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重力に焼きついた姉弟 ~少女達の力で家族再生計画~  作者: 織葉
第一章 黒大樹の死屍術士
27/61

027 死屍術師の二か月少し3

 王は、夜に目覚めた。

 プウがいつものように、薬を塗って魔素の経絡循環を行っていたときだ。

 身じろぎはここ最近、頻繁にしていた。

 でも、明らかな意思を持った動きをしたのは、今日が初めてだった。


「……王?」


 できるだけ、静かに声を掛けた。

 "頭の痛い――巫女の記憶"が、起きてすぐに強い刺激を与えない方が良いと教えてくれたからだ。

 王は顔をしかめて、痛みに呻いていた。

 薬を塗り足し、経絡循環を行う。


 冷たかった王の体も、何日も抱いてプウと同じくらいに温かくなった。

 温かくなっていく王の体。

 とても嬉しかった。

 同じ姿をしているというだけで、同じように温かいピィとは全然違う。

 抱いていると、とてもキモチが落ち着くのだ。


 毎日、キョーカ様に王の状態を伝えた。

 数日前に一度、王が「キョーカ」と呼んだことを伝えたら、とても喜んでいた。

 声がとても震えて……きっとあれは、キョーカ様も泣いていたに違いない。

 痛いでも、寂しいでも、怖いでもない。

 温かい涙だ。


「う……ぐぁ……ぁ」


 王が震える度に、魔素視で循環の滞った場所を見つけて、薬を塗る。

 体を重ねて、魔素を流す。


「……王」


 王は、プウのことを覚えているだろうか。

 ご飯の人だったユー君様――王は、キョーカ様よりも沢山ご飯をくれていたと思う。

 キョーカ様が言うには、巣の掃除も王の仕事だったそうだ。


「ふふ!」


 起きたら、何を話そう?

 ピィと王とプウ。

 三人になったら、もっと沢山いろんなことができる。

 そうだ。

 もしかしたら王はプウの伴侶となってくれるかもしれないのだ。

 キョーカ様に聞いたら、


「え!? ユー君と、プウちゃんが?

 えぇぇっと、そうだなぁ。うーん、まあ……ユー君が良ければ良いんじゃないかな。

 お姉ちゃんは、そこまで口出しする気はないよ。うん。

 プウちゃんも頑張ってるの知ってるし、人になったんだしね。

 うん……でもちょっと複雑だよ……」


 という、ちょっと嫌そうな返事が返ってきた。

 まだプウに力が足りてないからに違いない。

 もっともっと、頑張ってキョーカ様にも認めてもらわなくてはダメだ。


 そして。

 勿論、王にもだ。


 そういえば、王は沢山の中からプウを選んでくれたとも言っていた。

 キョーカ様と、王、二人の御父上。

 三人で出かけた時に、プウを見つけて、群れに入れたそうだ。

 プウはその時のことは良く覚えてない。


 すごく、すごく、昔のことだと思う。

 でも、いつかこの時のことを王に聞いてみたい。

 どうして、沢山の中からプウを選んでくれたのかと。


「う、く……う……」


 王が身じろぎした。

 魔素視で見ると、いつもよりも頭の魔素のめぐりが良い。

 もしかしたら。


「……王。言ってること、分かるか?」


 王が頷いた。


 プウの全身がぶるりと震えた。

 とうとう、王が反応を返してくれた!


 王の閉じた目が、ぐりぐり動いてる。

 きっと開けられないのだ。

 プウも起きたばかりはそうなる。

 目へ薬を塗って、魔素の循環を高める。


 王の目から、涙が出てきた。


 王、泣いてる?

