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ゆり色の私たちは、またいつか。  作者: 碧アオ
第一章 〜ゆり色の絆〜
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15/21

#14「心のビンタ」

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


↓カクヨムサイトはこちら↓

https://kakuyomu.jp/works/2912051600801871839

 昼休み。

 日菜は一人、屋上へと重い足を運んでいた。

(もし、美桜ちゃんがいたらどうしよう……)

 それから日菜はずっと美桜を避けていた。顔を合わせてないし、連絡も取ってない。胸の奥がキュッと締め付けられるような痛みを覚えながら、重い鉄扉をそっと押し開ける。

 いつもなら、まばゆい太陽の光を浴びて、美桜が「日菜!」と満面の笑みで手を振ってくれる場所。その姿を想像するだけで、逃げ出したいような、でもすがりつきたいような、ぐちゃぐちゃな感情が渦巻いた。

 けれど、いたのは、見慣れた明るい髪の少女ではなかった。

「……あ。ひなっち、やっと来た」

「え……。結月、ちゃん……?」

 そこにいたのは、いつものんびりとした雰囲気を纏っているはずの結月だった。彼女はフェンスに背を預け、どこか決意を秘めたような、少し寂しげな瞳で日菜を見つめている。

「美桜ちゃんは……?」

「みおっちなら、今日は教室で他の子に捕まってるよ。だから、今はウチだけ」

 結月は小さく息を吐くと、日菜のほうへ一歩、歩み寄った。その足取りは静かだけど、どこか逃げ道を塞ぐような、妙な真剣さがあった。

「……ひなっち。ちょっと、ウチとお話しよっか」

「……結月ちゃん?」


 *


「── 美桜ちゃん……」

 日菜はそこで、震える声で結月に彼女の心にある本音を打ち明けた。暗い底へ沈んでいくようなあの夢のこと。美桜という光から逃げ出したくなる衝動のこと。

 結月は静かに、けれど逃げ場を塞ぐような真剣さで言葉を紡ぐ。

「……日菜。そんなに自分を責めないで。日菜がその暗闇から逃げ出したいって思うのは、それだけみおっちのことを真っ直ぐ見つめてるからだよ。ウチにはわかる。日菜はみおっちのことが、羨ましくて、眩しくて、だから怖くなっちゃったんだよね。……本当はみおっちがいないと寂しいってことじゃないかな……」

「……え? いやいや、そんなこと……」

 図星を突かれた日菜の心臓が、ドクリと跳ねた。

「この前、みおっちと話したんだけどさ。言ってたよ」

「……なんて?」

「『あたし、日菜のことが好きだよ。嘘じゃない。本当だよ』って」


 その言葉は、日菜が一番欲しくて、けれど一番恐れていたものだった。しかし今の彼女には、その純粋な好意さえもトラウマのように感じられてしまう。心が痛い。


「……『嘘』。だよ。だってあの時、美桜ちゃん日菜のこと好きだって言えなかったんだから……」

「っ! ……ひなっち!」

 感情のままに叫んだ結月が、一歩、日菜との距離を詰める。その瞳には、今までに見たこともないような激しい感情が渦巻いていた。

(困るのは……ひなっちじゃなくて……みおっちの方だよ)

「どうしたの?」

「もうウチ……ひなっちに本気で言うよ……」

 その瞬間だった。


 ペシッ。

 乾いた音が屋上に響いた。熱を帯びた痛みが、日菜の左頬に走る。

「……何するの……ああ!」

「ひなっち、いや日菜‼︎ いい加減目を覚まして‼︎」

 衝撃に目を見開く日菜。初めて呼び捨てにされたその声の鋭さに、思考が止まる。結月は日菜の肩を掴むと、その小さな体からは想像もできないほどの力で激しく揺さぶった。

「結月ちゃん。なんで泣いてるの? ……何も泣くようなことしてない──」

「うるさい! ……日菜、いつまでも孤独に浸って! 何様のつもりなの⁉︎ 自分だけが傷ついてるみたいに閉じこもって! 一体何がしたいって言うの!」

「え、だって日菜……悪いこと……してる──」

「してない‼︎ ていうかウチも! みおっちも! 本当はウチ、日菜が泣いて落ち込んでるとこなんか見たくないんだよ! なんでそれがわからないの⁉︎」

 その叫びが、日菜の心の『穴』に直接注ぎ込まれていく。結月が、なりふり構わず自分を叱りつけている。

「……結月ちゃん……」

「ねえ。……みおっちを……許してあげて……ウチの方こそ、痛いの痛いのだよ……」

「……っ!」

 結月の訴えに、日菜の脳裏に記憶が溢れ出した。

 そして日菜は、自分が『いらない子』だと思い込むことで、それら全ての輝きを汚していたのは、自分自身だったことに、今気づいたのである。

 おずおずと顔を上げると、そこには自分以上にボロボロになった結月の姿があった。

 いつも穏やかな彼女の目は真っ赤に腫れ、大粒の涙が止まることがない。

「……もっと、自分に強くなって……本当は、みおっちに自信が持ててないだけでしょ……?」

 結月の声は、祈るような囁きに変わっていた。

「結月ちゃん……」

 日菜は初めて、自分が守られていた『場所』の温かさと、それを守ろうとしてくれている友達の痛みを、その肌で理解した。


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