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第8話 世界で最もエレガントな『ざまぁ』をあなたに

 この国──オルレアン王国には、絶対の法がある。


『皇太子が13歳を迎えたとき、即座に王位を継承し、前王は一線を退いて側近の座に就く』という、世代交代のルールだ。


 そして今日、私の息子であるルヴァンが13歳となり、満座の拍手の中で厳かに戴冠を済ませた。

 それは同時に、前王となったギルベルドが王権を失った瞬間でもあった。


 壇上のギルベルドが満足げに息子の肩に手を置こうとした、まさにその時。

 私は冷淡な声を、会場中に響かせた。


「ギルベルド。──この子は、あなたの子ではありません」


「……は? エレオノーラ、一体何をおかしなことを言って──」


 ギルベルドの顔から、余裕の笑みが消え失せる。

 どよめきかける会場を遮るように、新たに王冠を戴いた息子──ルヴァン王が、凛とした声を張り上げた。


「余の命により、これよりアルフレット・シャルツヴァルト王を、この国の新たな総督・最高顧問としてお迎えする!」


「なっ……!?」


 騒然となる謁見の間の扉が、堂々と開け放たれた。

 現れたのは、13年前と変わらぬ、背筋の伸びた崇高な佇まいの人。私の本当の夫、アルフレットだ。


 ルヴァンはアルフレットの元へと歩み寄り、深く頭を下げた。

「アルフレット様。母上から毎夜、あなた様のお話を語り聞かされて育ちました。王たる品位と、真の崇高さを持ち合わせた、【本物の王】であると。……どうか、未熟な我らに、正しき人の道をお示しください」


 アルフレットは、愛おしそうに私とルヴァンを見つめ、深く、静かに頷いた。


「バカな……バカなことを言うな! 謀反だ! 騙したな、この売女め! どいつもこいつも捕らえろ!」


 すべてを察したギルベルドが、顔を真っ赤にして口汚く私を罵り始める。

 かつての威厳など欠片もない、醜い咆哮(ほうこう)。


「──黙れ! その醜い口を閉じよ!」

 謁見の間に、落雷のようなアルフレット陛下の一喝が轟いた。


 その凄まじい覇気と品格に圧され、誰もが息を呑み、あたりは水を打ったようにしーんと静まり返る。


 アルフレット陛下は、厳格な、しかしどこか憐れむような目をギルベルドに向けた。


「聞こえていたか。お前はもう、この国の王ではない。……だが、安心するがいい。我々は権力を盾に、人を蹂躙するようなことはしない。それが、人の上に立つ者の品位というものだ。これからは、あなたも一人の人間として、本物の品格を学びなさい」


「くっそぉぉおおお――っ! だましたなぁぁあああ――っ!!」


 ギルベルドは床に両手をつき、あほ全開で、子供のように大声を上げて悔しがった。

 身ぐるみ剥がされ、すべてを失った男の惨めな姿。


――けれど。


 その激しく流れる涙の奥の表情に、私は気づいてしまった。

 彼の顔には、大国が強いる歪んだシステム──「常に傲慢な強者であれ」という狂った教育と重圧──からようやく解放されたという、深い、深い安堵の光が混じっていた。


「……あぁ。あぁ、もう……」

 ギルベルドは涙を拭おうともせず、ぽつりと漏らした。


「もうあの、くだらないテンプレ劇を、偉そうに演じなくていいんだな……」


 その言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥にあった大国への憎しみは、静かに消えていった。


 ああ、やっぱり、この男も同じだったのだ。


 私たちは今日、この大がかりな『ざまぁ』によって、誰かを破滅させたのではない。

 この歪んだ世界に囚われていたすべての人を──敵だったこの男すらも、優しく救い出したのだ。

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