第二話:白い王子と、黒い推薦状
翌朝。
山下のもとへ、第一王子アレクシスが訪れた。
金髪に整った顔。
白銀の礼服。
いかにも王子らしい王子だった。
「山下議長。あなたの噂は聞いています」
「ほう?」
「あなたは、国の財政を立て直し、ギルドをまとめ、聖女エレナまで味方につけた」
アレクシスは真っ直ぐ山下を見る。
「私は、あなたの力が必要です」
山下は黙って王子を見つめた。
「私が王になれば、この国をもっと清らかで正しい国にします」
「清らかで正しい国、ねえ……」
「はい」
山下の口元が、ほんの少し動いた。
「ククク……」
「何がおかしいのです?」
「いや。昔、同じようなことを言っていた奴を知っていてな」
山下の脳裏に、白いドレスの聖女エレナの姿が浮かんだ。
しかし、それ以上は言わなかった。
「王子。あんたは何を守りたい?」
「民です」
「本当に?」
「もちろんです!」
即答。
山下は目を細めた。
「じゃあ、俺と取引しよう」
「取引?」
「王になったら、俺を議長から追い出してもいい」
アレクシスが目を見開いた。
「そんなことを……?」
「ただし、その代わりに一つだけ約束しろ」
山下は一枚の紙を差し出した。
「俺が進めた減税政策と、ワンヘルス特区を絶対に潰すな」
アレクシスは紙を読み込む。
「これは……国民との約束ですか?」
「そうだ」
山下はニヤリと笑った。
「王になりたいなら、まず王になった後の約束をしろ」
アレクシスは深く考えた末、書類に署名した。
「分かりました」
「よし」
山下は推薦状を一枚書いた。
「これを持って、神殿へ行け」
「神殿へ?」
「聖女エレナに見せろ」
アレクシスが去った後。
山下は椅子に深く座り直した。
「ククク……」
実は、その推薦状には一つ仕掛けがあった。
アレクシスを全面的に支持する文章ではない。
むしろ――
「この男が王になった場合、国民との約束を破らないか、聖女の目で見極めてほしい」
そう書かれていた。
山下は一人で笑った。
「王子を王にするのは、俺じゃない」
窓の外を見ながら、静かに呟く。
「王になれる資格があるかどうかを、周りに判断させる」
それこそが政治だった。
そして同じ頃。
第二王子と第三王子も、山下のもとへ向かい始めていた。




