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国守護楽団 Brillante  作者: 貴良 一葉
第12曲 orageuse ―動揺―
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122/143

12-8

 武蔵の巧みな話術により、越後の脳波解析が決まった。それにより僕たちはこれから『伊予の捜索』と『心体増強(モジュレーション)の展開』の2つを必須事項として取り掛かる。

 最後に武蔵は、会議を締めくくるのは総長であるべきだと、和泉に統括するようお願いした。……当然、和泉は顔を真っ赤にして遠慮したけれど、武蔵に賛同する僕も彼女を促した。


「君が思ったことを言えばいいんだよ、和泉」


 僕がそう言うと彼女は一度目を閉じ、ゆっくりと深呼吸して、その凛とした声を響かせた。


「わ、私は……皆には絶対に生きていてほしい。けど、黒使の復活を阻止するのが私たちの使命で、それには心体増強(モジュレーション)が必要不可欠だってことも分かってる。でも例え展開が上手くいっても、皆の体のことが心配なの。だから、なるべく高い度数を使わなくてもいいよう、皆には引き続き鍛錬をお願いしたい」


 和泉は全員を真っ直ぐと見渡しながら、更に思いの丈を口にする。


「越後さんが言ったように、黒使の復活を阻止するには『音の小玉』を破壊するのが一番だと思う。これは武蔵さんと和矢君の仮説を信じないっ……とかじゃなくて、復活しないで済むのなら皆への負担も少ないだろうから」


 途中、和泉の声が僅かに震えたことを、僕は聞き逃さなかった。彼女は人知れず、二人の仮説……否、武蔵の仮説を必死に受け止めようとしている。僕だって信じたくないのに、和泉本人が気にしないわけがない。

 先ほど蘇った記憶の中で静かに微笑む〝彼女〟の姿を、隣で懸命に話す〝彼女〟に重ね、思わず奥歯を噛み締めた。


「でも暗里だって黙っているわけがない。黒使の復活を早めるつもりなら、恐らく別の方法で音の回収を再開させるはず。だから私は、彼が〝いつ復活するか〟ではなく、〝明日にも復活する〟として行動するべきだと思う。……のですが、どうでしょうか武蔵さん」


 恐る恐る年長者に尋ねた和泉。この緊張感の中、よく責務を果たしたよ。

 そんな彼女に武蔵も笑みを浮かべて「上出来です」と答えた。


「そういうことで皆、くれぐれも警戒を怠らないように。何かあったらすぐに連絡してください。東京組(僕たち)も暫く大阪(ココ)へ残ることにしましたので」


 武蔵の指示に僕らが「了解!」と応答したところで、濃密な内容となった2時間ほどの会議が終了。色々と方針が決まって前進はしただろう。……でも僕は、このままじゃ煮え切らない気分だった。


「さて、広。僕たちは帰る準備をするよ」

「えぇ~、嫌なのだぁ。まだ帰りたくないのだぁ~ッ」


 ビッシリと書かれたメモを片付ける和矢の隣で、広が怪訝な顔で口を尖らせる。どうやら自宅ではソプラとテナーが二人に化けて、帰りを待っているようだ。口が聞けないから周囲には〝風邪で声が出ない〟と偽っているという。

