第4話 激痛のタバスコスープと、歪んだざまぁの味
「……陛下。このスープ、トマトではなく、中身はすべてタバスコです。嫌がらせをされています」
私は真剣な眼差しで訴え、周囲を見回した。
けれど、返ってきたのは救いの手ではなかった。
「あら、エレオノーラ様。一体何をおっしゃっているのですか? お疲れのあまり、頭がおかしくなってしまわれたの?」
隣の席のフランチェスカ様が、いつものようにわざとらしく気の毒そうな目を向けてくる。
それを合図に、周囲に控える宮女や衛兵たちが、一斉にクスクスと肩を揺らして笑い始めた。
「プッ、タバスコだって……」「被害妄想も大層に……」
(なんなのよ、こいつら……! 狂ってるわ!)
向けられる無数の冷笑。胃のあたりがキリキリと、ストレスで焼け付くように痛む。
「タバスコだと? そんな見え透いた嘘をつく前に、さっさと胃袋に収めろ!」
アルフレット陛下は苛立ちを隠そうともせず、私を怒鳴りつけた。
誰ひとりとして、私の言葉を信じない。
世界中が敵になったような圧倒的な孤独感と屈辱に、喉の奥がカッと熱くなる。
悔し涙が溢れそうになるのを必死で堪え、奥歯が軋むほど思いきり噛み締めた。
(……いいわよ。食べて、その場でお腹を壊して倒れてやれば、少しは信じるのね!?)
私はスプーンを握りしめ、震える手でその『劇薬』を口に運ぼうとした。
──その、まさに寸前だった。
「ひぃぃっ!?」
ガタンッ!!!!
鼓膜を震わせる大きな音と共に、誰かが派手に床へ倒れ込んだ。
────フランチェスカだった。
「が、はっ……あ、あ、ウ、ウグッ……!」
彼女は自分のスープを飲んだ直後だった。
口からだらだらと白い泡を吐き出しながら、床の上を狂ったようにのたうち回り、悶え苦しんでいる。
「──こ、これは毒だ!! フランチェスカ様が毒を盛られたぞ!!」
ダイニングルームは一瞬でパニックに陥った。
宮女たちが悲鳴を上げながら、痙攣するフランチェスカの身体を抱き起こし、奥の部屋へとバタバタと運んでいく。
「陛下! 危険です、ただちにお部屋へ!」
「う、うむ……!」
この時、アルフレット様が一瞬、顔を真っ白にして信じられないほど悲痛な目を妹に向けていた気もしたけれど──パニックになっている私には、そこまで頭が回らなかった。
気がつけば、あれほど賑やかだった食堂に、私一人だけがぽつんと取り残されていた。
フランチェスカ様に……毒? 一体、誰が……。
呆然としながら、私は乱雑に散らかったテーブルの上に目をやった。
そして、息を呑む。
白いテーブルクロスの中心に、場違いなほど大きくて、真っ黒な、美しい鳥の羽が置いてあった。
(これ……、あの時のクロサギの羽……!?)
鳥肌が全身を駆け巡る。
まさか、あのクロサギが……。私をいじめたフランチェスカ様に、復讐をしてくれたの?
その瞬間、私の胸の奥から、どす黒くて最高に甘美な感情が、じわじわと込み上げてきた。
(ざまぁみろ――っ!!!!)
さっきまで私を嘲笑っていた奴が、泡を吐いて惨めにのたうち回っていた。
ザクザクと胸を突き刺していた屈辱が、一瞬で極上の快感へとひっくり返る。
私は両手で口元を覆い、こぼれ出そうになる胸いっぱいの歓喜の笑みを、必死で噛み殺していた。
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