第三話:トカゲの尻尾切り
山下が仕掛けた裏取引(談合)によって、人間とエルフのギルドが手を結んだ。
その噂は、すぐに王都の耳の早い貴族たちの元へと届いた。
「生意気な若造め。我ら貴族の利権を勝手に荒らしおって」
王都の財務を担当する汚職貴族、ガル男爵は、豪華な椅子にふんぞり返って不敵に笑っていた。
彼は、山下にすべての罪をなすりつけて捕らえ、ギルドの利権を丸ごと奪い取る
「トカゲの尻尾切り」の計画を企てたのだ。
ある日突然、山下は身に覚えのない「国家反逆罪」の疑いで、王宮の公開裁判所へと連行された。
周囲は、ガル男爵の息がかかった貴族や、物珍しそうに集まった多くの民衆で埋め尽くされている。
普通の転生者なら、ここで魔法や剣を使って大暴れするのだろう。
だが、山下は違った。むしろ、二十代の若い顔に、現役の議長時代のような不敵な笑みを浮かべていた。
(ハハハ、トカゲの尻尾切りか。)
永田町や県議会で、俺が何十回も見てきたお家芸だな。
(ガル男爵、お前は政治の素人だ。ハメるなら、もっと上手くやれ)
山下は、捕まる前の数日間で、すでに完璧な「裏の根回し」を済ませていた。
ガル男爵の天敵である「教会」の最高権力者や、男爵に不満を持つ「さらに上の大物公爵」の元へ足を運び、ガル男爵の本当の裏帳簿(不正の証拠)をすべて配り終えていたのだ。
「被告人、山下速夫! お前はギルドを脅迫し、不当な利益を得たな!」
ガル男爵が、勝ち誇った顔で大声を張り上げた。
山下は落ち着き払った態度で、懐から一本のペンを取り出した。
「ガル男爵。私が得た利益はすべて、神殿の孤児院への寄付、そして大物公爵の領地のインフラ予算として、正規の手続きで処理されています。
……むしろ、男爵、あなたのポケットに入っているその金貨は、どこの防衛予算から流出したものですか?」
「な、何だと!?」
ガル男爵の顔が、一気に血の気を失った。
山下の合図とともに、裁判所に控えていた教会の聖騎士たちが立ち上がる。
ガル男爵が隠していた本物の不正の証拠が、次々と白日の下に晒されていった。
追い詰められたガル男爵は、完全にパニックになり、マイクならぬ拡声の魔法具の前で、信じられないほどトンチンカンな弁明を始めた。
「私は、私はただ! 国の環境、そう、ワンヘルスの理念を守るために、一時的に資金を預かっていただけであります! 動物たちの健康を守ることこそが、結果的に我が領民の疑惑を晴らすことに繋がるのです!」
静まり返る裁判所。
あまりの支離滅裂な言い訳に、集まった民衆や他の貴族たちから、ドッと激しい失笑が沸き起こった。
「何を言っているんだあいつは」
「お笑いコントか」
「完全に狂っている」
ガル男爵は世間の大失笑を買い、その場で味方の貴族たちからも見捨てられ、トカゲの尻尾として逆に連行されていった。
山下は無罪放免となり、ガル男爵が持っていた王都の財務利権までもを手に入れた。
「いやあ、楽しい。本当に楽しいな!」
裁判所の廊下を歩きながら、山下は心底おかしそうに笑った。
現実世界では自分が味わった情けない失脚劇を、今度は自分が完璧にコントロールして、悪徳貴族を自滅させる。これほど爽快なゲームはなかった。
しかし、山下のこの「黒いやり方」を、どうしても許せないという人物がいた。
山下の前に、純白のドレスを着た、この国の「聖女」が姿を現した。




