表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/24

第五話:王冠の裏側に座る男

 新国王アレクシスの即位から、一ヶ月。


 王都は驚くほど穏やかだった。


 第一王子派と第二王子派。


 そして第三王子派。


 三つに分裂していた貴族たちも、次第に一つへまとまり始めていた。


 その中心にいたのは――


 もちろん山下だった。


 ある夜。


 王宮の執務室。


 アレクシスは山下と二人きりで話していた。


「山下議長」


「なんだ?」


「私は、あなたが怖い」


 山下が笑った。


「ククク……今さらか?」


「あなたは誰よりも政治に詳しい。私が何を考えているのかも、すべて見抜いている」


「そりゃ七十年も政治をやってりゃな」


「では、教えてください」


 アレクシスは真剣な顔で尋ねた。


「あなたは、何を目指しているのですか?」


 山下は黙った。


 窓の外を見る。


 王都の無数の灯り。


 かつて現実世界で見た議場とは違う。


 しかし、人間の欲も、権力への執着も、驚くほど似ていた。


「俺か?」


 山下はゆっくりと笑った。


「俺はな――」


 一拍置いて。


「この国を面白くしたいだけだ」


「……面白く?」


「ああ」


 山下はソファーに腰掛ける。


「俺が王になる気はない」


「では、なぜ?」


「王は表に立つ」


 山下は自分の黒い服を指でつまんだ。


「俺は裏でいい」


 その言葉に、アレクシスは黙り込んだ。


「表に立つ人間は、白い服を着て国民の前で笑えばいい」


「そして裏では?」


「黒衣を着た奴が泥を被る」


 山下はニヤリと笑った。


「そのほうが政治は長持ちする」


 アレクシスは苦笑した。


「あなたらしいですね」


「そうだろ?」


 二人の間に、静かな笑いが落ちた。


 その夜。


 山下は議長室へ戻った。


 机の上には、新しい書類が積まれている。


 北方の魔族との交易問題。


 王都の土地改革。


 新しい冒険者ギルドの制度。


 そして――


 隣国から届いた一通の極秘文書。


 山下は封を切る。


 そこには、こう書かれていた。


「隣国帝国、近日中に王国への圧力を開始する」


 山下はしばらく文書を眺めた。


 そして――


「ククク……」


 口元がゆっくりと吊り上がった。


「なるほどな」


 山下は椅子に深く腰掛ける。


「王位継承戦が終わったと思ったら、今度は外交戦か」


 葉巻に火をつける。


 煙がゆっくりと天井へ昇っていく。


「いいねぇ……」


 山下の目が、現役時代と同じような鋭い光を帯びた。


「政治は、こうでなくっちゃな」


 そして最後に――


「さて。隣国さんには、どんな『根回し』をしてやろうか」


 山下は一人、声を上げて笑った。


「ハハハハハ!」


 王冠を被るのは、王。


 だが、その王冠が落ちないように、裏から支えている黒衣の男がいる。


 誰もが白い正義を掲げる王国で――


 山下速夫は今日も、誰よりも楽しそうに黒衣をまとっていた。


 そして。


 新たな「外交の罠」が、静かに幕を開けようとしていた。

第三章 【王位継承編】を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


今回は、第一章の「ギルド」、第二章の「財政」に続いて、ついに王位継承という、この国最大の権力闘争を山下速夫が料理する章となりました。


普通の異世界ものなら、王位継承争いといえば剣や魔法、陰謀や暗殺――となるところですが、この作品の主人公は元県議会議長。


山下にとって王位継承戦は、


「誰が一番強いか」ではなく、

「誰を王にすれば、みんなが一番得をするのか」


という、いつもの政治ゲームです。


そして今回、山下は自分自身が王になることを選びませんでした。


王冠を欲しがる者ではなく、

王冠を誰に被せるかを決める側に立つ。


そこに、この男の「黒衣の議長」としての怖さがあるのではないかと思います。


第一章で異世界へ。


第二章で財政を握り。


第三章で王そのものを選ぶ。


さて――。


ここまで来た山下速夫を、次はいったい誰が止められるのでしょうか。


第三章の最後に現れた「隣国帝国」。


次なる舞台は、国内政治から外交と国際政治へ。


山下の「ククク……」が、今度は国境を越えます。


……まあ、本人は相変わらず、


「政治は、こうでなくっちゃな」


と楽しんでいることでしょう。


それでは次章も、

黒衣の議長・山下速夫の、最高に愉快で、少し黒い政治劇をお楽しみください。


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