍女の二人から少し聞いています」
「でも、子はいないのです」
「? はい……」
「……姉上、義兄上がお待ちなのでは」
私が少し呆気に取られていたところで、シェリが言葉を挟んできた。
「……そうね。
ごめんなさいね、リリアナ様。何でもございません。
わたくしは部屋に下がりますわ。
ティム、シェリ。後はよろしくね」
トリンティアはそう言って、中庭を後にした。
いつも凛と背筋を伸ばし、堂々としているトリンティア。たまにとても男前に感じることもある。
しかし、今の彼女は何かをひどく思い悩んでいるような、そんな表情が見て取れた。
「其方がギルか。
此度はリリアナ様を攫い、我が騎兵団の者にも随分と手荒い真似をしてくれたようだ。
しかしラドシェリムに取引きの件は聞いている。
一先ずは休戦とし、其方を客人としてこのマーレデアム王国へ迎え入れよう」
国王の落ち着いた声が執務室に響く。
「あんたが海底王国の国王か」
シェリたちが国王の御前に跪いているのに対し、ギルは悠々と彼に向かい立っている。
「今日はあんたらの王国と王政の在り方を学びに来た。
俺を殺さずこんな海底に連れて来るぐらいだから、あんたも俺の正体を知ってて、それでいて少しばかり期待している感じか?
グッセンスタシューンが立て直されるのを」
「……息子たちに聞いていたとおり、なかなか利発な若者だ」
国王は鋭いとも、穏やかとも言えない表情をしている。
彼はギルの紫水晶のような瞳を見つめ、ふぅ、と小さく息をついた。
「なるほど。 "あやつ" に似ている。
姿形も、物おじしない態度も、秘薬に耐え得る強靭な精神力もな。
懐かしいとすら感じる」
「……あやつ?」
「もう800年ほど経つだろうか。
其方によく似た、あの陸上王国のかつての国王を知っておる」
「……俺の先祖か?」
「恐らくはそうだろう」
国王は悠久の時代を懐かしむようにギルを見やっていたが、私はそんな国王に向け、思い切り目を瞬せてしまった。
が、それは私だけではなく、シェリたちも同様のようだ。
「こ、国王様はギルのご先祖様とお知り合いだったんですか?」
ギルと国王がほぼ同時に私へと視線を移す。
しまった。思わず口を挟んでしまった。
ちなみに、私は二人とは三角形になるような位置に座らされている。
恐ろしく豪華な椅子に。
「いかにも、リリアナ様。
かつてグッセンスタシューン王国がまだ栄華を極めていた頃に、私は一人の若王と出会いました。
破天荒で、無茶の多い男でしたが、誰よりも民の未来を案じ国を愛していた。
……私はその者をとても尊敬していたのですよ」
今度はギルが目を見開いた。
シェリたちも少し戸惑いを隠せないような表情をしている。
「さて、年寄りの話はまたの機会に。
秘薬の効き目は短い。
戦闘鮫魚で我が王国を巡回すると良いだろう。
それに本日明日と、守護者たちとの会合が開かれる。その様子もとくと見ておくが良い」
国王のその言葉と共に、ギルの謁見はまずまず、無事に終了したようだった。
私たちは王宮の執務室を後にすると、早速王都の方へと飛び立った。
ちなみに、本日も上空周遊コースである。
ギルの姿を王国民たちに見せるわけにはいかないからだ。
「ギル。あとニ時間ほどしか効き目がない。
王都を一時間ほど回り、その後もう一度王宮に戻って……」
「謁見見学は明日にする」
キラキラした目を王都へと向けたギルが、
ナプティムウトの言葉を遮った。
「明日だと?!」
シェリがすかさずそう突っ込む。
「よく考えてみろ。たった三時間で王国を全部周遊するなんざ無理に決まってる。
今日は王都を見て、明日はその会合とやらを見学する」
「貴様の都合で動けると思うなよ。海賊とは違い、我々海人騎兵は忙しい」
「別にてめえらじゃなくていい。
リリアナ、明日はお前が案内してくれ」
「わ、私?」
「一緒に王政の在り方を見るぞ」
ナプティムウトと共にオリオンに乗ったギルがニィッと笑う。
(確かにこの三人の中じゃ私が一番時間に余裕があるけど。
でも、それより)
「ギル、秘薬をそんなしょっちゅう使っちゃだめだよ。きっと貴重なものだろうし。
それに、さっきまであんなに気分が悪そうだったのに、明日も薬剤を飲むなんて……」
「ほんと、リリアナは心配ばっかだなあ。
さっき国王も俺の先祖がどーとか言ってただろ。秘薬に耐えれる身体みてえだから心配すんな」
「……おい。リリィも暇ではない。
愛し子としての役目や、騎兵団本拠地での書類仕事が山ほどあるのだ」
「てめえら、リリアナをそんなにこき使ってやがるのか。仮にもこいつは王女の資格を持つ女だぞ?