 痛かったのだろうか。

 でも、王もプウと同じに泣くと知って嬉しくなった。

 王が目を開いて、こちらを見た。

 緊張して、何て言えばいいか分からない。


「君は、誰だ?」


 ……王は、プウが分からないみたいだ。

 少し悲しい。


「プウ」

「……は? ……もう一度、いいかな。君は?」

「プウ」

「ほんとに?」


 何で、信じてくれないのか分からない。


「プウ! 何故、分からない!?」


 あ……思わず大きな声を出してしまった。

 "巫女の記憶"も、強い刺激はダメって言ってたのに。

 それからは、静かに話をした。

 もう一度、王には寝てもらった。起きてすぐは、動いちゃダメだ。



 プウが目を覚ますと、王がプウの顔を見ていた。

 ちょっと恥ずかしい。なんでか分からない。

 王は、まだプウがプウだと信じていないみたいだった。

 キョーカ様はすぐにプウだと分かったのに。


 しょうがない。

 もっと役に立って、仲間だと信じてもらわなくてはならない。


 王は、キョーカ様のことをすごく心配しているみたいだった。

 やっぱり、王とキョーカ様は群れの中でも特別だ。


 プウの体をくれたキョーカ様。

 一人だけのオトコで、"特別安定性の高い"、王。


 そもそも、ポップとパインは話したことも無いから、どういうのだか分からない。

 早く二人の体も作ってあげなくてはならないだろう。


 王をキョーカ様の所へ案内した。

 二人がどんな話をするか分からないけど、きっとキョーカ様は凄い喜ぶに違いない。


 話が終わって"導きの間"から出てきた王は、すぐにプウに色々聞き始めた。

 魔素の話だったり、プウが何してきたかだったり、キョーカ様たちの体をどうしたら良いかだったりした。


 さすがは王だ。

 行動がすごく早い。

 プウは、動けるようになってすぐは、赤い実を集めるのを考えたり、ただ色んなことを知るだけで一杯だった。

 ピィが近くの人間達がたくさんいる村を偵察してきて、王に報告した。

 

