黒衣×黒衣 第二話:ボスの談合、あるいは琥珀色のキープボトル
「いやあ、マスター。お前の酒があまりに美味いから、これからはここを俺の『指定席』にさせてもらうよ」
ダイキリを飲み干した山下は、すっかりこの店が気に入り、贅沢に足を組んでいた。
そこへ、カランとベルが鳴り、慌てた様子で入ってきたのは、山下を味方につけた「商業ギルド」と「農業ギルド」のボスたちだった。
彼らは山下の姿を見るなり、揉み手をしてすり寄ってきた。
「山下議長! こんなところにおられましたか! 次の『ワンヘルス特区』の予算配分の件ですが、裏でどう談合(取引)を回すか、ぜひご相談したく……」
ボスたちが生々しい裏金の数字を出そうとした、その時だった。
蓮が、氷を浮かべた透明な炭酸水を、ボスたちの前に静かに差し出した。
「お客様。申し訳ありませんが、当店のカウンターの上は、泥のついた大人の数字(裏金)を並べる場所ではございません。……政治のお話は、その冷たいお水で頭を冷やしてから、お静かにお願いできますか?」
蓮の、優しくも一切の妥協を許さないプロの目。
ギルドのボスたちは、このバーが『国家最高聖域』であり、カルバン公爵や魔王すらも大人しく従う聖域であることを思い出し、ヒエッと言葉を詰まらせて頭を下げた。
「す、すみません、マスター……。お酒をいただいてからにします」
山下はその様子を見て、声を上げて大笑いした。
「ガハハハ! いいぞ、マスター! 国の大物ギルド長たちを、水一杯でアゴで使うとはな。お前、俺のいた世界の新聞記者(有馬遼)よりも、よっぽど手強い『正義の味方』だ!」
山下は立ち上がると、懐からずっしりと重い金貨の袋をカウンターに置いた。
「気に入った。マスター、新しく完成したっていう、マルクたちのあの『黄金のウイスキー』を、俺の名前でここに一本キープしておいてくれ。俺の専用のボトルだ」
蓮はプロのバーテンダーとして、優雅に一礼した。
「かしこまりました。山下議長のお名前で、大切にお預かりいたしますね」
「よし、ボスども。マスターに怒られちまったからな、裏取引の話は外の馬車の中でやろうじゃないか。また来るよ、マスター」
山下は不敵な笑みを浮かべ、ギルドのボスたちを引き連れて夜の街へと消えていった。
国を裏から操る「政治の覇王」すらも、ただの一人の客としておもてなしし、その心を完璧に癒やしてしまった蓮。
そして、マルクとバレル親方が造ったウイスキーが、山下議長のキープボトルとしてバーの棚に並ぶ。
誰もが黒衣をまとうこの世界で、二つの異なる黒衣の物語は、これからもそれぞれの場所で、最高に楽しく、そして心地よく続いていくのだった。
コラボ番外編をお読みいただき、ありがとうございました!
政治の闇を統べる議長と、夜の癒やしを届けるバーテンダー。これからも二人の『黒衣』の活躍を、応援よろしくお願いいたします!




