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第五話:黒き議席の覇王

ついに山下は、この国のすべての権力が集まる最高意思決定機関、「賢人議会」の重厚な扉を押し開けた。


 大理石の床、高くそびえる天井、そして円形に並ぶ議員たちの席。 


そこに見える景色は、かつて山下がトップに君臨していた、現実世界のあの県議会と驚くほどそっくりだった。


 周囲を見渡せば、自分の席を守ることに必死な貴族や、保身のために逃げ腰になっている大臣たちばかり。


山下が少し脅しをかけ、甘い汁を吸わせる約束をするだけで、彼らは簡単に山下の軍門に降っていった。


 かつて現実世界で山下を裏切った知事や、失笑を買って自滅した五人衆のような、情けない大人たちの縮図がそこにあった。


だが、今の山下には、もう何の迷いも、虚しさもなかった。「――最初は、みんな白だった。


この議場に入るまでは、な」 山下は、かつて現実世界でつぶやいたあの言葉を、今度は異世界の最高議長席に座りながら、深く反芻はんすうしていた。


 誰もが何かを守るために、あるいは己の欲のために、自らの意志で黒衣こくいをまとう。


それが政治であり、この世界の動かし方なのだ。ならば、自分がそのすべての黒を統べる「絶対的な覇王」になってやればいい。


 山下が議長席で静かに黒いマントを翻し、木槌ガベルをトントンと叩く。 その瞬間、あんなに騒がしかった議場が、ピタリと静まり返った。


 表向きは、聖女エレナを広告塔にした「種族共生とクリーンな国家改革」(ワンヘルス運動)の輝かしい推進。


だが裏では、すべてのギルド、貴族、教会の利権を完璧に談合でコントロールし、この国の予算のすべてを山下が裏から差配する完璧なシステムが完成していた。


「いやあ、やっぱり政治は最高に楽しいな!」誰もいない議長室で、山下は上質なワインを傾けながら、心底満足そうに笑った。


現実世界での寂しい最期を乗り越え、今の山下は、自分の才能をフルに活かして、この新しい世界を誰よりも生き生きと、そして楽しく支配していた。


綺麗な看板を掲げ、裏では完璧に泥を被る。


誰もが黒衣をまとうこの異世界という名の巨大な議場で、山下速夫は不敵な微笑みを浮かべ、再びその老獪ろうかいなペンを力強く握りしめるのだった。

第一章【賢人議会編】を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


この物語を書き始めるにあたって、最初に考えたのは、


「もし、政治家が異世界転生したら?」


という、とても単純な疑問でした。


ただし、普通の異世界転生とは少し違います。


剣も魔法も使えない。


魔王を一撃で倒すこともできない。


それでも、七十年間政治の世界を生きてきた男には、別の武器がある。


それが――根回しです。


相手が何を欲しがっているのか。


何を恐れているのか。


何を守りたいのか。


それさえ分かれば、人を動かすことはできる。


山下速夫にとって、異世界は未知の世界であると同時に、どこか懐かしい世界でもあります。


なぜなら、人間の欲望そのものは、世界が変わっても大して変わらないからです。


そして最後に一つ。


この男、現実世界では失脚しましたが――


異世界では、どうやら失脚する気がまったくありません(笑)。


むしろ、


「これだよ、これ! 政治はこうでなくっちゃな!」


と、人生で一番楽しそうにしています。


そんな山下速夫の第二の人生。


どうぞ最後までお付き合いください。


もし「山下議長が、現実世界でどんな政治家だったのか」

「なぜ黒く染まってしまったのか」という過去が気になった方は、前日譚となる現代ミステリー『黒衣 ― 白の記憶 ―』も、今後こちらのアカウントから投稿してます。

そちらも合わせてお楽しみいただけると嬉しいです!

よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると、今後の執筆の励みになります!

蒼井 律

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