 王は、その村に行くと言い出した。


 プウは思わずダメだと言った。

 だって、せっかくお話できるようになったのに、すぐにいなくなってしまうなんて悲しい。

 ピィとプウと王でなら、たくさんのことが出来るに違いないのだ。


「プウ。でも俺は、結界を越えられると思うんだ。

 キョウカやポップ、パインの体の材料だって集めなくちゃならない。

 いつかは、出て行く必要があるんだ」


 確かに、王の言うとおりだ。

 王はずっと遠くに行っているつもりはないのだ。

 必要だから、少しだけ遠くに行く。

 プウが黒大樹を出て、森を調べて帰ってくるのと同じことなのだ。


 王が出て行くに当たって、"巫女の記憶"で、獣避けや黒い薬などを王へ渡した。

 あと、黒大樹の中にあった小さな"剣"だ。

 "巫女の記憶"が言うには、祭儀というもので使う剣らしい。

 王ならば、持つべきものだということだった。


 王とピィを見送った。

 王は笑顔で、すぐ帰るよ、って言ってくれた。

 姿が見えなくなってしばらくして、急いで赤い実を集めてキョーカ様の所へ行った。


『そう。ユー君、村に行ったのね』

『心配』

『そうだね。でも、信じて待つのも大事よ。

 待ってる間にも互いのキモチは強くなるし、やるべきことだって沢山ある。

 マイナスな事だけじゃないんだから。

 待ってる間のキモチを溜めて、戻ってきたときに精一杯伝えればいいんだよ』

『プウ、頑張る?』

『うん。その心配が分からなくなるくらい、頑張ってみるのも良いと思う。

 頑張ったのが分かれば、ユー君だってきっと喜ぶよ』

『プウ、頑張る!』


 "巫女の記憶"をたくさん思い出して、色んな薬や魔素操作を覚えよう。

 他には何かできることはあるだろうか。


『プウ、薬、術、頑張る! 他は?』

『……うーん、そうだなぁ。ユー君が喜ぶこと、うーん。

 私の成果が認められた時とか……うーん?』


 キョーカ様が、うーんうーん、考える。

 やっぱり、喜ばせるのはとても難しいみたいだ。


『最近は、軽く微笑んでくれるくらいなことが多いなぁ、喜ぶ、うーん。

 かなり昔になるけど、頭撫でてあげてるのが好きだったみたい。

 えっとね、こう首の後ろの辺りから、髪の毛を軽く持ち上げるようにしてね。

 コツとしては、首周りとか肩の冷たいところを温めるようにする感じで、手を添えてあげて……』


 さすがキョーカ様だ。

 王についても沢山知ってる。




 それからは王を待ちながら、森を歩き回った。

 森を歩いていると、新しい"巫女の記憶"を思い出せることがあるからだ。

 最近は慣れてきたのもあって、プウがプウに質問したりしても返ってくるときもある。

 でも、やっぱり新しい匂いとか、体への刺激、景色が切欠になることの方が多い。


 結界境界線辺りまで来た。

 おなかの奥がきゅぅとなって、体が震える。

 木々の隙間から、結界の外が見通せる。

 四足の獣がこちらへ視線を向けていた。


 そして、この辺りまで来ると音も聞こえてくる。

 虫の音だ。

 リーンリーン。リリリリリ。

 鳥の声も聞こえる。ピュゥピュゥ、チュチュィ、チュチュィ。

 ピィはピューィ、ピューィって鳴く。

 普通に鳴くのはあまり好きじゃないらしい。


 こういう結界の外の声を聞いてると、たまに新しいことを思い出せる。

 虫や鳥、他の動物を使った薬などだ。

 でもこの森には他の動物はいないし、入ってこない。


 土を掘っても、虫の一匹もいない。

 前にキョーカ様にそれを言ったら、

『生態系どうなってるのかしら、細菌とかもいないのかな』とか言っていた。

 よく分からない。聞いてみたら、

『何処にでも普通はいる、小さな生き物だよ。目に見えないくらい小さいけどね』

 と、教えてくれた。

 "巫女の記憶"も、何の反応もしなかった。

 やっぱり、キョーカ様は色々なことを知ってる。


 王と一緒に出かけていたピィが戻ってきた。

 赤い実をわざわざ運んでくれたみたいだ。


「ピィ、ありがと」

「キニスンナ」


 ピィは意地悪するけど、こういうことはきちんとしてる。

 それに頑張るときは、頑張ってくれるのだ。


「王、大丈夫?」

「カワ ソッテ イドウシテル マダマダ マチマデ トオイナ」

「そう」

「ゴシュジン ヒンジャク」

「王、悪く言う、ダメ!」

「イイコチャンブルンジャネー」


 ピィは飛んでいってしまった。

 もしかして、ピィは王にも意地悪なんてしてないだろうか?

 肩に間違ってぶつかった時は、ちゃんと謝ってたけども。


 そういえば、ピィは黒い薬を体に塗ってから、凄い術が上手になってる。

 もっともっと体重く出来るようになったし、魔素視もプウより上手かもしれない。

 今は、王のそばでお手伝いもしてる。プウも頑張らないと。

 

