4. 王家の秘薬
第二章 『海賊編』
(幕間)
どうして、あなたがここに?
呼吸は大丈夫?
私がここにいることが分かったのは何故?
他の人間たちには見つからなかった?
聞きたいことは山ほどある。
なのに、それがうまく言葉に出来ない。
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「リリィ、どこにも怪我はないか?」
シェリは私の正面へと向き直ると、顎下や頬に手を伸ばし、無事を確認するかのようにそう言った。
「シェリ……どうやってここまで、来たの?
り、陸に上がって、大丈夫、なの……?」
うまく言葉が話せない。
「大丈夫だ。呼吸も出来るし問題ない。
しかし」
シェリは私の頬を指で撫でながらも、少し鋭い視線をこちらへと向けてくる。
「リリィ。俺は其方に怒っている」
「……え?」
「何故、俺たちを逃した。
其方が我々の命と引き換えに、あの男と取引きしたことは何だ」
陸国への訪問など、シェリにとってはリスク以外の何ものでもない。
なのに、彼はそんな危険を犯してまで会いにきてくれた。どれほどに心配をかけてしまったのかは十分に理解出来る。
「わ、私は……」
「……すまん。リリィにそんな顔をさせたかったわけではない。
シリスハムの時といい、今回といい。
守人としても恋人としても、其方を守れなかったのは俺だというのに」
シェリは眉をひそめ、そのように言う。
このまま黙っていていい話ではないのは私も理解してる。
例え言葉がうまく出せなくとも、彼には伝えるしかないのだということも。
だから、私はゆっくりと口を開いていく。
「…… "私" 」
「? どうした?」
「対価は、"テティスの血"。
取引きを成立させるためには、"私自身" が必要だって、そう言われたの」
「なんだと……?
では、其方はそれを受け入れたのか?」
「か、海賊船のシンボルみたいな感じにされるんだと思ってたから」
「そんなわけないだろう!
十中八九、奴のものになるということだ!」
私の肩を、シェリの大きな手が掴んだ。
とても、とても痛くて思わずに涙が滲んでしまった。
彼に"妻" という単語を出された時は正直意味が分からなかったが、今思えば確かに鈍かったとも思う。
しかし、私だって好きでギルの言葉に同意した訳ではない。
「……じゃあ、シェリならどうしてた?
私のこと、見捨てて逃げたりした?
それとも、私がシェリたちを見捨てて逃げるような、そんな人間の方が良かった?
シェリは私を、そんな女だと思ってた……?」
シェリが無事で良かったと、心からそう思っている。
だから、間違った選択はしていない。
そのはずなのに、頬に涙が伝い出した。
「……リリィ」
私はシェリから顔を背け、顔を俯かせる。
「ギルが三日後にもう一度海に出るって言ってた。その時に、何とか隙をついて逃げ切れたらって思ってたの。
でも、もしそれが叶わないなら女神の秘宝だけでも海に放そうと思った」
胸元にかけられた秘宝へと、私は手を添えた。
この女神の秘宝は、海人族の人たちにとってもなくてはならない生命線。
「も、もし私が海に帰れなくなっても、め、女神の秘宝があればマーレデアム王国は、」
「リリィ!」
シェリの声が図書館に響き渡り、私は思わずビクリと肩を揺らした。
「リリィ、何度でも言う。
俺が愛しているのは女神の愛し子ではない。
目の前にいる其方だ」
そう言って、シェリは私を抱き寄せた。
私を落ち着かせるように、何度も何度も背中をさすってくれる。
「王国の者たちも、女神の愛し子がリリィだからこそあれほどに慕っている。
其方がいないマーレデアム王国はもう考えられない」
シェリの腕にさらに力がこもった。
「リリィがあの男のものになるだと?
