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第四話:王冠より重い一票

  国王の死。


 その知らせは、一晩で王都中を駆け巡った。


 翌朝。


 賢人議会は緊急招集された。


 三人の王子。


 神殿。


 騎士団。


 商業ギルド。


 農業ギルド。


 そして数え切れないほどの貴族たち。


 議場は、まるで巨大な賭場だった。


「第一王子を!」


「第二王子こそ国防に必要だ!」


「第三王子なら経済が伸びる!」


 怒号が飛び交う。


 議長席に座る山下は、黙って全員を眺めていた。


 そして――


「トン」


 木槌が鳴った。


 議場が静まる。


「諸君」


 山下が立ち上がる。


「今日は王を決める」


 全員が息を呑む。


「だが、その前に一つだけ聞きたい」


 山下は三人の王子を見た。


「お前らは、王になったら何をする?」


 第一王子が答える。


「法と秩序を守ります」


 第二王子。


「国境を守ります」


 第三王子。


「国を豊かにします」


 山下はしばらく黙っていた。


「……なるほど」


 そして――


「全員、正解だ」


 議場がざわつく。


「だからこそ、全員、不正解だ」


 王子たちの顔が強張る。


「王が守るのは国だけじゃない」


 山下は議場を見渡した。


「王が守るべきなのは、国民が明日もここで暮らしたいと思える仕組みだ」


 その瞬間。


 聖女エレナが立ち上がった。


「私は……第一王子を推薦します」


 議場がどよめいた。


「彼は、山下議長から渡された約束を守りました」


 次に、商業ギルドの代表が立った。


「我々は第三王子を支持します」


 騎士団長も立つ。


「私は第二王子を支持する」


 三人に票が割れた。


 決着がつかない。


 その時――


 山下が一枚の紙を取り出した。


「最後の一票は、俺が持っている」


 議場が静まり返った。


「議長権限による特別推薦だ」


 三人の王子が山下を見る。


「議長……」


 山下は、ゆっくりと紙を開いた。


「俺が王として推薦するのは――」


 そして。


「第一王子、アレクシスだ」


 議場が爆発したように騒がしくなった。


 アレクシス本人すら驚いている。


「なぜ……私を?」


 山下は笑った。


「一番、俺の言うことを聞かなかったからだ」


「え?」


「お前だけは、俺が『王になるために必要な条件』を出したとき、自分の利益より先に国民との約束を選んだ」


 山下は静かに続ける。


「王ってのはな。自分の欲を完全に捨てる必要はない」


「だが――」


 山下の目が鋭くなる。


「自分の欲より、国を優先できる瞬間が一度でもある奴じゃなきゃ務まらん」


 アレクシスは深く頭を下げた。


「……分かりました」


 こうして――


 第一王子アレクシスは、新たな国王として即位することになった。


 そして即位式の後。


 王となったアレクシスが、山下のもとへやってきた。


「議長。これからも力を貸してください」


 山下は椅子に座ったまま、ニヤリと笑った。


「もちろんだ」


 そして小さく、


「ククク……」


「……何です?」


「いや」


 山下は楽しそうに目を細めた。


「王冠を取った奴より、王冠を誰に渡すか決めた奴のほうが、政治は面白いと思ってな」


 王位継承戦は終わった。


 だが――


 山下速夫の「黒い政治」は、ここからさらに深く王国の中枢へ入り込んでいく。

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