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第三話:二人の王子と、一枚の空席

その日の夜。


 山下の議長室に、第二王子レオンが現れた。


「議長。私は、あなたのような男を信用している」


「そりゃありがたい」


「第一王子は甘すぎる。第三王子は商人に操られている。この国を守れるのは私です」


 レオンは胸を張った。


「私には騎士団があります」


「そうか」


「武力こそ国家の力です」


 山下は黙ってワインを飲んだ。


 そして、


「ククク……」


「何がおかしい!」


「いやな。昔の俺も、似たようなことを言われたもんでな」


 山下は立ち上がった。


「王子。騎士団が強いのは結構だ」


「なら――」


「だがな」


 山下はレオンの肩を軽く叩いた。


「剣を抜く前に、財布を握っている奴の顔を見たほうがいい」


「……?」


「お前さんの騎士団、給料は誰が払ってる?」


「国庫だ」


「その国庫を握っているのは?」


「……」


「俺だ」


 レオンの顔が固まった。


「戦争をするにも、兵士を動かすにも、馬を買うにも、飯を食わせるにも金がいる」


 山下はニヤリと笑う。


「政治ってのはな。剣より先に財布を動かすんだよ」


 レオンは悔しそうに唇を噛んだ。


「では、何を望む?」


「俺が王になったら、騎士団をさらに強くしてほしい」


「約束しよう」


「その代わり」


 山下は書類を差し出した。


「議会の承認なしに軍を動かさない」


 レオンは眉をひそめた。


「なぜだ?」


「王は強くてもいい。だが、王一人で国を動かせるようにしちゃいかん」


 レオンはしばらく黙り、やがて署名した。


「……分かった」


「よし」


 レオンが去る。


 山下はまた笑った。


「ククク……二人目」


 そして翌日。


 第三王子ユリウスが訪れた。


 彼は商人らしく、最初から山下に金の話を持ちかけた。


「議長。私が王になれば、商業ギルドへの税をさらに下げます」


「ほう」


「その代わり、議会の改革に協力していただきたい」


「なるほど」


 山下は笑った。


「お前さん、三人の中じゃ一番政治家向きだな」


「ありがとうございます」


「だが、一つ足りん」


「何が?」


「民だ」


 ユリウスの表情が止まった。


「商人の利益だけじゃ王にはなれん」


 山下は窓の外を指差した。


「王都の市場を歩いてみろ。商人だけじゃなく、パン屋も、鍛冶屋も、農民も、冒険者もいる」


「……」


「そいつら全員が『この王なら自分たちの暮らしが良くなる』と思わなきゃ、王座なんてすぐひっくり返る」


 ユリウスは静かに頭を下げた。


「勉強になりました」


「そうか」


 山下は一枚の紙を渡した。


「じゃあ、これを読んでみろ」


 そこには――


「王都の小規模商業者に対する減税案」


が書かれていた。


「これを実現できたら、お前さんを支持してやる」


 ユリウスは目を輝かせた。


「本当ですか!」


「ただし、条件がある」


「何でしょう?」


「利益を独占するな」


 山下はニヤリ。


「政治ってのは、全部取る奴より、みんなに少しずつ配って最後に自分が一番多く残す奴が勝つ」


 ユリウスは、深く頭を下げた。


 その夜。


 三人の王子はそれぞれ、自分こそ山下の支持を得たと思っていた。


 だが――


 山下の机の上には、三人分の署名が並んでいた。


「ククク……」


 山下はそれを眺める。


「誰が王になっても、俺の作った仕組みから逃げられん」


 しかし、その時だった。


 扉が勢いよく開いた。


「議長!」


 飛び込んできたのは、聖女エレナだった。


「大変です!」


「どうした?」


「国王陛下が……」


 エレナの顔から血の気が引いていた。


「今夜、亡くなられました」


 山下の笑みが、一瞬だけ消えた。


 王位継承戦。


 ついに、本当の幕が上がった。


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