笑わせてくれる。
俺があの海賊の息の根を止めてやろう。
其方は何も心配しなくて良い」
「シェリ……」
私はシェリの腕の中で身動ぎをし、ほんの少しだけ彼から離れることにした。
手の甲で涙を拭った後に、話したいことがあったから。
「それは、待って欲しいの。
私もギルと過ごして、色々と分かったことがあって」
「……其方が 先ほどから"ギル" と呼んでいるのは、あの男のことか?」
「うん……
あの人、女好きで最低な所もあるけど、この陸の王国に住んでる人たちのことを、すごく大切に思ってると思う」
「……」
「……もしかしてシェリにも、何か思い当たる節があったりする?」
つい、少し恨めしそうにシェリを見てしまった。
「……断じてない。王国の話は別だが。
それにしても、あんな男が民を大切に思うだと?」
私はシェリに、今日得た話をしていく。
他国の海賊たちが度々この国を襲うことや、
愚王と呼ばれる人が治めていること。
そのせいで貧民国となってしまっているのに、誰もその王に反抗しないこと。
そして、その犠牲となっている子供たちの未来を、ギルが誰よりも案じているということも。
「あと、ギルは海人族の言葉を少し話せたでしょう?
この図書館に、海人族と人間の、両方の言語で書かれた古書があるの」
「海人族の言語が記された古書……?
我々の存在は人間にはほとんど知られていないというのに」
「シェリ、ギルは夕方まで帰ってこない。
だから私も、もう少しここに残って古書を調べたいの。
……シェリだって、このまま私を連れ戻しに来たわけじゃないでしょ?」
「……やはり、其方は聡いな」
シェリは私の手を取り、それを自身の頬へと当てる。
「海賊は一つの街に長く止まるようなことはしない。略奪して、一晩のうちに去る者たちも多い。
だからあやつらもきっと、近々再び海へと戻るはずだと読んでいた。
その時に、我が騎兵団が海賊船を攻め入るつもりでいる」
「……シェリは、それを知らせるためにわざわざ来てくれたの?
ここは港町から少し離れてるし、海賊たちに見つかっちゃうかもしれないのに」
「それだけではない。
リリィが目の前で奪われて、あの男に囚われているといると思うと気が狂いそうだった。
其方の無事を、早く確かめたかったのもある。
……本当なら今すぐにでも連れ帰りたい」
「……シェリ」
シェリは頬に当てていた私の手を口先へと持っていき、そこに唇を押し当てる。
私はそんな彼を見つめながら、言葉を紡いでいく。
「大丈夫だよ、シェリ。
あの人、取引きした割には私のこと趣味じゃないって言ってたし、今だってこんな男の人のカッコさせられてるんだから」
そう言うと、シェリは怪訝そうな表情を浮かべながら再び私を抱き寄せてきた。
「リリィ、男が最初にそう言おうが鵜呑みにするな。そんなものはすぐ変わる」
「シェリは心配しすぎだよ。
……あ、そういえばシェリも、最初は私のこと子供だと思ってたよね」
海上で初めて出会った時、私の年齢を聞いたシェリが確かにそう言っていた。
「年齢に対してだけだ。しかし今はそんなものも関係ない。
とてつもなく良い女だと思っている」
……出た。シェリお得意の、突然の爆弾投下。
「それに、男の格好をしていようが其方は美しい」
顔を上げると、いつもの調子でニヤリと笑うシェリと目が合う。
私もいつもの具合で真っ赤になる。
「……ありがとう。そんなこと言ってくれるのシェリだけだよ。
さっき、子供たちにもお兄ちゃんって呼ばれちゃったし」
「リリアスとて俺の愛しい者には変わりない」
「……また、本命は男性だったって言われちゃうよ」
「別に構わないが?」
だからどうしたと言わんばかりの余裕の表情。少し憎らしい時もあるけれど、やはりほっとする。
私はシェリの胸元に顔を埋めた。
耳奥には、トクトク、と規則正しい彼の心音が響く。
彼の、生きている音がする。
その時に再び、大事なことを思い出してしまった。顔面も、途端に蒼白となる。
私は慌てて顔を上げ、シェリを見やった。
「シェ、シェリ!
ここ、陸……! 海じゃない!」
「そうだが?」
「そうだがって……。シェリ、呼吸は?
ここは内陸部だし、陸に上がって随分と時間も経ってるんじゃ……」
「先程も言っただろう?
