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国守護楽団 Brillante  作者: 貴良 一葉
第12曲 orageuse ―動揺―
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124/138

12-10

 あれから一週間。僕たちは会議で決められたとおり、伊予へ繋がる手がかりを探しながら、鍛錬と楽器の練習、そして勉学と労働に励んでいた。正直やることは山積みすぎるけど、全て和泉のためと思えば苦ではない。

 でも伊予の痕跡だけは、僕と日向でそこそこ調べ上げているにも関わらず、一向に見つかる気配がなかった。一体彼は今、何処で何をしているのだろう。


 そして土曜日の今日。楽団の練習室へ早めに集まった僕たちは、先日できなかったカルテットの合奏を行うことにしていた。

 和泉の心境も落ち着いているようで、一週間ぶりに会った彼女はとても生き生きとしていて安心した。やっぱり君は笑顔が似合うよ、和泉。


 楽器の準備をし、音出しも終えて合奏を始める態勢が整う。先日、熱気に満ちた和矢と広の演奏を聞かされたものだから、僕たちの対抗心は見事に燃え上がっていた。あの二人には感謝しなくちゃね。


「じゃ、合わせるよ。最初だからテンポは、ゆっくりめで調整しよう」

「分かった、任せて」


 テンポの決定権を持つ和泉が、僕の対面で力強く答えた。カノンでは彼女は隣の席だったけれど、今回は曲の構成上につき僕と近江の位置が入れ替わっている配置だ。


 一呼吸置き、練習室に一瞬の静寂が訪れる。

 そして横並びになった三人の呼吸が聞こえると、まずは彼らだけの音で、波が緩やかに押し寄せるかの如く演奏が始まった。


 三人の美しいユニゾンを響かせたメロディが、序盤を盛り上げていく。そして押し寄せた波が一旦引くように静まり、和泉がまるで〝安芸君どうぞ〟とバトンを渡すようなお膳立てをしてくれたところで、満を持してクラリネットの登場だ。三人の伴奏に乗せて滑らかに、時にスピーディーに、クラの華麗なる旋律を響き渡らせた。


 今回選んだ曲は『クラリネット・ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロのための四重奏 変ホ長調 作品2』。クラリネット奏者でもある作曲家のクルーセルは、フックスに次ぐ僕が敬愛する一人だ。中でもこの四重奏はクラの特徴を活かしつつ、モーツァルトの影響を受けた優雅で煌びやかな古典様式がとても美しい曲である。

 何よりクラ奏者が作った曲だけあって、クラの役目は主役級。でも生憎、僕は自分が目立ちたい理由で選曲はしない。もちろん僕のクラの魅力をたっぷりと披露したい、という気持ちがないと言ったら嘘になるけれど。


 主役と称すに相応しき音色を存分に堪能させた後、ある小節で今度はヴァイオリンの調べが天を突き抜けた。あぁ、やはり君の音は最高に胸が踊るな。

 ……そう。この曲は和泉の担当であるヴァイオリンにも、しっっっかりとした魅せ場があるのだ。しかも時折、僕と彼女の掛け合いのようなフレーズが入る特典付きである。


 至極の選曲をしたと自画自賛する。カルテットを取り仕切る僕の特権を活かして、何が悪いというのか!


「――うんっ、いい感じ! これなら来週のコンサートで堂々と披露できるよ」


 全4楽章をきっちり通し、僕は演奏を絶賛した。流石は腕が確かな盟友たちだ、もうすっかりこの曲を自分たちのモノにしている。僕は前から楽しみに――いや、前からよくメロディが好きで何度も吹いていたけれど、明日にでも演奏会を開いていいくらいの高い完成度だ。

 特に和泉はほぼ完璧。忙しくて時間がない中、どれだけこの曲の練習に費やしてくれたことか。そう感じると嬉しくて堪らない。


「本当? 良かった! この曲、弾いてると凄く楽しいから、いつもつい夢中になっちゃうんだよね」

「……そりゃ、お前らは楽しかろうな」

「……だな」


 可愛らしい笑顔を浮かべる和泉と対照的に、日向と近江からは〝やっぱ安芸(お前)、選曲やりやがったな〟という冷ややかな視線を注がれた。

 いやいや、二人にだってバチッと決めるユニゾン部分があるじゃないか。それに和泉と呼吸を合わせる時間は君たちのほうが多いし! ……なんて言ったらまた皮肉と思われるだけだから、黙っておくけど。


