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ゆり色の私たちは、またいつか。  作者: 碧アオ
第一章 〜ゆり色の絆〜
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5/20

#4「放課後のふたり」

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


↓カクヨムサイトはこちら↓

https://kakuyomu.jp/works/2912051600801871839

 次の日。

「はぁ……今日も何かと忙しい……なんでこんなとこに入っちゃったんだろ……ていうか、なんで私しかいないのよ!」

 生徒会室の机に山積みにされた書類を前に、葵は小さくため息をつくと、一人だけ、他に誰もいないこと(=全員葵に仕事を任せて帰ったこと)に腹を立てていた。

「ったく……私に何か、ゆっくりできる『居場所』ってないのかな……」


 金曜日。他の生徒たちが週末の予定に胸を躍らせて下校していく中、生徒会執行部の仕事は山積みのままだ。行事の企画書、予算の確認、部活からの要望書。小柄な体を丸めるようにしてペンを走らせていた葵だったが、ふとスマホのバイブが鳴り、動きを止めた。

「誰よこんな時に……あれ結月……」

 画面を見ると、友達の結月から、白い吹き出しでメッセージが表示されている。

『葵ちゃん、今日の放課後、ちょっと教室で話せる? 二人きりがいいんだけど……。(16:35)』

「二人きりで話って、珍しいな……」

 どこか神妙な様子で送ってきた文面に、葵は首を傾げた。何か悩み事でもあったのだろうか。葵は手元の書類をトントンと綺麗に揃えてクリアファイルに収めた。

「よし、これらの資料は持って帰って……。残りの仕事は明日の自分に任せよっと。ああ、休みがなくなる」


 パイプ椅子の背もたれにかけていた白いニットリボンを手に取り、全身が映る鏡のある方へと移動する。立ちながら、おろしていた腰近くまである長い髪を丁寧にハーフアップへとアレンジしていく。鏡で結び目の位置を確認し、身だしなみを整えると、葵は生徒会室の鍵を閉めて廊下へと出た。


 ※


 オレンジ色の夕暮れの光が、静まり返った廊下に長い影を落としている。

 結月が待つ教室の前に到着し、葵はそっと引き戸を開けた。

「あ……葵ちゃん……」

 中を覗き込むと、そこにはいつもより少し緊張した面持ちで、そわそわと指先をいじっている結月の姿があった。

「って結月。何緊張してんのよ」


「き、緊張も何も……」

 葵は小さく微笑みながら、結月の前の席の椅子をくるりと引いて腰掛けた。

「んで、結月。話って何?」

 鈴を転がしたような声が、教室内に響く。

「……えっと、葵ちゃん。言っちゃうよ。実は──」

 浅倉結月あさくらゆづき。葵とは同級生で身長もほぼ同じ。髪は、シュシュで結んだサイドテールでアレンジされている。


「── 実は、ウチ。彼氏ができました!」

 結月は元気な声で打ち明ける。話とは『彼氏ができたこと』だった。

 そしてここで、なんも変哲もない友達との会話からいきなり『恋バナ』へと話が変わったのだった。

「おお。ついに結月に彼くん、できたんだ。おめでとう〜」

 それでも冷静に笑顔で拍手する葵。

(結月、楽しんでるじゃん。こっちは生徒会で忙しいんだぞ?)

 心の中で葵は呟くと、結月のことを羨ましい気持ちで見た。事実、葵は恋する暇なんか、彼女にはなかった。でも友達の『恋バナ』を聞くことは、彼女にとって楽しみの一つである。

