其の五拾壱「無自覚、或いは自覚的な何か」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
時々、こんな話を聞くことはありませんか。
「あいつが会社を辞めてから、何だかトラブル続きだ」と。
この話は、ある会社を退職し、フリーランスのライターとして活動している
私の知人・Aさん(男性)の身に起きた出来事です。
この話を聞いたとき、私は彼が最後にポツリと呟いた言葉に、
背筋がゾゾゾとするのを感じました。
それは、こんなお話です。
◇◆◇
Aさんは業界では小規模と言われながらも、
素人目には大きなプラントを持つ会社に中途入社し、十三年間勤めていました。
入社五年目で、プラント内の比較的重要な設備の管理担当となり、
八年間その仕事に従事していましたが、ある事情で退職。
現在は、長年趣味として続けていたインターネットでの情報発信を中心に、
様々な記事を書くライターとして活動しています。
そんな彼とは、ライター仲間を通じて知り合い、
共通の趣味(スポーツカー好き)で繋がったのですが――
それはそれとして。
ライター仲間の集まる食事会の中、話の流れで私はAさんから
彼が退職した会社の“今”を聞くことになりました。
結論から言うと、それは「Aさんの呪いなのではないか」
という話でした。
Aさんが退職した後、彼が管理していた設備が連続して故障し始めたというのです。
その設備は毎年専門業者による定期点検を受け、
彼が最後に確認した点検結果の数値にも問題はなく、
Aさんが辞めた後もまだしばらくは壊れるとは思えないような部品でした。
Aさんは在職中に親しかった社員からこの話を聞き、
「あまりにあちこち壊れるから、Aさんの呪いじゃないか?」
と言われ、思わず笑ったそうです。
「いやいや、ないない。呪いなんてしていないし、
今、この話を聞いて僕も“なんでそこが壊れる?”と驚いたくらいだよ。」
……ですが。
この時、親しい社員にはそう言ったAさんですが、
実はそこが壊れた原因について、心当たりがある のだそうです。
「残った社員にはわかりえない。その原因を作った人も、プラントの設計者も、
誰も多分気づいていないだろうね。」
そう言ったAさんは、飲み物を口にしながら、どこか遠い目をしていました。
そして、静かに呟いたのです。
「それに、原因が僕の呪いだったら、もっと大変なことが起きていると思うよ。」
◇◆◇
その一言が、妙に暗く、深く、静かで冷たく感じられ、私は背筋がゾゾゾとしました。
“もし本当に呪いだったら、もっと大変なことが起きる”と静かに呟くAさん。
まるで、「呪いではなくてよかったね」とでも言うようなその言い振りに、
私はAさんの中にある強い“念”のようなものを見た気がしたのです。
私にとってAさんの勤めていた会社は無関係ですが、
なぜか「今後、何事もありませんように」と、
心のどこかで祈るような気持ちになりました。
そして、ふと思いました。
時々聞く「あいつが辞めてからトラブル続きだ」という話は、
残された人たちの、単なる心理的な“納得のための言葉”かもしれない。
しかし――辞めた社員の強い念が“呪い”として残ることも、
もしかしたらあるのかもしれない。
この話は、どこまでが本当なのか……私には、わからないのです。