 歩いてると、"巫女の記憶"が、新しいことを教えてくれた。

 魔素の感知術だという。

 特定の場所に、編みこんだ魔素を織り込んだものを置いておいて、感応を高めておく。

 それが壊れたりすると、遠くでも分かるらしい。

 髪の毛を使ったりもできるけど、沢山使ったら髪の毛なくなっちゃう。

 葉っぱに仕込ませて、結界境界線付近に撒いておく事にした。


 その日はその作業をしていると、暗くなってきた。

 黒大樹の中で赤い実を食べてると、ピィが戻ってくる。


「スマネェ ゴジュジン オオケガ シチマッタ」


 ピィが少し離れていた隙に、四足の獣に襲われたらしい。

 危ないところだったそうだ。

 今は、王やプウと同じ姿の人間の二人に運ばれている。

 幸い、黒い薬のお陰で傷は治っている。

 命が助かって何よりだ。

 やっぱり、結界の外は恐ろしい所なのだ。


 ずっと不安のまま次の日になった。

 朝から、戦うために魔素操作の術の練習をしてたけど、王が心配で集中できなかった。

 お昼も大分過ぎた頃、赤い実を採って"導きの間"へ行こうとした時、何かを感じた。


 境界線付近の葉っぱが壊れたのだ。

 急いでその場所へ向かった。


 王だ。

 プウの姿を見つけて、手を振ってくれた。

 急いで近くまで行く。


「王! よく、帰った!」


 歩いてる王の腕が変だ。動いてない。

 魔素視で見ると、魔素の流れがすごく細くなってた。

 きっと、怪我をしたところだ。

 王は、大変な目にあったのだ。もっと、プウが薬をちゃんとしてれば。


「なんで、頭撫でるん?」

「キョーカ様、これやる、喜ぶ、言った」


 キョーカ様に教えてもらったように撫でてみようとしたけど、王の頭は高くて上手に出来なかった。

 実際、王もそこまでキモチ良さそうじゃない。

 上手にやるのも、簡単じゃない。


 王は、村で魔素材を集めてきてくれた。

 取って来てくれたものを見てると、"巫女の記憶"が教えてくれる。


 まだまだ足りなさそうらしい。

 多く見えるけど、余計なものが沢山まじってるそうだ。

 "巫女の記憶"に教えてもらったとおり、魔素材の結晶化処理を行う。

 一欠けらになった。

 これが、体の大きさと同じくらい必要らしい。


 先はまだまだ、長い。

 王も、残念そうだった。

 先が長いのは、とても心が痛くなる。でも、今は時間もいっぱいある。

 一生懸命頑張れば、いつかは達成できるのだ。


 そう思っていたけど、物事は簡単じゃないらしい。

 王が、ここに兵が沢山来るかもしれないと言う。

 今回も急がねばならないのだ。

 急いで沢山のことをするのは大変だ。泣きそうになる。


 そうなると、王の動かない腕も問題だ。

 聞いてみると、痛くは無いけど感覚が全然無いらしい。

 注意深く魔素の流れを見てみると、複雑に切れたり繋がったりしていた。

 確かにコレは使い物にならない。


 これを治すには、新しく作るか、別の生き物のものをつなげるのが早いと"巫女の記憶"も言っている。

 普通はそう簡単なことではないらしいけど、"特別安定性の高い"王なら、それも可能だという。


 話していると、王が眠そうな目になった。

 ずっと結界の外に行って疲れているのだ。

 ゆっくり休まなくてはならない。

 そして、腕もどうにかしないとならない。


 キョーカ様が教えてくれた、王が好きだったというのをやってみよう。

 足の間から、おなかの辺りに王の頭を乗っけて、首の辺りを手で暖めてあげる。

 王は気持ち良さそうに見える。上手にできたようだ。


「王。ゆっくり、休む」





 王はぐっすりと眠っている。

 魔素操作で、眠りを強めに誘導しておいた。

 昼間考えたけど、やっぱり王の腕が動かないのはダメだ。

 プウが色々やっているときにも感じるけど、片方しかないと想像しただけで体が震える。

 しかも、王は結界から外に出て沢山のことをしなくちゃならない。


 王は安定性が高いけど、魔素経絡は無理やり魂の結合をしたから、ズタズタだった。

 普通にしてるのがやっとで、術が使えない。

 だから、プウの腕を使って王の腕を動くようにして、術も使えるようにする。


 "巫女の記憶"も、男は強くなくてはならないと言っている。

 プウは決心した。


 "巫女の記憶"が教えてくれたように、丁度良さそうな太さの木の棒を噛んだ。

 傷を治すときに使う、黒い薬を肩周りに塗って、痛み避けの模様を描いた。

 準備は万端だ。

 生き物を溶かして、魔素材にする黒い薬に、融解防護の魔素流を纏わせないで腕を入れる。


「……――ッ!?」


 凄い痛みが、腕を包んだ。

 今までに感じたことの無い痛さだ。

 転んで擦ったみたいな痛さが、腕全部を包んでいる。


 痛い、痛い、痛い!! 痛い!!