「えへへ。でね、葵ちゃん」

 照れるように笑う結月が早速、葵に聞いてきた。

「ん? 何? ……あ、もしかして早速その件でお悩み事でも?」

「ななっ! 先言われた! ……な、何で分かったの⁉︎」

「だって、そういうことでしょ? はは、顔真っ赤だよ。あ、もしかして彼くんはその顔に惹かれて……」

「ああ、茶化さないでよ! もう!」

 結月は頬を膨らませて抗議するが、葵はにやけて、彼女の頬を人差し指で突いた。


「……だ、だからと言って。別に、見た目だけで告られたわけじゃないんだから……ね。当たり前でしょ?」

 葵の顔からちょっとだけ視線をずらす。

「あはは、そりゃそうでしょ。私もだけど、見た目だけで判断されるのって嫌だよ」

 結月は、もう一度、葵の顔をジト目で見て、「ムー」と言ってみる。

「んで話を戻して、それに関してお悩み事は? あるんでしょ?」

「お、お悩み、お悩み……」

 すると結月は黙り込んでしまう。いざ話すとなると緊張してしまうからだ。

「……どうしたの? 黙り込んじゃって」

 下に向いた彼女の顔を葵は覗き込む。

「あ、いや! あ、あるよ! え、ええ、ええっと……」

 素早く顔を上げて、慌ててながら悩み事を思い出す。片手で頭を抱えたり、指先をそわそわしたりして……。そしてようやく思い出すと、結月は手をポンと叩いた。

「そうだ! 実は昨日 ──」


 ◆◆◆


 話を要約すると、昨日の塾の帰り、結月の彼氏である『友弥』という人に、駅で告られたのだという。友弥は早速「今度の土曜、デートしねぇか?」とドラマのワンシーンみたいに誘ってきたらしいのである。


 ◆◆◆


「── っていうことがあってね」

「なるほどね。彼くんがあっちから誘ってきたか。あるあるパターンだね」


「ねえ、葵ちゃん」

「うん」

 結月は緊張のあまり、スカートの裾をぎゅっと握り締めながら少しだけ視線を落とした。

「もしさ。葵ちゃんに彼氏がいたとして考えてほしいんだけどさ……。もしもデートに誘われたら、どうする?」

 葵は察する。もしかしてこれが、今回この場においての結月のお悩みなのだろうかと。聞くってことは参考にしたいのだろうか。

「ど、どうするって?」

「あ、えっとね。デートで何してもらうの? ってことだよ」

「……うーん……」

 葵は顎に手を当てて、少しだけ考えてみる。考えることが結月にとっていい方法なのだろうかとも思いながら、色々と模索してみる。

(わわっ。ちょっと困らせちゃったかな。ああ……)

 黙り込む葵に対し、結月は少し戸惑う。だがそれも束の間、葵はポンと手を叩いた。

「私はね、彼くんに自分の行きたいところに連れてってもらうってことかな」

「……自分の行きたいところ?」

 結月は首を傾げて、きょとんとした顔を見せた。

「言うならばね、自分の趣味を彼くんに見せること。ほら、結月だって何かあるでしょ? 自分の好きなキャラクターとかアイドルとか。行きたい店とか、観たい映画とか。あとね、『自分の好きなキャラクターグッズを彼くんに買ってもらうこと』!」

「……つまりは自分のありのままの姿を彼氏に見せるってこと?」

 すると葵は「うん。彼女はこうであるべきじゃない?」と言って、こくりと頷いた。一方結月は──。

「ええ。それってバレバレだよ~。あと、女の子の趣味ってさ、男の子に合うのかな……ほら、もしそれが彼氏にとって『好き』って言えるものじゃなかったら……、なんだか気まずいよ~」

 結月は趣味が合わなかったら、デートは成功しないと、不安を募らせていた。でも葵は──。

「何言ってるのよ、そんなことないよ」

 きっぱりと否定した。

「……え? どういうこと?」

「それは結月は不安に思っちゃってるだけ。実際はそんなことはないよ。むしろ彼くんだって、結月のことが好きだから告ったんだよ。嫌でも分かってくれるよ、きっと」

 葵は分かっていた。結月が緊張してしまって、不安が募り、マイナス思考になってしまうこと。これまで結月は葵に何度か相談することはよくあった。でも今回は『恋バナ』についての相談、悩みの種が大きい。

「……で、でも。ウチ、そんなの緊張するし……」

「大丈夫だって。結月は結月なりの方法で楽しめばいいんだよ。だって今のは、ただの助言に過ぎないから。ただし、どの方法であったとしても彼くんの前では恥ずかしがらないこと!」

 葵は少し首を傾け、人差し指を口元に立てると、ウインクしてみせた。

「……え。それでいいのかな」

 それでも結月は緊張が解れない。でも優しく、葵は彼女の背中を押した。

「実際に持ったことはないけど……。親密度を上げたいのなら、私はそうするよ」

「葵ちゃん……」

 確かに、葵は彼氏を持ったことはない。でもそれが、もしもの話だとしても彼女はこういう方法でやるようだ。


「んじゃ、今から彼くんに見せる、結月のアピールポイント、私が考えるね!」

 すると葵は、アピールポイントを一人で勝手に考え始めた。


「あ、アピールポイント⁉︎ 何急に!」

 結月は焦り始めた。


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