其の壱十六「慣れすぎた霊感」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
昨年十月から創作怪談を書き始め、いつの間にか半年を過ぎていました。
108本の怪談を書き上げた後、もう一度108本の怪談を納める。
様々な読み物を書く中で初めて怪談を書くという中、正直なことを言うと、
ひとりで216話書ききるというのは、初めて書く者がいきなりやることではない――と、
昨年十月の私に囁きかけたいと思うことも。
それは何故か――ここにきて、アイデアが尽きかけているからです。
そんな話を友人にしたところ、「それならいい人がいるよ」と、とても霊感が高く、幼少期から様々な怖い体験をしている方、仮にOさんとする四十代の男性を紹介していただけました。
取材当日。場所は市内の喫茶店。
Oさんはとても気さくな方な上、話が上手で、怪談好きな私はとても興味深く聞き入ってしまいました。(見た目もダンディーな俳優さんっぽいイケおじでした)
小学生のお泊まり会の時に見たトイレの幽霊の話、中学時代に幽霊としばらく対面し続けていた話、二十代の頃付き合っていた彼女さんが自身の守護霊になって今もここにいるという話――
どれもとても興味深いのですが……しばらく話を聞いているうちに、私はどこか違和感を感じるようになりました。
その違和感、最初は言葉にできないものでしたが、話を聞けば聞くほど強いものになっていき、そしてあるタイミングでそれが「Oさんが、自分の怖い体験談をあまりに怖い話でも何事でもないように、あっけらかんと語っていること」なのだと気付きました。
「Oさんは、こんなに沢山の怖い体験をしているのに、何だか何事もなかったようにあっけらかんと話されますね。」
話の中で私は、そんな問いをOさんに投げかけました。するとOさんは、ニッコリと笑顔を浮かべてこう言いました。
「そりゃあもう、毎日のようにそこら中で見ているから、慣れですよ。慣れ。それにいつも僕の後ろには、彼女が憑いていますしね。ははははは。」
慣れ――霊も毎日見ていたら、こんなふうに気楽に話せるほど慣れてしまうものなのでしょうか。見えない私にはそれがわからないためか、彼の様子の方がよほど霊を見るより怖い気がして、その言葉に背筋がゾゾゾを通り越して全身ゾワワワとなるような気分でした。
Oさんのお話の中から、私はいくつか「これを書きたいな」と思ったものを手早くノートにメモして、約二時間の取材は終了しました。
「今日はとても興味深い話をありがとうございました、Oさん。」
「いえいえ、こんな話で良ければいくらでもしますよ。また呼んで、イテッ」
そう言って頭を押さえるOさんの様子に、もしかすると背後から彼女さんに叩かれたのかな?と、思わず想像したことでクスリと笑ってしまった私でした。
そしてお店を出るとき――私はゾッとしました。
それは明らかに女性の声。私の前にいるOさんの背後から、その声が私に囁いたのです。
「風間さん、私の話は書かないようにお願いしますね。」
この話……本当です。




