表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/61

039 再確認

 何とかシルスの調整を終えて、横になる。


 シルスは途中で寝てしまっていた。

 大分疲れてたんだと思う。

 魔素経絡が滞っていたし、相当に酷使したのだろう。


 シルスに塗った模様は乾いている。

 シーツを掛けてやった。


 さすが領主様のお客人待遇だ。

 シーツもそうだが、上質な肌着が用意されていた。


 寝台も勿論清潔だ。

 この場所で寝台を利用したのは、パマイ村のパルペン宅くらいだが。


 そういやパルペンはどうなったんだろうか。

 親父が死んだと言っていたが、彼の家には他の家族の姿が無かった。

 家中を思い出してみても、父親との二人暮らしを想像させるものだった。


 ……天涯孤独か。


 世知辛い。

 八つ当たり気味に殴られたが、恨みはない。

 可哀想に思うくらいだ。


 パルペンは見た目大柄だったが、中学生くらいの歳だろう。

 彼の言葉から尊敬する父親だったのだろうと伝わってきた。

 そんな父親が死んだのだ。


 俺も姉がいなくなったら、平常ではいられない。


 天涯孤独といえば、リナーシタもそうだ。

 タハディが付いていてくれてるはずだが、目覚めたらどう反応するか。


 あー……考えるほどに気分が沈んでくる。

 

 俺もずいぶんと疲れている。

 横になった体が、泥のように重たい。

 エックに揺られている時に、寝なかったのが不思議なくらいだ。


 寝てしまおう。





 翌朝。

 シルスに揺らされ目が覚めた。


「ユージア、起きなさいったら!」

「シルス……おはよう」


 窓からは明るい日差しが差し込んでいる。

 ずいぶんとぐっすり寝れた。


 ん。

 良いにおいが。


 見ると、近くの卓上に食事が置かれていた。


「ごはんだ」

「さっきメイドさんが運んできてくれたわ。早く食べないと冷えちゃうわよ」


 さすが領主邸。


 卓へ移動し食事を始める。

 固めのパン、卵、酸味の利いたスープ。

 スープは昨日のと具が少し違うだけだな。キノコっぽいのが入ってる。


 向かいのシルスは、白い薄手のワンピース姿だ。

 メイドさんが持ってきてくれたのだろうか。

 似合っていて可愛い。


 食べる所作も結構様になっているな。

 やっぱ貴族の家にいただけはあるのか。

 俺も真似して食べるとしよう。


「ユージア、私は食事が終わったらルキウス様の所へ行ってくるわ」


 領主様、昨日は出かけてたみたいだが戻ってきたのか。


「今後の話をするんだよな? 俺も付いていった方が良いか」

「ユージアはちゃんとお昼過ぎに面会用意があるみたいよ。メイドさんが言っていたわ」


 こんな子供に領主様みずから?


「この館に来た人は、みんな面会しているの。子供でもちゃんとね」


 ああ、そうか。

 魔素術を教わりに、たくさんの子供達が来ているんだったな。

 そう考えると、面会が当たり前になっていても不思議じゃないか。


 そして、シルスがまず領主ルキウス様と面会をする、と。

 目的のおさらいだ。


「シルス。俺の目的は姉達の体の素材となる、魔素材の回収だ。それをやりながらシルスの冒険者仲間もしたい」

「うん、分かってるわ! そのために、強くなる必要があるのよね! 私はルキウス様に師事できる人の紹介をお願いするつもりよ」

「それで頼む」


 きちんと覚えていてくれた。

 それと。


「俺は……どうやら魔素術の適正が無いらしいんだ」

「そうなの? あんなに、安定させたりするのが得意なのに」

「昨夜、ブラウンさんって人に調べてもらったんだよ」


 シルスが首をかしげている。


「ブラウン? 聞いたこと無い人ね」

「あっちはシルスを知ってる感じだったが?」


 お互い顔を見合わせる。

 まあ、シルスはこの性格だ。

 一方的に知られていても不思議じゃない。


「まあいいわ。ユージアが魔素術使えようが使えまいが、仲間であるのは変わりないもの」


 うお……。

 なんか、すごい嬉しい言葉だ。


「そうか。ありがとう」

「私だって、魔素術はダメだったわ。その分、色々なことを訓練すれば良いのよ」


 少女の激励が胸に沁みます。

 今更だが、シルスが俺にこうまで気を掛けてくれるのが分からない。


 前に、友達と一緒に冒険者をしたら楽しいじゃない、と言っていた。

 それならば、ここの魔素術見習いを誘ったりしても良さそうなものだが。

 彼らの方が冒険者向きだろう。


 その時は意識させ離れるのを危惧して聞かなかった。

 だが今なら。


「シルス。俺との仲間関係を大切にしてくれてるのは、凄く嬉しい。でも、どうして俺なんだ? ここには魔素術使い見習いが多くいるだろう。彼らの方が、適性があると思うんだが」


