其の参十参「怖い話を買う男」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
これは、読者様(男性)から頂いたお話。
◇◆◇
ある街の居酒屋店内で「怖い話、買います」という張り紙を見つけた彼は、
興味本位でそこに書かれた連絡先メールアドレスにメッセージを送った。
「居酒屋〇〇で張り紙を見ました。怖い話あります。」という短いメッセージ。
すると、ほんの数分でメールが返ってきて、そこには
「怖い話買います。今、居酒屋〇〇のカウンター席左端にいます。」と書かれていた。
彼は、スマホから目を離してカウンターを見ると、カウンターの一番左端の席には黒いスーツを着た男が座っていた。
「……こんばんは。メールしたものです。」
そう声をかけると、黒スーツの男は振り返り、彼に向けてにっこりと笑うと空いている隣の席に座るよう促した。
男は黒いスーツをきちっと着こなした、50代と思われる会社員。
怪談を集めることが趣味で、それが高じて退職後は怪談の聞ける居酒屋を始めたいという夢があるらしい。
彼が自身の怖い体験談を話すと、黒スーツの男はとても興味深そうに耳を傾け、
時々ウンウンと頷いたり、おお!?と驚くような顔をしている。
だが、怖い体験談を話している彼は、それどころではなかった。
背筋をゾゾゾとさせながらも話を続ける彼には、
男の背後に何とも言えない数の“何か”が乗っているように見えたからである――
◇◆◇
読者様から頂いたこのショート怪談。
続きは!?というところで終わっていることが、惜しいようにも思いますし
これもまた続きについて想像力を膨らませる手法のようにも思います。
それはそれとして、このお話。
私の見解は、この黒スーツの男性は怪談を収集しているのではなく、
背後に乗っている無数の“何か”、多分「霊」だと思うのですが、
それらに収集させられているのではないか?と思いました。
ただ「怪談を聞かせて」より、「怪談買います」とした方が話も集まりやすいと、
背後に乗っている霊に、そうさせられているのでは?と思うのですが……どうでしょうか?
怪談買います。
もし私がどこかでこの張り紙を見つけたとき、私も怖いもの見たさで
その連絡先にメッセージを送ってしまうかもしれませ――ん??
おかしいですね。
私は怖い話は好きでも、怖いものを見るのは本当に苦手なのに、
どうして「怖いもの見たさ」なことをしようと考えているのでしょう。
――どうしてでしょうね。




