第一話:新しい議席と、歪んだ数字
第ニ章【財政の罠編】開幕です。
政治を動かすには、金がいる。
そして――
国を動かすには、もっと金がいる。
王国の財政を握る財務大臣カネーミ。
彼が掲げるのは、誰も反論しづらい正論だった。
「国の借金を減らせ」
「将来世代にツケを残すな」
「プライマリーバランスを黒字化しろ」
正しいように聞こえる。
だが――。
山下速夫は、その「正しすぎる数字」の裏側に潜む違和感を見逃さなかった。
数字。
予算。
税金。
インフラ。
そして、そこに群がる人間の欲望。
山下にとって、財政問題もまた一つの政治ゲームに過ぎない。
果たして、国を守るのは「白い正論」なのか。
それとも、泥を被ってでも仕組みを変える「黒衣」なのか。
第二章。
山下速夫が、今度は国の財布を相手に戦います。
王国の最高意思決定機関「賢人議会」の頂点に座ってから数ヶ月。
若返った身体に高級なスーツをまとった山下 速夫は、深夜の議長室で、贅沢なソファーに深く腰掛けていた。
カラン、と氷の音が響く。
現実世界のあの寂しい最期とは違い、今の山下の手元には、ギルドの裏取引で手に入れた莫大な金貨と、国を裏から操る圧倒的な権力がある。
毎日が楽しくて仕方がなかった。
そこへ、ノックの音とともに、この国の総理大臣にあたるリチャード首相が足音を潜めて入ってきた。
まじめで国思いな政治家だが、権力基盤が弱く孤立している。
今夜の彼の顔は、心労のあまり土気色に変色している。
「山下議長……。突然の訪問を許してほしい。だが、もうあなたしか頼れる者がいないんだ」
リチャード首相は、山下の前にドサリと分厚い書類の束を置いた。
「国を豊かにするために、国民の重すぎる税金を下げたい(減税)。だが、財務大臣のカネーミが『財政赤字の解消、つまりプライマリーバランス(財政収支)の黒字化が絶対に先だ!』と言い張って、一切認めないんだ。あいつは自称・天才経済学者としてテレビ(拡声魔法)でも大人気で、私では太刀打ちできない……」
山下は、カネーミ財務大臣が提出したという財政報告書を、めんどくさそうにパラパラと捲った。そこには、「このままでは国の借金で未来が崩壊する」「増税こそが正義」という、もっともらしいグラフと数字が並んでいる。
山下はフンと鼻で笑い、おもむろにタバコに火をつけた。
「首相。お前さんはまじめだが、政治の裏がわかっとらん。……このカネーミの数字、真っ赤な嘘(改ざん)だぞ」
「えっ!? 嘘……ですか?」
「ああ。現実世界でも、こういう『プライマリーバランスの黒字化』なんて綺麗事を叫ぶ専門家は大勢いた。だがな、あいつらが本当にやりたいのは、国の財政再建じゃない。増税して民をギリギリまで苦しめ、生活のインフラ(水源や道路)を干からびさせて、それを外国の巨大商社に安値で売り飛ばす。その見返りに、自分だけが巨額のキックバック(裏金)を貰うためさ」
山下は、報告書の裏に小さく書かれた、特定の外国企業の名前を指先でトントンと叩いた。利益相反(自分の利益のために国を売る行為)の、かすかな匂いがそこから漂っていた。
「カネーミは表では『国の未来のため』と愛国者を気取っているが、中身はただの売国奴だ。首相、お前さんが白い顔をして悩んでいる間に、この国は丸ごと隣国へ売り飛ばされるぞ」
リチャード首相は、恐怖のあまりガタガタと震え出した。
「そ、そんな……。では、どうすれば……」
「ハハハ! 怯えるな首相。現実世界じゃ、こういう利権の亡者どもの相手は、俺の十八番だったんだ」
山下は不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
「カネーミの『プライマリーバランス』という無敵の盾を、あいつ自身の理論で粉々に叩き割ってやる。首相、お前さんは黙って俺の言う通りに根回し(裏取引)を進めろ」
カネーミ財務大臣。自称・天才経済学者の売国奴。
彼がどれほど完璧な経済理論を掲げようとも、元県議会議長・山下速夫の老獪な罠の前では、ただの「素人」に過ぎなかった。
山下の、最高に愉快な「減税をめぐる裏の戦争」が、静かに幕を開けた。