「――ッ ――ッ!」


 "巫女の記憶"が教えてくれたように、外でやってよかった。

 中でやってたら、王が起きてしまっていたかもしれない。

 ぎゅっと口の木の棒を噛んで、我慢する。

 予め痛み避けのことをしてなかったら、どうなっていたのか想像も付かない。

 涙が止まらない。


 "巫女の記憶"がもう良いと教えてくれた辺りで、腕を引き上げた。

 傷部分は黒い結晶みたいになって、血は出てないけど、すぐに処置をしなくちゃダメだ。


「――ッ!!」


 凄く痛い。

 処理の魔素操作が上手に出来ない。

 痛い。凄い痛い。

 でも、王の腕や、体の損傷具合はコレよりも悲惨だったし、痛み止めもしてなかったのだ。

 王が頑張ってるのに、プウが頑張らないわけには行かない。


 一通りの処理を終えた時には、ぐったりとして動きたく無いほど疲れていた。

 見ると、地面がぐしょぐしょだ。

 どうやら尿を漏らしてしまったらしい。

 黒大樹の中でなくて良かった。


 しばらく休んで、起き上がる。

 すぐにプウの魔素経絡を王へ移植しなくてはならない。

 融解処理は鮮度を保てるけど、それでも少しずつ劣化する。

 早いほど良いのだ。


 全身が、びしょびしょだ。汗も凄いかいてたみたいだ。

 片腕で腰紐を外して、服を脱いだ。

 片方だと、紐を取るのも大変だった。

 やっぱり、王に両方の腕を動かせるようにするのは間違いじゃない。


 素材融解液の入った土器を持って、王のところへ戻る。

 王の腕へ痛み止めの術式を描き込んでいく。

 それが終わると、融解液を経絡の必要順路に滴らせて開いた。

 元々感覚がなかったのと、深い眠りであったからか、王は眠ったままだ。

 眠っている状態は、魔素の流れも安定していて移植にも都合が良い。


 融解防護の魔素流を纏わせた状態で、プウの腕から作った魔素素材を取り出した。

 王の開いた腕へとそれを慎重に埋め込んでいく。

 埋め込みの際は、細かな魔素操作で、経絡をつなげて行く。


 別の接合時の抵抗を弱める薬を用意していたが、ほとんど抵抗が発生していない。

 "巫女の記憶"も、これは予想外だったらしい。

 でも、念のためきちんと抵抗緩和の薬を塗っておく。


 一通り移植が終わって、開口部の修復を終わらせた時には、空が明るくなってきていた。


 喉がからからだった。

 脱ぎ捨てた服を取りにいって、水を汲んでくるついでに洗った。

 行き帰りの道で、片腕になったからか、バランスが上手く取れなくて沢山転んだ。

 ただ歩いてるだけでも転びそうになるのだ。


 その度に泣きそうになったけど、我慢した。

 前なら、大泣きしてたと思う。

 でも今は王がいる。キョーカ様も言っていた、泣くのはあまり良くない。

 我慢しなくちゃならないのだ。


 黒大樹の周りにおいてある木に腰掛けて水を飲んでいると、王が起きてきた。

 顔色は良さそうだ。移植は上手くいったらしい。

 "巫女の記憶"も、王が何の痛みも感じて無さそうなのに、やっぱり驚いているようだった。

 もう、自然に動かして歩いている。


「王。顔色、良い。水、飲む」


 汲んできた水を渡すと、王は美味しそうに飲んでくれた。嬉しい。

 王は、プウと話してる途中で、腕が治ってるのに気がついたみたいだった。

 そこまで何の違和感なくつながってることに、凄い達成感があった。

 それと同時に、王はやっぱり凄いのだと実感した。


「いや、だから俺なんかより、プウが満足に動けたほうがいいじゃないか!

 俺はプウみたいに薬も作れなければ、術だって使えない!」


 王はプウが、きちんと両手が使えた方が良かったのではと言った。

 プウのことを心配してくれるのは嬉しい。

 でも、王はやっぱり体の全部がきちんと動かせるべきだ。


 プウの魔素経絡を移植したから、王も術が使えるようになる。

 結界の外へ出ることが出来る王は、不足があってはダメなのだ。


 王の状態を確かめるために、魔素経絡へ魔素の循環をやってみた。

 もう、大分馴染んでいる。

 "巫女の記憶"も、前例が無いと言ってる。

 今すぐにでも、訓練が始められるみたいだ。


 王に模様を描いて、術について色々教えていたら、ピィが飛んできた。

 どうやら、王を追っていた人たちの、その後の報告のようだった。


 それを聞いた王は、顔を青くして助けに行くと言い出した。

 ピィの話だと、北の方の巨大樹木の森らしかった。

 あそこは"巫女の記憶"も、とても危ないと言っている。


「王、行く、ダメ!」

「プウ。ごめんな、でもこれは人として行かなきゃ駄目だ。

 命を救われた恩を仇では返せない」


 王の気持ちは変わらないみたいだった。

 しかたない、群れの王には従わなくてはダメだ。

 薬を精一杯つくって、応援する。


 遠くの森まで行くなら、もしかしたら素材が手に入るかもしれない。

 王の履いてる皮の服で、溶解防護の皮袋を作って、素材回収溶解薬を持って行ってもらおう。


「王、気をつける」

「ああ、勿論だ。二度同じヘマはしない」


 王を待っている間、どういうふうに術を教えるか考えた。

 兵隊が来るかもしれない。出来ることはやらないとダメだ。

 また後悔しそうになって、泣いたりしたくない。


 でも、王が出かけると涙が出そうになった。

 凄く心配だった。


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