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ゆり色の私たちは、またいつか。  作者: 碧アオ
第一章 〜ゆり色の絆〜
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14/20

#13「交わした約束」

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


↓カクヨムサイトはこちら↓

https://kakuyomu.jp/works/2912051600801871839

 ずっと、ずーっと昔の話。もう日菜は覚えていないであろう話。


 ◆◆◆


 それはあたし(美桜)が小一だった時のこと。日菜には助けてもらった。


 ほんの小さなことだった。


 あたしが、雨の日に傘を忘れてしまい、昇降口の前で「どうしよう。このままじゃ帰れない」と頭を悩ませていたときのこと。


 みんなもう帰っていたし、あたししかいないと思ったから。

 親に迎えにきてもらおうとも思ったけど、仕事で夜遅くまで家に帰ってこない。あたしを迎えに来る人は誰もいなかった。雨に濡れて帰るのも一つの手段だったが、大事な茶色のランドセルも、教科書も濡れてしまう。


 その時だった。


『あれれ、美桜ちゃん?』


 すると突然、声をかけられる。後ろを振り向いてみると、赤いランドセルを背負った日菜がいた。みんな既に帰ったはずなのにどうして日菜がいるのだ? まさか、あたしと一緒で帰れない……なのか?


『うわ、びっくりした。……日菜ちゃん……かな?』


『うん! そうだよ! 覚えててくれたんだね!』


 その時、日菜の元気な声を聞いたら、その瞬間、なんだか急にほっとしちゃって、胸の奥がギュッとなった。


『うん、覚えてるよ! ……でも、日菜ちゃん、どうしてまだ学校にいるの?』


『んーっとね、今日はね、絵の具セットを忘れちゃって、取りに戻ってきたの。そし

たら、美桜ちゃんがいたからびっくりしちゃった!』


 なるほど、そういうことだったんだ。日菜が、えへへって笑って首を傾げている。


『そっかぁ……。でもね、美桜、傘忘れちゃったの。お外もすごい雨だし……』


 そう言うと、日菜はきょとんとしたあと、きゅっと眉毛をよせた。そして、ランドセルを下ろして、中をごそごそし始めた。


『それは大変だね! 風邪引いちゃうよ。ちょっと待ってて!』


「うん?」


 何の準備かな、って思って見つめていたら、日菜は黄色いビニール傘を引っ張りだ

した。すこし小さいけれど、お花の柄がついてて、すっごく可愛い。


『はい! あげる!』


 日菜はその傘を美桜に差し出した。


『えっ、でも……日菜ちゃん、濡れちゃうよ?』


『大丈夫! あ。じゃあ一緒に帰る? 一緒なら寒くないよ!』


 日菜が笑いながら、ぎゅっとあたしの手を握ってくれた。


 さっきまで寂しくて、ちょっとだけ泣きそうだったのに、その手が温かくて、また泣きそうになっちゃった。でも、今度は嬉しい方の涙。


『……うん! 一緒に帰ろ!』


 あたしたちは小さな傘を一緒にさして、雨の音がする外に飛び出した。


 茶色のランドセルも、教科書も、日菜の傘のおかげで濡れなかった。あのときの笑顔は、今でもずっと覚えてる。忘れなんかしない。


 ◆◆◆


 そして何年か経った日のこと。あたしたちがまだ小六くらいの時のことだ。


 学校の帰りで、駅前のベンチをオレンジ色に染めていた時のこと。


 並んで座る二人の足元には、お揃いのランドセルが仲良く重なり、その上には食べ終えようとしているスイーツの包み紙が散らばっていた。


『んーっま! 美桜ちゃん。これ、んーまいし、あーまいね!』


『すご、何これ。イチゴ濃厚すぎない⁉︎』


『でしょー! SNSで話題になってたやつなんだって!』


『……中毒になる味。もう一個買ってこようかな』


『あ! あははっ! 美桜ちゃん、鼻にクリームついてるよ!』


『日菜だって!』


 二人は顔を見合わせ、指をさして笑い合う。


 少しだけ賑やかだった空気が落ち着くと、あたしはふと独り言のように呟いた。


『……ねえ日菜。思うんだけどさ』


『んー?』


 日菜は口にイチゴを含みながら、不思議そうに首を傾げてみる。


『あたし、『日菜を守ってあげる!』って言ったじゃん』


 実はこの時にも、あたしは今と同じようなことを日菜に言っていたのである。


『うん。すっごく嬉しかったよ?』


『……ありがと。でもね、あたし、その時ちょっと張り切っちゃってさ』


 美桜は包み紙を指先でなぞりながら、ふっと視線を落とした。


『でも実際、あたしが本当に日菜を守れるかは分かんないし……。あたしだってただの中学生だし、日菜が本当に辛い時、ちゃんと一番近くにいられるのかなって、たまに不安になっちゃうんだよね』


 珍しく見せた小さな弱音。その言葉の裏には、日菜を誰にも渡したくないという、ほんの少しの独占欲と寂しさが隠れていた。


 でも日菜は──。


『違うよ! 日菜はね、美桜ちゃんが隣にいてくれるだけでも嬉しいの!』


『……え?』


 少しだけ不安そうに首を傾げた美桜に、日菜は弾けるような笑顔を向けた。


『美桜ちゃんは完璧主義だよね。勉強もそうだけど。全部気が済まないともやもやし

てしまうタイプだもんね。でも、そんなこと日菜には関係ないよ!』


『……日菜』


『この前、美桜ちゃんが『守ってくれる』って言った時、なんだか心が温まっ

たの。それだけでも嬉しかったんだ!』


『……日菜!』


『だから、これからも中学生になっても高校生になってもずっと、隣にいてほしいな。約束しよ?』


『……うん!』


 日菜のその約束にあたしは力強く頷いた。


◆◆◆


 あれから二年あまりが経った今。

 

 親友に拒絶されてからそれらのことを思い出すと、あたしは何としてでも。日菜のことを決して放っておけなかった。

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