第一話:聖女エレナ、初めての「裏金」に戸惑う
「うぅ……ひどいです。
神殿の役人たち、予算が足りないからって、貧民街の学校の建設を後回しにするなんて……」
賢人議会の議長室。
純白のドレスを着た聖女エレナは、ソファーに突っ伏して今にも泣きそうになっていた。
彼女の真っ白な正義感は、王宮の冷たい官僚たちの「お役所仕事」の前に、あっさりと打ち砕かれたのだ。
最高議長席で書類に目を通していた山下 速夫は、クククと喉を鳴らして笑った。
若い身体に戻った山下は、高級な葉巻の煙を優雅にくゆらせている。
「お前なぁ、聖女様。役人に正論でぶつかっても、一枚の金貨すら出んよ。
あいつらは『前例がない』と『予算がない』が口癖の、ただのロボットなんだからな」
エレナは涙目で山下をにらみつけた。
「じゃあ、どうするんですか! 子供たちはボロボロのテントで勉強してるんですよ!? 神様にお祈りしても、パンも学校も降ってきません!」
「ハハハ! やっと大人の現実に気づいたか」
山下は立ち上がり、不敵な笑みを浮かべた。
「よし。じゃあ、俺がお前に『大人の政治のやり方』……つまり、裏金の作り方を教えてやる」
「う、裏金!? ダメです、そんな汚いこと!」
「いいから黙ってついてこい」
山下がエレナを連れて行ったのは、王都でも指折りの大商人、高級な服を着たブタのような男の邸宅だった。
商人は最高議長である山下を見るなり、揉み手をしてすり寄ってきた。
「いやあ、山下議長! 今日はどのようなご用件で……おや、そちらの美しいお方は、まさか白き聖女エレナ様!?」
商人の目が欲深そうにギラリと光る。
山下はエレナの肩を抱き寄せ、商人にウインクをした。
「社長、あんたの会社、最近『奴隷を安く使い込んでいる』って悪い噂が流れてるなぁ? このままだと、うちの議会としても、あんたの会社の営業許可を取り消さなきゃならん」
「ひっ、そんな! 勘弁してください!」
顔を真っ青にする商人に、山下は悪魔のような優しい笑みを向けた。
「そこで提案だ。」
「この清らかな聖女エレナ様が、あんたの会社は『クリーンで、環境や人権に配慮した素晴らしい会社(ワンヘルス運動の優良企業)』であると、大々的に保証(認証)してやる。」
「どうだ?」
「おおお! 聖女様のお墨付きがあれば、我が社の株価は爆上がり、イメージも最高になります!」
「その代わりだ」
山下の目が、鋭く光る。
「あんたの会社から、聖女様が運営する『慈善基金』へ、巨額の寄付金を振り込んでもらう。」
「これは裏の口座で処理するから、役人にはバレんし、あんたの会社の税金も安くなるよう俺が根回ししておく。」
「……悪い話じゃないだろ?」
「が、がっちり手を握らせていただきます!」
商人との商談(談合)を終え、屋敷を出たときには、エレナの手元のバッグには、見たこともない額の「金貨の目録」が入っていた。
学校が三つは建つほどの巨金だ。
エレナはバッグを抱きしめたまま、顔を真っ赤にして震えていた。
「こ、これが……大人の政治……。私が綺麗に微笑むだけで、こんな汚いお金が、お役所を通さずに集まるなんて……」
「汚い金じゃない、これは子供たちの笑顔に変化する『魔法の金』だ」
山下は楽しそうに笑いながら、彼女の頭をポンと叩いた。
「どうだ? 真っ白なドレスのまま、子供たちが飢えていくのを見送るか。それとも、ちょっと黒衣(黒い服)の便利さに染まって、子供たちに立派な学校を建ててやるか。選ぶのはお前だ、聖女様」
エレナは、手元の金貨の重みと、貧民街の子供たちの喜ぶ顔を天秤にかけた。
そして、意を決したようにバッグを強く握りしめ、ボソッとつぶやいた。
「……山下さん。次の、その、裏取引の現場にも、私を連れていってください」
「ハハハ! いいぞエレナ、お前は筋が良い!」
聖女すらも自分の完璧な政治の看板(仲間)に取り込み、山下は異世界の夕焼け空の下で、声を上げて大笑いした。
現実世界よりも何倍もイキイキと、山下速夫の「根回し無双」の毎日は、最高に楽しく続いていくのだった。