 それは早く帰ってあげたほうがいいんじゃないかなぁ……と思いつつも、ここを離れたくない広の気持ちも分からなくはない。


「だって、まだ和泉と約束の演奏もできてないのだっ!」

「そうだけどさぁ……」


 聡い和矢は、和泉の様子を気にしているようだった。

 でも当の和泉はケロリとした表情で微笑んだ。


「なら、今から演奏しに行く? 広君」


 その反応に和矢は虚を突かれて驚いていたけど、隣から広が目を輝かせて和泉に飛びついた。そういえば前回二人が岩手に帰る時、そんな約束を和泉はしていたっけ。


「ね、安芸君。カルテットの前に少しだけ……お願い」

「へっ!? う、うん。勿論!」


 唐突な和泉からのお願いに、僕は変な返事をしてしまった。実のところ今日は彼女のことが心配で、カルテットの練習を中止にしようと思っていたのだ。


 でもここは一旦、何食わぬ顔で付き合おうか。

 何より前向きでいようと必死な和泉に、水を差すようなことはしたくない。



 武蔵たちと別れ、僕たちは和泉が務めている楽器店へ向かった。皆と違って楽器を持ち歩けない和矢と広のために、そこで借りようという算段である。

 楽器店へ着くなり二人はピアノとマリンバに加え、ヴィブラフォン(鉄琴)、チューブラーベル(のど自慢の評価などで使われるアレ)という壮大なスケールの楽器を借りた。予想以上に本格的な準備を始める三人に驚きつつ、待っている間で僕は日向と近江に、この後のことを話した。


 演奏ができる教室まで借り、彼女たちは手際良くスタンバイを終えた。なるほど、もう曲は既に習得済みということか。

 アイコンタクトを取り合い、大きく息を吸い――三人の小さな演奏会は開演した。


 和泉たちが披露したのは、サン=サーンス作曲『死の舞踏』を、ヴァイオリン・ピアノ・パーカッションの構成で編曲したものだった。彼女たちに相応しくはあるけれど、特に広が演奏するにはあまりに難しい曲である。てっきり僕は邦楽のポップス曲をアレンジした、簡単なものが来るとばかり思っていたのに。


 この曲を選んだのは和泉だという。彼女は〝子供〟を対象としたのではなく、二人を立派な奏者とした目で見て、厳格なクラシックを選んだのだ。

 一人前扱いされたことで、二人の音楽家魂にも火を付けたと思う。和泉は言わずもがな、二人の演奏も大人顔負けのものだった。


 あぁ。君は彼らをきちんと『対等の存在』として見ているんだね。

 やっぱり君は、仲間想いの優しい女性だよ。和泉――。


 いつの間にか優しいヴァイオリンの音色へ聞き入っているうちに、演奏が終わりを告げ、観客となった僕らは絶賛の拍手を送った。満足そうに笑い合う三人の姿を見て、ここへ来て良かったと思う。

 余韻も早々に、カルテットをやると思っている和泉は、片付けようと口にした。でも広が「ちょっと待つのだ」と言って何やら和矢に耳打ちをし始めた。


 微笑みながら頷く和矢。

 そして再び二人はピアノとマリンバに向かい、ある有名な曲を演奏する。


 それは……。


「ハッピー バースデー ディア い~ずみ~~♪」

「!?」

「っ、ブッ!!」


 二人からの粋な計らいに和泉は感激していたが、僕には落雷を受けたような衝撃が走った。

 その僕と同じ顔を浮かべているのは日向。笑いを必死に押さえている近江。


 まさか、こんな展開になるとは……。

 それも、あんな年下の子たちに先越されるなんて。


 どうやら男の考えることは、何歳でも皆同じらしい。


◇突発コーナー◇ 工藤和泉の『この曲聞いてみて!』


 皆様こんにちは、工藤和泉です! 今回もこのコーナーと参りましょう。

 今回は広君のリクエストにお答えして、私と広君、和矢君の三人で演奏したこちらの曲です。


 ※動画の方々と筆者・貴良一葉は一切関係ございませんので、くれぐれもご迷惑となる行為をなさらぬようお願い申し上げます。あくまで参考としてご覧ください。

 ※別サイト(Youtube)が開きます、ご注意ください。

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 カミーユ・サン=サーンス作曲 イ・サンジュン編曲『死の舞踏』

 https://www.youtube.com/watch?v=Q5O2GUSiCB4


 サン=サーンスの曲を、マレットパーカッションとヴァイオリン、ピアノのアンサンブルにアレンジされた作品です。

 まさに私たち三人で演奏するに相応しく、筆者も見つけた時は「キタァアアア!」と思ったようです。


 正直、広君が弾くにはあまりにも難しそうではありますが(チャイムに手が届くのか、とか物理的なことはさて置き)、彼ならブリッランテメンバーとして意地でも弾けるようになってくれると思います。

 不気味な和音がどこか死への恐怖を感じさせつつ、妖美なメロディに魅了されます。ヴァイオリンは勿論、マリンバの音色をご堪能ください。


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