ここの王妃や姉王女も、リリアナと同じくらい働いてんのかよ?」
「……貴様」
「ギル、やめて! 私がお仕事したくて自分からシェリにお願いしたの。
毎日祝福があると民の人たちも喜んでくれるし、書類仕事もやりがいがあって楽しいから」
真剣にそう話す私を、ギルがじっと見つめてくる。
「リリアナは母国にいた時どんな仕事をしてたんだ?」
「私? えっと、港町のカフェでウェイトレスをしていたの」
「へえ。リリアナがまだそこで働いてる時に俺が立ち寄れてたら、お前がこいつらに見つかっちまう前に口説き落としてたのにな。
お前の国もいつか見て回りたい。共和国も興味がある」
「……一瞬常連さんたちを思い出しちゃったよ。
都会部分はここの王都に少し雰囲気が似てるかなあ。あ、でも私が育った港町はほんとにのんびりとした所だよ。
だから、陸の王国とはまた違う雰囲気を持ってるのかも。ほら、王国って都会が多いから」
私は故郷が少し懐かしくなった。
リュカやオーナーは元気にしているだろうか。
そういえば私の住んでたアパートや荷物はどうなったのだろう。
曾祖母や両親が眠るお墓のことも気がかりだ。
「……リリィ」
「あ……! 違うよシェリ。帰りたいとかじゃないからね。
友達のこととか、おばあちゃんたちのお墓のことが気になっただけで」
私は慌てて笑顔を作る。
シェリの前でして良い話ではなかった。
「リリアナ。明日はやっぱ、お前が案内してくれ。お前の母国のことをもっと聞きたい」
「共和国だけど参考になる?
あと、私一人で出歩くわけにはいかないんだけど、どうしようか」
「……俺が付く」
「シェリ……でも、騎兵団のお仕事は大丈夫なの?」
ちなみに私は、お祈りは常勤、書類仕事は非常勤というような位置付けである。
「ああ」
「何だよ。てめえも来るのかよ」
「貴様とリリィを二人にするわけがないだろう」
「ふぅ、話はまとまったかい? じゃあ今日は王都を見て回ろうか。
早く巡回しないと本当に時間がなくなってしまうよ。
リリアナ様も、何か気になる物や食べてみたいものがあればおっしゃって下さいね」
「ありがとうございます、ナプティムウト様」
「リリアナ、リリアナ! 俺はあれを食ってみたい!」
上空から、早速ギルが何かを見つけたようだ。
「あ、綿菓子じゃない。前に食べてみたけど陸のものとおんなじ味がするの!」
「すげえな。何で海底に綿菓子があるんだ。しかも溶けねえのかよ」
「不思議だよね〜!
あ、ギル! あれも陸にある食べ物!」
「おっ……? ああ、ありゃイカ焼きじゃねえか。さすが海底だな。
にしてもリリアナ、お前恐ろしく目がいいな」
「食べ物を見つけるのは得意だよ」
「ぶは!」
「 "ワタガシ" に "イカヤキ" ……
リリアナ様とギルの言っているものはどれでしょうか?」
「あ、ごめんなさい! ここでは違う名前でしたね」
「めんどくせえなあ、海底王国とやらは」
「そんなこと言わないの、ギル」
「へいへい」
このような海底で、まさか陸に関する共通の話題を持てる人が現れるなんて思っていなかった。
なので、私はいつもより、少しお喋りになっていたのかもしれない。
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楽しげに会話を続けているリリィとギル。
二人の会話を、シェリは黙って聞いていた。
彼は自身の手の平を見つめた。
己の肌は、青い色をしている。
さらにそこには自身が海人族という紛れもない証の、鱗と水掻きが付着していた。
青い肌も鱗も水掻きも、
人間であるリリィとギルには、どれも備わっていないものだった。




