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045 相棒との相談

 シルスの傷もあらかた治ってきた。


 今は腰のところを治療している。

 彼女は相変わらずの全裸だ。

 両目とも魔素視じゃなかったら、意識してしまっただろう。


 ……欲求不満になりそうだな。


 今は耐え続けるしかない。

 プウがいてくれれば、お願いしているところなのだが。


 まだ性的欲求の少ない少年の体だから問題ないが、成長したらどうなるやら。

 その頃にはシルスも、恥じらいを持ってくれているだろうとは思うが。


「私は大体の魔素術を打ち消すことが出来るの」


 シルスが片手を上げた。


 魔素視でそれを見ると、激しい魔素流の渦巻きが見えた。

 こりゃ随分と濃厚だ。


「触ってみてくれる?」

「おう」


 言われた通り触れてみる。


 うお!?


 ぶにょんとした感触。

 ビニールに入れた水のような弾力が返ってきた気がする。

 少しチクチクと皮膚に突き刺さる感じもした。


「この魔素の塊を使って、相手の魔素術を打ち消すのよ」

「へぇ、こりゃ凄いな」


 術抵抗を持つ、魔素の緩衝材か。

 名前をつけるなら、魔素術抵抗緩衝材――レジストゼリーってとこか?


「それなりに魔素を使っちゃうから、沢山はできないけどね。相手に向かって投げることも出来るの」


 シルスはわた飴を巻き取るように腕を回転させ、大きく振った。

 腕から離れ、魔素術抵抗緩衝材レジストゼリーが飛んでいく。


 それよりも、揺れる胸に目が行った。

 シルエットでもわかるんだから、しょうがない。


 レジストゼリーが寝台の上を跳ねて、次第に空気へ溶けていった。


「タハディなら長い時間消えないベタベタしたのも作れるわ。それを相手にくっつけると、術を妨害できるのよ」


 魔素術士がどういうことをするのか具体的には知らないんだが。

 話しの続きを聞いていれば、分かるだろう。


「その時は、シルスもこれを利用したんだな?」

「うん」


 シルスが話を続ける。


「最初、クラリスが魔素術の弾丸を撃ってきたわ」


 クラリスとの模擬戦の話に戻ったな。


 シルスは身振りも加えて説明してくれた。

 動くたびに胸が揺れて、とても集中を妨げる。


 しかも、シルスはこういった説明が苦手のようだ。

 何とか聞いた戦闘内容をまとめるとこうなるか。


 まず、戦闘開始と同時、クラリスによって遠方から撃ち込まれた魔素弾丸。

 シルスは腕に張ったレジストゼリーで、それを受け流した。


 クラリスはすぐに次の魔素術を練る。


 だがシルスも、そんな隙を逃すはずがない。

 経絡活性により高まった脚力で急接近。


 クラリスは小さな魔素弾を撃ってシルスを迎撃するが、焼け石に水だ。

 足をすくわれて、地面に転倒。


 そのまま押さえつけられゲームセット。


 この時の戦いは、本当に一方的だったようだ。

 シルスがここまで経絡活性を使えると知らなかったのだろう。


「そのレジストゼリーを使えば、今回も勝てたんじゃないのか?」

「レジストゼリー?」


 勝手に名前つけて言っても伝わるわけないな。


「……術を打ち消す魔素塊のことをそう名前つけてみたんだ」

「ふふ、面白い名前!」


 何やらお気に召したようだ。

 シルスはくすくすとひとしきり笑うと、また真面目な顔に戻る。


「私もそう思ったんだけど、ダメだったの」


 また身振り手振りを交えて戦闘説明しようとするシルス。

 すかさず、それを止めた。


「シルス。傷も大方治った。話は服を着てから頼む」

「どうして? ここは虫もいないし、着ていなくて平気よ」


 俺が困る。


「それに、しばらくしたら領主様が来るかもしれないぞ」


 シルスの顔が一気に赤くなった。

 すぐに立ち上がって、着る服を見繕い始める。


 え。何、その反応。


「シルス、領主様に見られるのは恥ずかしいのか?」

「だってルキウス様は大人よ!」


 そういう問題なのか。

 俺の中身が来年で成人する精神だと知ったら、どう思うのだろう。


「なんで大人だとダメなんだ?」

「大人の人は、子供が作れるじゃない」

「うん、そうだな……それがダメな理由になるのか?」


 シルスは困ったように眉を八の字に考え込む。


「……人によっては子供でも慰み者として見てくるかもしれないわ」


 理由は至って普通か。


「ルキウス様はそういう大人だと?」

「そ、そんなことは思ってないけど……」


 シルスは腹に手を当てて小さく呟く。


「私なんかがルキウス様の御目にかなうとは思ってないわ。大人の男性は、女性の裸を見ると興奮するものでしょ? 妻でも仲間でもないのに、裸なんか見せたら失礼じゃない」


 ……これはアレか。

 シルスはきちんと男性の性的欲求について把握していると。


 夫婦ならまあ、裸見せるのも何の問題もないというのは分かる。

 しかし仲間ってのは?


「仲間なら、いくら肌晒しても問題ないのか? 俺とシルスが大人になっても、まだ裸を晒すのか?」


 シルスがこちらを向いた。

 魔素視をキープしているので、細かな表情の変化がわからない。


「……場合によるわ」


 なんだろう。

 ちょっと声のトーンがいつもと違うような。


 なんか、慎重に言葉を選んだほうが良いような気が。

 前にも似たような話をしたときは、確か……。


「えっと……仲間だと一緒に冒険したりするわけだよな。危険な場所でも、場合によっては着替えの必要とかあるわけだ。そういうときに備えて、慣れて置くとかそういうことか?」


 俺の真面目な解釈としては、こんなところだが。

 シルスがじっとこちらを見ている。


「うん、ユージア! それ、とても大切だと思う!」


 あれ、シルスの思っていたことと違ったようだ。

 でも考え方自体は気に入ったようで、興奮のご様子。


 じゃあ、今まではどういった理由で、裸を晒してたんだ?