"まだ" 問題ない。
そのことも含め、今日は其方へ話したいことがある」
そう言って、シェリは自身の片方の腕を軽く持ち上げ、ある場所を私へと見せた。
時は遡り、約半日前 一一一
「申し訳ございません、国王陛下」
そう言って、マーレデアム王国国王の目前で跪くのはナプティムウトである。
その後ろに、シェリとユーリが控える。
「あのお方を二度もこのような危険な目に合わせてしまうなど……」
国王は顳顬に指を添え、深いため息をついていた。
「海賊の集団がここ100年ほど、この大海を快活に動き回っておるのは分かっていた。
海人族の存在を認識されては厄介なことになると思い危惧していたが、リリアナ様を攫った者は我々のことをすでに知っていたというのか。
さらには女神の愛し子や秘宝のことまで……」
「それだけではありません。
その船長は、海人族の言葉も少し話せるようでした」
「何故人間が……」
「分かりません」
シェリは国王とナプティムウトの会話を静かに聞いていたが、やがて重い口を開く。
「リリアナ様は我々の命を救うために、自ら捕らえられました」
「それは、誠か」
「はい。何か取引きをされているように感じました。
当初俺は、男の目的が女神の秘宝を奪うことだと思っていたのです。
……しかし、どうやらそうではなかった様子。
元に、我々を解放する時もその後も、リリアナ様は秘宝を手放してはいません。何か不意を突かれたような表情もされていましたし。
あの頭の男には、何か別の目的があるように思えてなりません」
「別の目的……」
「国王陛下。
リリアナ様をお救いすべく、騎兵団の全部隊を海上へと動員するよう、どうかご命令いただきたい。
一刻を争うのです。
本当なら俺一人ででも、今すぐ陸地へと出向きたい」
シェリは両手拳を固く握りしめた。
すると同じく、彼の横に控えるユーリが口を開く。
「陛下、元はと言えば僕が海賊に捕らえられたのが原因です。
なのに、リリアナ様は絶対に見捨てようとはしなかった。
彼女は昔からああなんです。
自分のことより他者の心配ばかりしてる。
……心細いのはあの子の方だろうに」
彼は唇を震わせながら国王を見据えていた。
国王は二人を交互に見やりながら、ゆっくりと言葉を放った。
「対策を練らねばならん。
人間は異なる種族を嫌う。
我々は海人族であり、彼らとは肌の色も身体付きも異なる。
……ラドシェリムよ。
其方はそれがどういった意味を持つのか、身を持って知っているだろう?」
「……子供の頃の話です。私はもう齡350を過ぎています」
シェリは顔を上げ、父である国王を仰ぐ。
すると、シェリの前に控えるナプティムウトが言葉を紡いだ。
「父上。シェリはもうあの頃のように、好奇心だけで見境なく突進してしまうような子供ではありませんよ。
リヴァイアサンの討伐の時も、常に冷静に、長槍部隊の指揮を取っていましたから」
国王は彼ら三人の言葉に、深く頷く。
「良かろう。全海人騎兵に召集命令を下す。
ナプティムウト、ユリウスは他隊長と合流し、直ちに作戦会議に入るのだ。
ラドシェリム、其方はこのまま執務室へ残れ。"医学" の心得があるのは騎兵団の中でも其方だけだ。
よって、"陸へと赴くこと" が可能なのも、其方のみとなる」
国王のその言葉に、シェリは迷いなく首を縦に振る。
「時間が惜しい。
全騎兵団の者たちに、王命が下ったことを伝えよ。
何としてでもリリアナ様を海賊どもよりお救いするのだ」
「御意!」
執務室には彼らの歯切れの良い返事が響いた。
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「団長!」
「本拠地へ急ぐよ、ユーリ。すぐに会議を始める」
「分かってます!
でも、どうして陸へ行くのがシェリだけなんですか? 僕だってリリィを早く助けたいのに!」
「君は王族の血を継いではいないし、そもそも "あの薬剤" には耐えられないからだよ」
「薬剤?」
「王族であり、医学の心得がある者。
あの "秘薬" は、現時点では国王陛下とシェリのみしか扱えない」
「秘薬に耐える……? 一体どういうことですか? 」
「簡単に言ってしまえば、その秘薬を体内に取り込んで、陸地でも息が続くような身体に造り替える」
「か、海人族の身体を人間寄りにするってことですか?」
「いや、そこまでは無理だ。
見目は変わらないし、生活が出来るわけでもない。
ただ、"時間" は抜群に伸びる」
「……陸地での息継ぎ時間を伸ばす薬、ってことですか。
団長が強力って言うくらいだから、普通の者が使ったら死んじゃうかそれに近い状態になっちゃうってことですよね?
