其の壱百五「何かが見えているのかも」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
取材で遠方へ向かうとき、私はよく高速道路を使います。
高速道路の運転は嫌いではないのですが、そんな中どうしても苦手なものがあります。
それは――追い越し車線を走ること。
私は車を左寄りにして走る癖があるため、追い越し車線に入ると、
走行車線の車に寄り過ぎていないかと視界の端がザワザワとして、どこか落ち着かなくなるのです。
そんな話を友人にしたとき、彼女は少しだけ声を潜めてこんな話をしました。
◇◆◇
「追い越し車線を延々と走り続ける車、見たことある?」
もちろんある、と答えると、彼女は首を横に振りこう続けました。
「そうじゃなくてね。戻れない車の話よ」
戻れない? と聞き返すと、彼女はさらに話を続けます。
「走行車線に“何か”が見えて、追い越し車線から戻れない車がいるんだって」
走行車線には何もいない。戻ろうと思えばいつでも戻れる。
なのに、その車はまるで何かと並走しているかのように、
速度を合わせ、延々と追い越し車線を走り続ける――
「もしそれを見かけたら、絶対に近づかないほうがいいよ。」
そう言った彼女は、含みを持たせるように……
「その車はね、遠くない先で“並走している何か”に飲み込まれるんだって」
私は思わず笑っていました。まるでレースゲームのゴーストカーのようだ、と。
半透明の車が、前回の自分の記録をなぞるように走る、あれです。
ですが、友人は笑いません。
「ゲームならいいけど、それが現実に“見えてる”人がいるんだって。」
◇◆◇
その言葉が妙に引っかかった私は、それ以来、高速道路を走るたび、
追い越し車線を延々と走る車をなんとなく目で追ってしまいます。
もし本当にその車の隣を“何か”が並走しているのなら、
それは私にも見えるのだろうか。
そして、見えてしまったとき、その車は並走する何かに飲み込まれてしまうのを
私は見ることになるのだろうか、と。
取材のため、私は今日も高速道路を走る。
そのとき前方の追い越し車線に、一台の車が延々と走り続けているのが……
……あれは、ただの急ぎの車だろうか。それとも――。
この話、本当かどうかは、また後日。