 単にプライベート空間では、服を着ないのが好きなだけなのか?

 裸族なのか?


「シルスは普段から、一人の時は裸でいるのか?」

「そんなことないわ」


 え!?


「じゃあ……どうして俺といるときは裸なことが多いんだ? さっき言っていたような理由じゃなかったみたいだが」

「……それは秘密よ」


 あ、コレはあれか。


「そういえば、シルスママの秘伝だったな?」

「……そうよ」


 シルスは偽ることを極端に嫌うから、嘘をつかない。

 こうやって一つずつ是非を問うていけば、答えに辿り着けそうではある。


 でも、よい印象は持たれないだろう。

 シルスと仲良くするのは大事だ。

 それに、


「もっと仲良くなったら、教えてくれるんだったよな?」

「……そ、そうね」


 そう言っていたはずだ。

 嘘をつかないというなら、コレも本当のことなのだろう。


 それにしても、仲間に裸を晒す理由か。


 やっぱり篭絡術とか、そういうのだろうか?


 俺はそんなシルスに欲求不満が溜まる一方なんだが。

 でも、嫌な印象派持っていない。


 時折興奮してしまうのはいかんともしがたい。

 だが、エロいものを見て憤る男がいるだろうか?

 いるわけがない。


 ……もしかして、すでに術中なのか!?


 いや、それも悪くない。

 好きな人間と行動する方が良いのは間違いないのだ。


 好意的に解釈するなら、俺との仲を深めようとしてくれているってことだ。


「……クラリスとかは嫌いそうだけどな」

「そうでしょうね。彼女は冒険者には絶対にならないと思うわ」


 小さな呟きだったのだが、きちんと拾われた。


 シルスが服を着終えた。

 そのまま、椅子へと座って俺を見る。


「話の続きをするわよ?」

「ああ。頼む」


 そしてシルスが話してくれたクラリスとの模擬試合。


 裏手の広場で行ったとのことだ。

 俺が見た中庭の更に奥にあるらしい。


 あちらには小さな森と丘があって、更に奥は下層へ続く谷があるそうだ。


 下層へ続く谷。


 上層への天岩から察するに、ここより下の地域のことだろう。

 しかし、ずいぶんと高低差の激しい場所だな。


 もう地球じゃないのではと思い始めている今日この頃だ。

 っと、考えが逸れた。


「試合開始は前と同じ間合いだったのか?」

「そうよ。人幅十人くらいの距離ね」


 大体十五メートルほど。


「今回も先制されたのか?」

「うん。はじめ、クラリスが何か魔素術領域を広げているのは分かったわ」


 まず、クラリスの先制、と。

 

「でも、感じたことのないものだったから、対応に迷って……そうしたら、体が痺れて動きづらくなったの」


 麻痺する魔素術か?


 プウの作った毒薬がシルスの魔素の流れを阻害し、身体機能が停止しかけたこともある。

 それくらい出来ても不思議は無い。


「少しは動けたから近づこうと頑張ったけど、魔素術の弾丸を撃ってきて」


 そうなるよな。

 身動きを止めて、遠くからの一方的な攻撃。

 原始的だが、非常に効果的だ。


「……降参も、気絶もしてないのにハンナさんに止められて、負けにされたわ」


 シルスは少し怒気を含んだ声音でそう締めた。


 シルスの傷の具合から、かなり一方的に攻撃され続けたのだろうと思っていたが。

 ハンナさんが止めてくれてなかったら、シルスは更にひどい傷を負っていたってことか。

 

「シルス……負けたくなかったのは分かるが、こんな大怪我負うまでやらないでくれ」

「でも!」


 俺は小さく息をついて、手のひらを向けシルスの言葉を遮る。


「シルスは、そのまま続けてたら勝てたかもしれないと思っているのか?」

「……それは……でも、諦めたら、絶対に勝てないわ!」


 諦めたらダメ、か。


 それはプウにも教えられた大切なことだと思う。

 でもやっぱり、俺はその後のことも考えてしまうのだ。


「謎の騎兵達に襲われたときを思い出してくれ。シルスが力量差を判断してくれたお陰で、早い段階でシルスを敵から離す判断が出来た。そして、魔素が少なくなって記憶が曖昧になった俺を助けることができたんだよな?」


 シルスが頷く。


「あの時、私ずっとユージアを助けようって考えてた。諦めなかったから、助けられたのよ!」

「……ああ。ありがとう」


 ちょっと伝えたいことが伝わってないな。


「俺は、大事に至る前に危険から退避することが功を奏したって言いたいんだ」

「……でも!」


 どうするか……これは言うか迷うが。

 シルスは自分の身を省みない節がある。これは早いうちに矯正したい。


「シルス。危険を考慮しないで進むことだけ考えていると……大切なものを失うことにも繋がるんだ」


 シルスははっとしたように身を震わせ、顔をゆがませて俯いた。


「でも、そこで終りじゃない。プウもシルスも言っているように、諦めちゃダメだ。二人で考えよう。どうやって、問題を解決するのかをさ」

「……うん」


 シルスは小さく、私があの時言うことを聞いていれば、と呟いたのが聞こえた。

 辛いことを思い出させてしまったのが心苦しい。


 二人、しばらく無言でいると、ノックの音が響いた。


「ユージア君、シルスティア君、いるかな?」


 ブラウンさん――領主ルキウス様だ。

三話冒頭に黒大樹前の雰囲気の挿絵を追加しました。

http://ncode.syosetu.com/n4614dx/3/

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