第三話:根回しの魔法、あるいはワンヘルス
王都の財務省。
カネーミ財務大臣は、山下から突きつけられた言葉に怯えながらも、売国計画の手を休めてはいなかった。
「山下め、ただの若造が私を脅せると思うな。次の議会で、増税とインフラ売却の法案を無理やり通してやる」
しかし、その頃、山下 速夫は財務省の足元を完全に崩しにかかっていた。
山下が向かったのは、王都でも最大の力を誇る「農業ギルド」と「商業ギルド」の本部だった。カネーミの増税計画によって、今にも倒産に追い込まれそうな地元のボスたちが、暗い顔で集まっていた。
「みなさん、暗い顔をしてどうした。カネーミの増税が怖いか?」
山下が不敵な笑みを浮かべて部屋に入ってくると、ギルド長たちは驚いて立ち上がった。
「山下議長! カネーミ大臣は『国の借金を減らすためだ』と言って、うちらの税金を倍にしようとしています。このままでは地元の水源地も街道の権利も、外国の商社に買い叩かれてしまいます!」
「ハハハ! 騙されるな」
山下はどっしりと椅子に腰掛け、ボスたちにワインを注いだ。
「あいつの言う『プライマリーバランスの黒字化』なんてものはな、地元の優良な企業をわざと潰すための罠だ。国が貧しくなったところで、あいつは隣国の商社から裏金を貰って、あんたたちの土地を売り飛ばす気さ」
「な、なんだって……!?」
ボスたちが怒りと恐怖で顔を真っ青にする。
「だからこそ、俺の『根回し』に乗れ」
山下は懐から、リチャード首相と事前に作成した新しい法律の草案を取り出した。
「カネーミの売国ルートを力ずくで止めるんじゃない。
表向きは、自然と人間、そして動物たちが共に生きるクリーンな社会を目指す法律――名付けて『国家インフラの種族共生保全(ワンヘルス特区)法』を可決させる」
ボスたちはポカンと目を丸くした。
「わんへるす……? それが何の関係があるのですか?」
「関係は大ありさ」
山下はニヤリと笑った。
「この法律が通れば、あんたたちの水源地や大街道は『ワンヘルス運動の国指定重要特区』としてガチガチにロックされる。そうなれば、たとえ財務大臣であっても、外国に土地を売り飛ばすことは法律違反になり、絶対にできなくなる。……どうだ? あんたたちの利権(財産)は守られ、カネーミの売国計画は裏から完全に不発に終わる」
ギルドのボスたちは、山下の恐ろしいほど頭の良い、そして誰も損をしない完璧な裏取引(談合)の全貌に、鳥肌を立てて感動した。
「議長……! うちらのギルドの全議員、総力を挙げてその法律に賛成票を投じます!」
「よし、交渉成立だな」
山下はがっちりとボスたちと手を握り合った。
表向きは「環境と種族の共生」という最高に綺麗な看板を掲げながら、裏では大臣の汚職ルートを完全に塞ぎ、地元の全ギルドを味方につける。
カネーミ財務大臣が自分の破滅に気づかないまま、運命の「賢人議会」の朝がやってこようとしていた。