 僕の最高に幸せな今の気持ちを、台無しにしたくない。


「それじゃあ、テンポを楽譜どおりにして、もう1回通そうか」

「オイちょっと待て、安芸。あの団長(オッサン)、俺たちに何分使わせるっつってんだよ。まさか4楽章全部やる気か?」


 唐突な日向からの質問に、僕は「愚問だね」と返そうとした。団長(あの人)なら押し通せばやらせてくれそうだし。


 ……でも僕は結局、日向に返事をしなかった。

 その前に、僕らの会話に知らない声が混ざってきたからだ。


「本っ当、貴方たちの()()()()()()()()()()()は、昔から全然変わってないのね」

「……?」


 それは前世の僕らを知っているかのような口振りだった。そんな人、この楽団には他にいないはずなのに。


 不思議に思った皆が一斉に振り返る。そこにいたのは見覚えのない一人の女の子だった。歳は僕らより下だろうか、セーラ服のようなグレーの服を着ている。緑がかった黒いストレートヘアが、腰の辺りまで伸びていてサラリと揺れた。


「あん? 誰だ、テメェは」

「あら嫌だ。私のこと忘れちゃったの? 日向」


 見知らぬ女子から呼び捨てにされ、日向の眉間に深い皺が寄せられたが、相手は全く動じる様子がない。

 あまりの馴れ馴れしさに和泉は目を白黒とさせ、唖然とした表情で彼女を見つめていた。呼び捨てにするなんて余程の関係、とでも思ったのだろう。そんな和泉の関心とは裏腹に、僕たち三人は謎の少女へ警戒心を剥き出しにした。


 何だ、この胸騒ぎは。まさか――。


「おっ! 君も来んの早いなぁ。それに流石やな和泉ちゃん、もう彼女とも打ち解けとるん?」

「えっ、あの、団長……この子は一体?」


 相変わらずタイミング良く現れた団長へ、和泉が恐る恐る訪ねた。すると彼は少し驚いたものの、満面の笑顔で答える。


「なんや、知り合いとちゃうんか。彼女は今日からウチでフルート奏者として加わってくれる子やで。えっと名前は――」

速水(はやみ)伊予(いよ)です。これからよろしくね日向、安芸、近江。……そして和泉サマ?」

「!!!!」


 怪しい笑みを浮かべた彼女の挨拶に、僕らは耳を疑い、開いた口が塞がらなかった。あれだけ探して見つからなかった伊予が、こんなにあっさりと目の前に現れるなんて。


 ――それも定説に反し、女の子の姿で。


◇突発コーナー◇ 工藤和泉の『この曲聞いてみて!』


 皆様こんにちは、工藤和泉です。今回も元気に生きましょう!

 今回は安芸君が満を持して選んでくれて、私たちルミナス・カルテットが演奏するこちらの曲です。


 ※動画の方々と筆者・貴良一葉は一切関係ございませんので、くれぐれもご迷惑となる行為をなさらぬようお願い申し上げます。あくまで参考としてご覧ください。

 ※別サイト(Youtube)が開きます、ご注意ください。

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 ベルンハルト・ヘンリク・クルーセル

 『クラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための四重奏 変ホ長調 作品2』

 https://www.youtube.com/watch?v=cuavRgl7niY


 ……これを見つけた時の、筆者の喜びようといったらもう(苦笑)興奮のしかたがすごかったです。

 まずはとにかく聞いてほしい! きっと貴方も日向君と同じ「安芸……やってんな」というツッコミをするはずです。


 クラリネットの登場の仕方も旋律も、正しく主役そのものです。この堂々としている感じがまた、安芸君にピッタリで。私たち三人は、完全に彼のお善立てのようなものですね。

 でも、ヴァイオリンの人の心から楽しんでいるような表情が、私にも通ずる部分がある気がします。そして何気にしっかりヴァイオリンを気にしているビオラの人(作品ではファゴットですが)の表情もいい……。


 今回も良い曲を見つけてくれた筆者に拍手!

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