第二話:愛国者の看板、売国奴の裏取引
「国民の皆様! 今の我が国は、借金まみれの危機的状況にあります! 次の世代にこのツケを残さないためにも、今こそプライマリーバランスの黒字化――つまり、さらなる『増税』が必要なのです!」
王都の中央広場。
大きな拡声の魔法具の前で、財務大臣のカネーミが熱弁を振るっていた。
自称・天才経済学者である彼の、いかにももっともらしい言葉に、集まった純朴な民衆たちは「やはり増税はやむを得ないのか……」と、暗い顔で納得しかけていた。
広場を見下ろす劇場のバルコニーから、山下 速夫はその様子を冷ややかに見つめていた。
「ハハハ! 相変わらず、表の看板(綺麗事)だけは一丁前だな」
山下はクククと笑いながら、手元のグラスを傾けた。
カネーミは今、国民から大人気だ。だが、山下が独自に放ったギルドの情報屋たちからの報告により、その「愛国者の看板」の裏に隠された、本物の闇が次々と明らかになっていた。
その日の深夜。
王都の高級料亭の奥。
カネーミ財務大臣は、隣国の巨大商社の幹部たちと、人目を忍んで密会していた。
「カネーミ大臣、増税の計画は順調のようですな」
隣国の商社マンが、欲深そうな笑みを浮かべて金貨の袋をテーブルに置く。
「フフフ、すべて計算通りですよ」
昼間のまじめな顔とは一転し、カネーミは醜い笑顔を浮かべてワインを煽った。
「さらに増税を重ねれば、国内の建設ギルドや商業ギルドは次々と倒産に追い込まれる。国が不況で干からびたところで、私が『財政再建のため』と理由をつけて、この国の命綱である『水源地』と『大街道の権利』を、あなた方の商社へ二束三文で売り飛ばしてあげましょう」
これこそが、カネーミの真の目的だった。
プライマリーバランスの黒字化を口実に国をわざと不況に陥れ、価値の下がった国家のインフラ(財産)を外国に売り飛ばす。その見返りに、自分だけが隣国から莫大な裏金を貰うという、最悪の利益相反(売国計画)だ。
商社の幹部たちが「さすが天才経済学者だ!」と乾杯の音頭を取ろうとした、その時だった。
トントン、と部屋の引き戸が静かに叩かれた。
「お取り込み中のところ、失礼するよ」
入ってきたのは、不敵な笑みを浮かべた山下だった。
「だ、誰だお前は! ここは私的な会合だぞ!」
カネーミが慌てて立ち上がるが、山下は気にせず、空いている席にドカッと腰掛けた。
「いやあ、カネーミ大臣。増税で国内の業者を潰して、国のインフラを隣国に売り飛ばす裏取引(談合)か。じつに素晴らしい。現実世界でも、お前さんみたいな売国奴が、経済の専門家を名乗って全く同じことをやっとったよ」
山下の口から飛び出した生々しい「裏の仕組み」に、カネーミと隣国の幹部たちは、一瞬で顔を真っ青にして凍りついた。
「き、貴様、何を根拠に……!」
「慌てるな。俺は今すぐお前を告発しに来たわけじゃない」
山下はカネーミの肩をポンと叩き、耳元で低く囁いた。
「カネーミ大臣。お前さんの得意な『プライマリーバランス論』が、ただの詐欺(売国ロジック)だってことを、次回の議会で、国民全員の前で完璧に証明してやる。……楽しみにしとけよ」
山下はそれだけ言うと、がたがた震える売国奴たちを置いて、上機嫌で部屋を去っていった。
カネーミの無敵の理論を、あえてあいつ自身の土俵で粉々に叩き割る。山下の老獪な罠が、静かにカネーミの足元を包み込もうとしていた。




