第五話:黒い議長がもたらす「減税」
売国奴のカネーミ財務大臣が議場から引きずられて行ってから、数日後。
王国の最高意思決定機関「賢人議会」の演壇には、すっきりと晴れやかな顔をしたリチャード首相が立っていた。
「国民の皆様! 我が国は、カネーミの不正をすべて正し、本日ここに歴史的な『大減税』を発表いたします!」
リチャード首相の力強い言葉が、拡声の魔法具を通じて王都中に響き渡った。
重すぎる税金に苦しんできた地元の商業ギルドや農業ギルドのボスたち、そして一般の民衆からは、地鳴りのような大歓声と拍手が巻き起こった。
「これで商売ができる!」
「首相、ありがとう!」
「山下議長万歳!」
と、国中がお祭り騒ぎのような活気に包まれていく。
議長席に座る山下 速夫は、その熱狂を特等席から眺めながら、不敵な笑みを浮かべて高級なタバコの煙をふぅと吐き出した。
(ハハハ! 拝め、拝め。綺麗事ばかりで民を干からびさせる白い専門家より、裏で完璧に利権を回す黒衣の方が、よっぽど役に立つだろ?)
今回の減税の裏には、山下の完璧すぎる「根回し(裏取引)」があった。
カネーミが隣国に売り飛ばそうとしていた水源地や街道の権利を、山下の作った「ワンヘルス法案」で国営としてガチガチに保護したため、そこから生まれる莫大な通行料や利用料が、そのまま国の新しい『財源』として転がり込んできたのだ。
だからこそ、リチャード首相はなんの心配もなく大減税に踏み切ることができた。
国を救った大英雄として、誰もが山下に感謝の目を向けている。
だが、山下がここまで動いた本当の理由は、もちろんボランティアではない。
その日の深夜。
誰もいない議長室で、山下は各ギルドのボスたちから「お礼」として届けられた、山のような金貨の袋をソファーの上に並べていた。
「減税で民が豊かになれば、商業ギルドの売り上げも上がる。そうなれば、ギルドから俺の秘密口座に振り込まれる『手数料(裏金)』も10倍に増えるってわけだ。リチャード首相も俺に頭が上がらないし、これだから、この黒い議長の席はやめられん!」
山下は金貨をジャラジャラと鳴らしながら、心底楽しそうに大笑いした。
現実世界のあの情けない失脚劇が嘘のように、今の山下は自分の老獪な政治テクニックをフルに活かして、異世界を最高に生き生きと支配していた。
綺麗事で国を滅ぼそうとする自称専門家を完全論破して沈め、裏取引で国を大繁栄させて自分も大儲けする。
誰もが黒衣をまとうこの異世界という名の巨大な議場で、山下速夫の「根回し無双」の毎日には、もう誰にも止められない。
最高に痛快で、最高に愉快な暗躍の夜は、まだまだどこまでも続いていくのだった。
第二章【財政の罠編】を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第一章では、山下が異世界にやってきて、
「この世界にも政治がある」
ということに気づきました。
第二章では、その政治の根幹ともいえる「財政」に踏み込ませてみました。
今回の山下の相手は、剣士でも魔王でもありません。
財務大臣です。
しかも、自称・天才経済学者。
数字と専門用語を武器にして、国民に増税を迫るカネーミ。
そんな相手に対して山下が選んだ方法は、やっぱり山下らしいものでした。
正面から殴り合うのではなく、
農業ギルドを味方につける。
商業ギルドを味方につける。
首相を動かす。
法律を作る。
そして最後に、逃げ道を全部塞いでから議場へ引きずり出す。
まさに――
「根回ししてから勝負する」
という山下の真骨頂です。
そして今回、もう一人重要な人物が加わりました。
白き聖女、エレナ。
第一章では山下の「黒」を批判していた彼女が、少しずつ政治の現実を知り始めています。
果たして彼女は、最後まで白いままでいられるのか。
それとも――。
「黒衣の便利さ」に、少しずつ染まっていくのか。
そこも今後の楽しみの一つです。
そして何より。
山下本人は、国民が喜ぶ減税を実現したことよりも、
「自分の仕掛けが完璧に決まったこと」
を一番楽しんでいる気がします(笑)。
「これだから、この黒い議長の席はやめられん!」
……まったく反省していません。
しかし、そんな山下だからこそ、この物語は面白くなるのだと思います。
次なる舞台は――王位継承。
国内最大の権力闘争に、山下がどう介入するのか。
第三章【王位継承の罠編】へ。
引き続き、山下速夫の「ククク……」をお楽しみください




