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第一話:王子たちの椅子取りゲーム

第三章 【王位継承編】


国王が倒れた。


その一報が王都を駆け巡った瞬間、静かだった水面に一石が投じられた。


第一王子。


第二王子。


第三王子。


それぞれの背後には、神殿、騎士団、商人、そして数え切れないほどの貴族たち。


王冠をめぐる争いは、すでに始まっていた。


だが――。


この国には、王子たちよりも先に動き始めていた男がいる。


賢人議会議長、山下速夫。


剣も魔法も使わない。


自ら王座に座るつもりもない。


ただ、人間の欲望と保身を見抜き、その隙間に一枚の紙を差し込む。


「王を決めるのは、最後でいい」


果たして山下は、誰を王に選ぶのか。


そして、王冠の裏側にある「本当の権力」とは――。


第三章「王位継承の罠」


山下速夫、いよいよ王国の頂点へと手を伸ばします。


王都に、奇妙な噂が流れ始めていた。


 国王が病に伏した。


 まだ正式な発表はない。


 しかし、王宮の周囲を出入りする医師や神官の数が日に日に増えている。


 そして、その噂を誰よりも敏感に嗅ぎつけたのが、王国の貴族たちだった。


「いよいよ……王位継承か」


「第一王子が有力だ」


「いや、第二王子には北方騎士団がついている」


「第三王子には商業ギルドがついているぞ」


 王都の高級酒場では、夜になるたびにそんな会話が飛び交っていた。


 賢人議会の議長室。


 山下速夫は、その噂を聞きながら、ソファーに深く腰掛けていた。


 手には高級な葉巻。


 机の上には、三人の王子の名前が書かれた報告書。


「第一王子、アレクシス。王宮の官僚と神殿が後ろ盾」


「第二王子、レオン。騎士団と武闘派貴族が支持」


「第三王子、ユリウス。商人と都市部のギルドが支持……」


 山下は一枚ずつ書類をめくっていく。


 そして――


「ククク……」


 喉の奥で、小さく笑った。


 秘書が不思議そうに山下を見る。


「議長……何かおかしいことでも?」


「いや」


 山下は葉巻の煙をゆっくり吐き出した。


「三人とも、見事なくらい馬鹿だなと思ってな」


「……?」


「王位ってのはな。欲しい奴が取るもんじゃない」


 山下は三枚の報告書を机の上に並べた。


「周りの奴らが、『こいつを王にしたほうが自分たちに都合がいい』と思った奴が座るんだよ」


 秘書は息を呑んだ。


「では……三人の王子ではなく?」


「そうだ」


 山下はニヤリと笑った。


「俺が見るべきなのは、王子じゃない。王子の後ろにいる奴らだ」


 その夜。


 山下は密かに三人の王子それぞれの側近たちと接触を始めた。


 第一王子の側近には、官僚組織の予算。


 第二王子の側近には、騎士団の装備更新。


 第三王子の側近には、商業ギルドの新しい税制。


 それぞれが欲しがっているものを、山下は一つずつ見抜いていった。


「第一王子派には行政改革」


「第二王子派には軍備」


「第三王子派には商業振興……」


 山下は楽しそうに指を折っていく。


「三人とも、自分が王になりたいんじゃない」


 そして、口元を吊り上げた。


「自分が王になった後の『席』が欲しいだけだ」


「では、議長は誰を支持されるのですか?」


 秘書が尋ねる。


 山下は答えなかった。


 ただ、三人の王子の名前が書かれた紙を裏返した。


「まだ決めん」


「え?」


「王を決めるのは、最後でいい」


 山下の目が鋭く細くなる。


「まずは全員に、俺が味方になると思わせる」


「……三人全員に?」


「そうだ」


 そして――


「最後に一人だけ、椅子に座らせる」


 山下は、クククと笑った。


「その椅子の下に、俺の議長席を置いたままな」


 王位継承戦。


 それはまだ始まったばかりだった。

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