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第二話 :覇王議長、初めての「ダンジョン地上げ」に挑む

「議長! 大変です! 王都のすぐ近くに、新しい『古代ダンジョン』が出現しました!」

 賢人議会の議長室に、部下の騎士が息を切らせて飛び込んできた。

 新しいダンジョンの出現は、国家にとって一大事だ。中から強力な魔物があふれ出せば国が滅びかねないし、逆に攻略できれば、中に眠る古代の財宝で巨万の富が手に入る。王都の武闘派ギルドや冒険者たちは、色めき立って武器を構えていた。

 だが、最高議長席に座る山下やました 速夫はやおは、優雅にコーヒーを啜りながら、フンと鼻で笑った。


「命がけで魔物を倒しに行く? 馬鹿馬鹿しい。そんなの、ただの肉体労働じゃないか」


「は、はい……? では、どうされるのですか?」


「決まっているだろ。政治家らしく、大人のやり方で『地上げ』をしてくるんだよ」


 山下は剣を抜くどころか、仕立ての良いスーツのような上着をまとい、数人の秘書だけを連れてダンジョンの入り口へと向かった。


 入り口には、不気味な黒い霧が漂っている。山下は中に入ろうとせず、入り口の前に折りたたみ椅子を置き、タバコに火をつけてどっしりと腰掛けた。


「おい、秘書。中にいるボスの『魔王』に、この手紙を届けてこい」


 手紙を受け取った秘書は顔を真っ赤にして震えていたが、山下の絶対的な命令には逆らえない。


泣く泣くダンジョンの中へと消えていった。


 数時間後


 ダンジョンの奥から、ズシン、ズシンと重い足音が響き、周囲の霧が激しく渦巻いた。


 現れたのは、巨大なツノを持ち、禍々しいオーラを放つ、知性を持った「魔王」だった。


魔王は山下の手紙を片手に、不機嫌そうに山下を睨みつける。


「人間ごときが、この我になんの用だ。命が惜しくないのか」


 並の人間なら腰を抜かすほどの威圧感。だが、元県議会議長の山下は、タバコの煙をふぅと吐き出し、立ち上がって親しげに手を差し出した。


「いやあ、魔王さん。遠いところわざわざお出迎え感謝するよ。……単刀直入に言おう。あんたも毎日、欲深い冒険者どもに命を狙われて、夜も眠れないほどキツいだろ?」


 魔王は一瞬、呆気に取られたように目を丸くした。


「……何だと?」


「うちの国としてもね、あんたみたいな大物が暴れて、優秀な冒険者が何人も死ぬのは大損害なんだ。お互いにメリットがない。そこでだ」


 山下は不敵な笑みを浮かべ、一枚の『契約書』を提示した。


「このダンジョンを、我が国が推進する『環境保全・指定特区(ワンヘルス運動特区)』として国と提携せんか? 冒険者から集めるダンジョンの入場料、その3割をあんたの裏口座に毎月振り込んでやる。もちろん、魔界の税金はかからないよう俺が根回ししておく」


「な、なんだと……!? 我らに金を払うというのか?」


「その代わりだ」


 山下は魔王の肩をポンと叩いた。


「あんたの部下の魔物たちに、適度に『手を抜いて』戦うよう命令してくれ。誰も死なない程度に、ちょっとスリルのあるエンタメを提供してもらう。冒険者はレベルが上がって喜び、あんたは戦わずに大金持ち。国は入場料で大儲け。……どうだ、がっちり手を握ろうじゃないか」


 魔王は、山下の提示した信じられないほど合理的で、誰も損をしない「談合(裏取引)」の全貌に、完全に圧倒されていた。


命がけの殺し合いの覚悟をして出てきたのに、まさかビジネスの交渉をされるとは夢にも思わなかったのだ。


「……お前、本当に人間か? 悪魔よりも恐ろしい頭脳をしておるな」


 魔王は引きつった笑いを浮かべながらも、差し出された山下の若々しい手を、がっしりと握り返した。


 数日後


王都の冒険者たちは、その変化に驚愕した。


新しくできたダンジョンは、なぜか「誰も死なないのに、適度にスリルがあって、お宝がザクザク手に入る、史上最高のホワイトダンジョン」として大人気スポットになったのだ。


表向きは「人間と魔物の、新しい環境共生モデル(ワンヘルス運動)」として、国中から大絶賛された。


だが、その仕組みを裏で完璧にハックし、毎月莫大な「地上げ料(手数料)」をふところに入れているのは、一歩もダンジョンに入っていない山下だった。


「これだよ、これ! 剣や魔法なんて使っている奴らは、まだまだ青いな!」


議長室で、山下は大量の金貨の山を前に、心底楽しそうに大笑いした。


どんなに恐ろしい魔物が相手だろうと、人間の欲、魔物の欲を見抜けば、すべては政治の力でひっくり返せる。


異世界という名の新しい大きな議場で、山下速夫の「根回し無双」の毎日は、最高に愉快に続いていくのだった。

最後までお読みいただき本当にありがとうございました!

番外編も気に入っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!よろしくお願いいたします!

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