其の弐十零「雑踏に紛れる声」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
この話、本当なのか作り話なのかわからないのですが、とても興味深く感じたものなので、皆さんにも知っていただきたく思い、今回、「これから広まるかもしれない怖い作り話」の中で書かせていただきました。
このお話は、読者様から頂いたお便りの中にあったもの。
それを読み終えたとき「この話、本当であれば私たちは何を基準にそれを判断すればいいのだろう?」という疑問と、「判断できない」という一点にたどり着くのではという私なりの答えにたどり着き、背筋がゾゾゾとするのでした。
それはこんなお便りの中のこんなお話です。
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心霊現象の中に、「声が聞こえた」というものがある。
古典的な怪談の中ならば「うらめしやぁ~」とか。
最近聞いた怖い話の中では、「見えているんでしょ?」とか、「こっちにおいで~」など様々。
昨今、その中にあまりにも日常的な会話に溶け込みすぎた、霊の声とは判別できないものが社会の中に紛れているという。
それが聞こえるのは、心霊スポットという限定的な場所ではない。
この事例が多く報告されているのは、人の多い場所ばかりなのだ。
例えるのであれば、大都市のスクランブル交差点。
ふと聞こえた「あ、見えた見えた!そっちの角にいるよ。うん、青になったら渡るから。」
スマートフォンで会話をしているだろう声が明らかに後ろから聞こえたはずなのに、
そこにいたのはスマートフォンを手に取り黙って画面を注視している人。
例えるのであれば、満員のスタジアム。
ふと聞こえた「ちょっとビール買ってくるわ!あ、もうすぐ打順回るか…急ぐわ!」
左隣の席から聞こえたそんな会話のはずが、自分の座っている席が一番左側で、そこには誰もいなかった。
例えるのであれば、フェスの会場――というように。
ただこれらの体験をした人々の話は、「心霊現象」としてなかなか受け入れてもらえない。
それはあまりにも聞こえた声が「日常的な会話な上、はっきりと聞こえすぎている」からだ。
だがしかし、もしこれが本当に心霊現象だとしたら?
我々は、常日頃から知らず知らず「霊の声」を、「霊の会話」を何気なしに耳にしているのかもしれない。
そして、幽霊が実在するのならばそれは「心霊スポット」という限定的な場所ではなく、
何ということはないどこにでも存在するのかもしれない。
例えば、あなたの隣の空いている椅子――
「あ、怪談を書いているんですねー。私、怖い話大好きです」
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最後の一行を読んで――思わず仕事部屋の中を見回してしまいましたよ(笑)
それはそれとして、もしこのお話のとおり「日常の中に幽霊の会話が潜んでいる、それも鮮明な声で」が本当の話でしたら、私たちは霊の声と人の声をどう聞き分ければいいのでしょう。そもそも、聞き分けられる気がしないのですが。
でも、このお話。少しだけ真実味があるなぁと思った点がありました。
それは「霊は心霊スポットだけにいるのではない、どこにでもいるものだ」というところです。
様々な怪談を考察する中で私はこんなことを聞いたことがあります。
「人の多いところに霊はいる。だって霊は寂しさを紛らわせたいのだから」
もしかすると、霊たちが人の多い場所に集まるうちに様々なコミュニティができて、見えないながらも私たちのような日常を送っているのかもしれませんね。
そんな彼らの会話が時に聞こえてしまう現象が、この「日常的すぎる内容のはっきりと聞こえる霊の声」の正体なのかもしれませんね。
この話、私は本当だと思います。