でも、シェリならその薬に対応出来るって?」
ユーリは眉を寄せてナプティムウトを見やる。
「その通り。
しかも、シェリはまだほんの子供の頃にもその使用に成功してる。
国王の許可もなし、まだ医学の知識も何もない時にね。
それでも彼の "血" はあの秘薬に適応した。
まあ、お陰で危険な目に遭って、別の意味で生死を彷徨うことになったけどね。
でも、今の彼ならしっかりとした人体への知識もあるし、何より陸国における我々の立場というものも深く理解している。
だからリリアナ様の元へ赴くことが出来るのは、現時点ではシェリだけなんだ」
ユーリはまだ納得のいかない顔をしていた。
さらに眉根を寄せ、唇を硬く結んでいる。
「ユーリ。気持ちは分かるけど、私たちには他にやるべきことがある。
シリスハムがいない今、仮とはいえ君は現在、第三部隊と共に第一部隊の隊長も兼任しているだろう?
私は団長だから全体の指揮を取らなければならない。だから長剣部隊の指揮を任せられるのは、ユーリ。君しかいないんだ」
「……はい」
「それに、ユーリはリリアナ様の、"海のお日様" なんだろう?
だから彼女の帰路は、君が照らして差し上げなさい。
大船への初攻部隊は、第三及び第一のどちらかに任せるつもりだ」
ナプティムウトの言葉を聞き、ユーリの目の色が変わった。
「……御意。
陸に行くのはシェリに任せます。
僕は海で、僕の仕事をします」
ユーリがそう言葉にすると、ナプティムウトは満足そうに頷いた。
「久々に "それ" を見ました。340年ぶりほどでしょうか」
国王は執務室の金庫から、ある物を取り出していた。
それは、リリィの瞳と同じ薄い翠緑色のドロリとした液体が入った、大人の指ほどの大きさの小瓶。
「ラドシェリム、其方もよく知る通り、この秘薬は王家に伝わる物の中でも人体への影響が特に強いものだ。
卓越した医学の知識がある者、そして其方らのように日々鍛錬を行なっている者でなければ扱えぬ」
「存じております。
俺が子供の頃、それを打って即死を免(《まぬが》れたのは、薬量をほんの10分の1に抑えていたからです」
「此度は10分の1では足りぬだろう。その量だとたった "30分" ほどだ」
「心得ております。全量を打つと約6時間」
シェリは国王からその薬剤を受け取った。
「6時間、私は人間たちと同じように、陸地でも "呼吸" が可能になります」
薬剤を眺め、そう淡々と話すシェリのことを、国王は厳しい眼差しで捉えていた。
「……息子よ。此度、其方を単独で陸地へと遣わすのは、今現在のリリアナ様の安否を確認するためだ。
決して我を忘れ、無理に愛し子を連れ戻そうとしてはならぬ。
我々の勝機は海上でのみ。それまでは堪えよ」
シェリは両手拳を強く握りしめる。
やがてその皮膚が白く変色をし始めるほどに。
「捕まれば "今度こそ" 、其方の命はない。
そうなれば、海賊より其方らを救って下さったリリアナ様にも申し訳が立たぬ」
「……存じております。
決して人間には見つからぬよう行動いたします」
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「そっか……シェリはその秘薬のおかげで、陸でも普通に呼吸が出来てるんだね」
グッセンスタシューン王国の図書館で、私はぽつりとそう言葉にした。
シェリの話は私の想像を遥かに超えたものだった。
でも、だからこそ不安に襲われた。
「シェリ、身体は大丈夫なの?
