第二話:戦争で儲かる男たち
数日後。
帝国の商人たちが王都へやってきた。
表向きは「通商交渉」。
しかし、山下には分かっていた。
彼らは帝国政府の意向を探りに来ている。
山下は王宮ではなく、王都でも評判の高い高級料理店を交渉場所に選んだ。
「なぜ、こんな場所を?」
王国側の外交官が尋ねる。
山下はワイングラスを傾けた。
「政治家同士で話すから、話がややこしくなる」
「では?」
「商人同士なら、話は早い」
向かい側には、帝国最大級の商業ギルドを率いる男――バルガスが座っていた。
太った身体。
指には大量の宝石。
いかにも金に執着していそうな男だった。
「山下議長。帝国は強大です。王国が我々の要求を拒否すれば――」
「戦争だろ?」
「……」
「その台詞、もう聞き飽きた」
山下は笑った。
「バルガスさん。あんた、本当に戦争したいのか?」
「もちろん、帝国の利益のためなら――」
「嘘だな」
バルガスの顔が固まる。
「帝国が戦争を始めたら、あんたの商船はどうなる?」
「……」
「街道は?」
「……」
「水源地は?」
「……」
山下はグラスを置いた。
「全部止まる」
指を一本立てる。
「戦争ってのはな。兵士だけが死ぬんじゃない」
もう一本。
「商売も死ぬ」
さらに一本。
「税収も死ぬ」
そして最後に――
「儲け話も死ぬ」
バルガスは黙り込んだ。
山下はそこで、一枚の書類を取り出した。
「そこで提案だ」
「これは……?」
「王国と帝国の共同交易協定」
内容は単純だった。
王国の水資源。
帝国の鉄鉱石。
王国の農産物。
帝国の魔道具。
互いに関税を下げ、国境を開く。
「帝国が戦争をするより、こっちのほうが儲かる」
バルガスは書類をじっと見つめた。
「……確かに」
「しかも」
山下がニヤリと笑う。
「帝国の商人が王国内で商売を始めれば、戦争になったときに一番損するのは誰だ?」
「……我々です」
「そうだ」
山下はワインを飲んだ。
「商人が戦争を止める理由を作れば、皇帝も簡単には戦争を始められなくなる」
バルガスはしばらく考えた。
そして――
「山下議長」
「なんだ?」
「あなたは、本当に政治家ですか?」
山下は声を上げて笑った。
「ハハハ!」
「何がおかしいのです?」
「政治家だから、こういう話をしてるんだよ」
バルガスは苦笑した。
「……分かりました。この協定を帝国の商業ギルドに持ち帰りましょう」
「よし」
山下は満足そうに頷いた。
だが――
まだ一人だけ動かさなければならない男がいる。
帝国皇帝。
山下は窓の外を見た。
「さて……」
口元が、ゆっくりと吊り上がる。
「皇帝さんには、もう一枚別のカードを切るとするか」
山下の本当の勝負は、ここからだった。