 シルスはじっと俺の顔を見つめると腕を組んだ。


「彼らは貴族の子息達よ」

「そうだな。冒険者にならないから、ってことか?」

「そうね」

「だが中には、なっても良いってヤツもいるんじゃないか」

「いないわ」


 断言するか。

 というか、そこまで嫌われる職業なのか冒険者。


「じゃあアレだ。もしも冒険者になって良いって奴がいたら俺じゃなくてそいつと組むか?」

「組まないわ。私は貴族の人は好きじゃないもの」

「貴族じゃなかったらどうだ? 秘密らしいが、ここの領主様だって元冒険者だったんだろ?」


 ちょっと意地悪な質問だろうか。

 でも、シルスの気持ちの程を知っておくのは大事だ。


 シルスは眉間にしわを寄せ、難しい顔で見つめ返してくる。


「それでも……ユージアが良いわ」

「どうして?」

「理由なんて、どうでも良いじゃない!」


 付き合いによる親しみ的なものなら、今の関係を続けていけば問題ない。

 それ以外の理由だとしたら、それを守る必要がある。


「仲間として、絆の強さは確認しておきたいんだ」

「…………わかったわ」


 シルスは視線を逸らして、空になったスープ皿を見つめる。


「ユージアは……お父さんみたいなのよ」


 え?


 お父さんは、別にいるだろう。

 好色な貴族様が。


 ……ああ、そうか。


「私は本当のお父さんとは、話したことも無いわ」


 シルスは父親と顔を合わせたことすら、殆ど無いという話だった。


「もし……普通のお父さんがいたらユージアみたいな感じなんだろうなって思ったの。おかしいわよね。ユージアだって、私と同じくらいの子供なのに」


 まあ、それは仕方ない。

 俺もそれに近い態度で接している。

 非力で頼ってばかりだが。情けないおとーさんでゴメンよ。


 だとしてもだ。


「それなら、タハディとかだっていただろ」

「タハディは親切にしてくれたけど、ちょっと違うのよ。私にあまり触れてこなかったし」


 そりゃ普通はな。

 少女にベタベタする大人とか、ちょっとアレだろ。


 いや、そうなると俺はシルスにベタベタしてるってことになる訳だが。


 はは……疑いの余地も無いな。でも多少不可抗力な面も……。

 出来る限り、そういう意識を向けないように頑張ってはいるんだ。


「それだけじゃないわ。ユージアは私のことを必要としてくれた」


 シルスは視線を真っ直ぐ向けてくる。

 腰に据えていた短剣を引き抜くと、正眼に構えた。

 そして、柄を胸へと当てる。


「私の力を欲してくれた」


 その真剣な面差しは、凛々しく美しい。


「そして、仲間になってくれると言った。理由はそれで十分よ」


 ごくりと唾を飲み込む。


 俺はシルスを素材集めの体の良い味方だと思っていた節がある。

 この子に危害が及ぶなら家族達同様守りもするし、抗いもするだろう。


 だが。

 少し考え方が甘かったのかもしれない。


「そうか……俺も、シルスを仲間として全身全霊で守るよ。姉と親父に誓って」

「ふふ、ありがとう。ユージア」


 それからとても良い顔になったシルスは、ゆっくりと咀嚼し朝食を終えた。

 そしてタハディから貰った青の神官戦士服を纏う。


「じゃあユージア。私はルキウス様の所へ行ってくるわ」

「俺はここで待機していれば良いのか?」

「そうね……この屋敷で鍵の掛かってない場所なら、何処に出入りしても平気なはずよ。もし暇なら散策しても良いんじゃないかしら。私ならそうするわ。地形の把握は大切よ、どこでも調べる癖をつけなきゃ」


 そう言って、微かに視線を振るわせるシルス。

 アレス経絡による感知を行ったようだ。


「そうだな。俺の面会時間は昼過ぎだっけか。ちょいと屋敷を散策してみるよ」

「うん。迷子にならないでね」

「……あ、ああ」


 お父さんというか、弟とかに見られてる気がするのは気のせいだろうか。

 ピィには保護者されるし、プウには泣くほど心配されるし。


 頑張って早く心配されないほどにはなりたいものだ。


 俺に出来ることか。

 プウに貰った魔素経絡による、魔素の細かな操作くらいか?


 しかし、これで出来ることといえばシルスの調整ぐらいだ。

 もっと訓練すれば、色々応用が利くのだろうか。


 プウが言うには、俺の体質は特別だといっていた。

 その理由が他人の死体に簡単に魂が入ったことであると。


 あとは、自然治癒が早いとかか。

 パルペンに殴られた傷も数時間で治った。

 獣に襲われ瀕死になったとき、回復したのは黒薬の効果だけじゃなかったらしいし。


 今まで姉達の体の素材を集めることを目標としていたが。

 もしかしたら、自分への魔素材移植を進めるのが早道なのではないだろうか。


 シルスがアレスの魔素経絡を移植し、感知能力を得たように。


「試す価値はある」


 道中手に入れた、二人の兵士の魔素材。


 これを俺に移植してみるか?

 なんにせよ、死屍術の大先輩たるプウに相談してからだな。


 勿論それ以外の訓練や準備も怠るつもりは無い。


「ひとまずはシルスに言われたとおり、屋敷の散策でもするかな」


 用意されていた衣服に着替え、部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