それに子供の頃、それを使って危険な目に遭ったって……」
「本来、この秘薬を扱うのは非常に難しいものなのだ。
薬剤投与後の血循環の予測。
心の臓へと到達する量をコントロールするために行う、内筋からの血管圧迫。
それらすべての医学・医術知識が必要な上、薬剤に耐えうる強靭な肉体も必要だ」
秘薬を投与したであろう側の手を、シェリがグッと握りしめる。
「それでも、薬剤と身体との相性が合わなければ直ちに死亡する。
秘薬の原液とは、代々続く王族直系の "継足"《つぎたし》"の血液らしい。
もちろん、俺が生まれた時にもそれも足されている。
これはそれを濾過したものに、さまざまな自然原料を加えて作られたものだ。
しかもその製造秘法はテティスからの教えだと言われており、王族以外には伝わっていない」
「王族と、テティス女神を繋ぐもの……」
私は思わずそう呟いた。
「そう言えばシェリ、私に初めて会った時に飲ませた物も確か秘薬だって言ってたよね。それって……」
「其方に飲ませたのは、異種族間の言語壁を無くさせるものだ。
それもテティスから伝えられている薬剤故、そう呼んではいるが、俺が使用しているものとは全くの別物だ」
シェリは言葉を続けていく。
「子供の時、今回と同じ薬剤を好奇心だけで使用して、一人陸地へと度胸試しに行ったことがあった。
しかし俺は人間に見つかり、見せ物小屋に閉じ込められてしまった。
すぐに海へ戻るつもりが、帰れなくなってしまったのだ」
「?!」
シェリは淡々と話し出したが、内容が全く見合っていない。
私は思わず、眉をひそめてしまった。
「俺は "海の妖怪" と言われ、見せ物にされた。
その時は秘薬を規定量の10分の1ほどしか打っていなかったため、呼吸もあまり持たなかった。
閉じ込められてすぐに苦しくなったが、幸いにも俺を哀れに思った人間たちがいてな。
その者らが隙をついて逃してくれたのだ。
だが、海に逃げ帰る道中で悟った。
人間とは姿形の違う自分たちは、なるべくその存在を伏せた方が良いのだろうと」
私は顔を上げ、シェリのことを見つめた。
「リリィが特別だっただけで、大概の人間は、海人族のことを忌み嫌うだろう」
"ここで俺に会ったことは他言無用だ。
俺たちの存在はあまり人間には知られない方がいい"
"それは、貴方様が海人族の男を好きにはなれないということですか?
やはり、人間の男が良いからですか?"
シェリの言葉たちが蘇ってくる。
「……人間からそんな目に遭ったのに、どうしてシェリは私のことを助けてくれたの?」
「初めて出会った時のことか?」
「うん……」
「どうしても何も、助けなければ其方が死んでしまうだろう?」
シェリはそう言って優しい笑みを浮かべる。
当たり前だと言わんばかりの表情。
私は、自分が彼を見せ物扱いした人たちと同じ人間であることが、堪らなく恥ずかしくなった。
口をきゅっと結び直した私は、彼の胸に自身の額を押し当てた。
「私は大好きだよ。あなたの青い肌も、金色の瞳も、耳のヒレも。
全部、全部大好き。
シェリは……?
私が、海人族の女の子なら良かったって思う?」
「……全く思わん。
其方の白い肌も翠緑の瞳も、その小さな耳も、何もかもが愛おしい。
ああ。そう言えば以前、其方が気にしていたことがあったな」
「私が気にしていたこと?」
何のことか思い出せずに思わず首を傾げると、シェリの穏やかな表情が、一気に意地悪なものへと変わったことが見て取れた。
「何だ、忘れたのか?
"欲情するかしないか"。
そう問いてきたのは其方だろう?」
「!?」
私は顔を茹蛸のように真っ赤にして、さらに口をパクパクとさせた。
「そ、そんな風に言ってない!」
「同じことだ」
「この話終わり!もう終わり!!」
私はシェリの胸を押し返し、彼から逃れようとした。
しかし。
「逃げるな。俺の答えをまだ聞いていないだろう?」
そう言って、シェリは私の腰をガシリと掴み、自身の元へと引き戻していく。
「〜っ、もう分かってるから! い、言わなくていい……!」
私は恥ずかしさに耐えられなくなり、消え入りそうな声で抵抗した。
そんな私の姿を見て、満足げな笑みを浮かべるシェリ。
そして答えを言う代わりに、私のその "小さな耳" に、喰むような口付けをしてきた。
恋愛初心者の私にも、お構いなしのシェリ。
でもその優しいキスで、今の彼はわざとこんなことをしているのだと気付かされる。
私に心苦しい思いをさせないために、優しい意地悪を施しているのだと。
だから、私はどうしても彼に伝えたくなった。
「……私、シェリのことが本当に好き。
例え出会ったのが陸の国だったとしても、
私はあなたのことを絶対に好きになる」
「……其方流に言えば、"言わなくとも分かっている" 、だ」
シェリが少し眉を下げて微笑んだ。
私はそんな彼の服を引き、少し背伸びをしながら頬にそっと唇を寄せた。
(私も、シェリのことを守りたい)
今度は私が、そう決意をする番だとでも言うように。




