13-9
身体の奥底から煮えたぎるような脈を感じ、全身を熱い血液が一気に駆け巡る。五感の全てが研ぎ澄まされ、震え上がるほどの力が漲り、己から金色のオーラが放出された。
さぁ、4段増の力……とくと試させていただきましょうか。
「あぁ、いい目つきになったな。来いッ! むさ――」
宮が言葉の全てを口にするより早く、金の残像だけを元の場所へ置き去りにして、僕はもう奴の背後に回っていた。髪と同じ濡羽色の瞳が見開かれたのを一瞬だけ目にし、斧を力の限りに振り下ろした。
宮が寸前に飛び上がったおかげで、コンクリの地面がえぐれ上がるのもお構いなしに、斧を引き抜くと同時に反対側の刃でカウンター攻撃を発動。宮は必死に日本刀で僕の斧を受け止めた。しかしこちらのパワーに堪えきれず、奴の体は数メートルほど吹き飛んだ。
流石は長3度……、今までとは比べ物にならない手応えを感じる。
弾丸のように飛んできた宮に驚き、慌てた一般客がその場から引いていった。
幸い、宮は両足をスライディングさせて勢いを殺し、突っ込むことはなかったが。
「ぐっ……!」
「おやおや、さっきまでの勢いはどうしましたか? 君の要望なんですから、ちゃんと耐えてください……ねっ!」
再び金の帯を撒き散らし、宮に急接近。耳をつんざくような金属音が、軽快なリズムを刻むように響き渡った。
すると宮は徐にマントを脱ぎ捨て、身軽な野袴姿となって僕へ突進を図る。どうやら本気を出し始めたのか、彼のスピードが僅かに上がったように感じた。僕の目には映っていますが、もはや観客の目には黄金と漆黒の痕跡と、刃がぶつかる際に発生する閃光しか見えないでしょう。僕自身、自分の速度に目が回りそうです。
ですが宮の実力はやはり大したもの。ここまで力を上げてもなお、こちらの攻撃に食らいついてきます。
その証拠に僕とて頬や肩に斬撃を受けている。僕の顔に傷をつけたことは許せませんが、遊びならば一方的というのも面白くありませんので。
「おぉおおおおッ!」
「はぁあああああ……!」
ぶつかり合う唸り声。
恐らく力は、ほぼ互角。
だがここで宮の刀が悲鳴を上げ始める。同じ力で互いの攻撃を受け止めていれば、重さがある僕の斧のほうに分があるでしょう。あんな細い日本刀が堪えられるはずもなく、一筋のヒビが入った。
当然それに気づいている宮も、苦虫を潰したような表情を浮かべる。そもそも日本刀は攻撃を〝受ける〟のではなく〝受け流す〟武器なのですが、僕の力が強すぎてそうせざるを得ない。だからこそ余計に彼は歯痒いに違いありません。
しかし宮はこう思っているはず。
『あと数分、数秒ほど耐え凌げば……』と。
――無論、君の思いどおりにはいきませんが。
「ぬぅうんッ!!」
「ッ――!?」
もう既に心体増強の限界といわれる5分は経過した。確かに体から放出していた金のオーラは、その瞬間に消失している。
にも関わらず僕の動きは衰えるどころか、全身の力を込めた一撃により、ついに宮の日本刀をガラスのように打ち砕いた。
「貴様ッ、何故……!?」
「……ふふ」
狼狽える宮を見上げ、微笑する僕。
良かった。多少の体の重さは感じますが、とりあえず〝試験〟は成功のようです。
そうそう。僕は〝挨拶〟をしに来たつもりではありませんので……悪いですが宮。ここで君は確保させてもらいます。
なーんて、わざわざ口にするほど優しい僕ではありませんけども。
「オォオオオオ……ッ!」
僕の殺気を感じ取った宮の目の色が変わった。彼は鬼のような形相を浮かべると、目についた野次馬の集団に突っ込み、逃げ遅れた幼女を羽交い締めにして折れた刃を突きつける。
流石にマズいと己に急ブレーキをかけるも、躍起になった宮は構わず折れた刃を振り上げた。
「わぁああん……」
「やめ――」
泣きわめく幼女の悲鳴に僕の声がかき消される。咄嗟に二人の間へ飛び込むが、どう考えても間に合わない。
調子に乗った自分を思わず呪った。
だが僕より早く彼らの間に割り込んだ人物がいた。
目に映ったのは、美しき臙脂色。そしてその人物によって、宮の折れた日本刀が弾き飛ばされる。
唖然とした宮が見上げているのは、長髪のポニーテールの女性だった。宮とは逆の左目が前髪によって隠されており、片側にスリットの入ったセクシーなワンピースが、抜群のスタイルによく似合った美女である。
「……チ――」
「こんの……」
何かを言いかけた宮を遮り、美女の声が響く。
「ブァアッカタレがぁッ! 暗里様の言いつけを破る気かクソったれ!!」
「……え?」
想像と全く違った言葉遣いに、思わず気の抜けた声を出してしまいました。人は見かけによらないとは、よく言ったものです。どうやら彼女はあちら側の人物のようですね。あれほどの美女ならお茶でもお誘いしたかったのに。
しかし謎の美女が宮の抱えていた幼女を摘み上げると、僕の中に戦慄が走りました。ですが彼女は危害を加えるわけでもなく、少々雑な手つきで幼女を地面に下ろすと「あっち行ってな」と逃がしてしまいました。……何だか調子が狂います。
「さあ、とっととズラ狩るぞ。宮」
「あ……、あぁ」
美女に答える宮の声で、呆然としていた自分の意識を取り戻しました。
このまま奴らを見逃すわけにはいきません。そう思い足に力を入れるのですが、思いもよらず強い倦怠感を感じ、僕の体は動かなくなってしまいました。やはりまだ、コレの機能は万全でないようで。
でも予想外は彼女の登場だけに留まりませんでした。勇ましい声を張り上げる2つの影が、あの二人に飛び込んでいくのです。
「だぁりゃあああッ!」
「WoOOOOO……ッ!」
W金髪からの攻撃に、美女が右目を大きく見開いて振り返り、何かを振り回して二人の猛攻を一掃。太く風を切る音を立てたものから慌てて飛び退いた二人は、僕の両側へと降り立ちます。
「ったく、一人でズっけぇわ! カッコつけてんじゃねっけさ」
「そうだゼ、ムサシ! 俺たちも混ぜろよナ!!」
相変わらず純君の変わり様にはズッコケそうになるのですが、どうやら鍛錬の甲斐はありそうですね。
そして我々三人を前にして、美女は気だるそうに鎖付のモーニングスター・フレイルを肩へ担ぐのでした。




