其の六十五「炎マークの外側:事故物件にならない部屋」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
このお話は作り話です。でももし、同じようなことが実際に起こったら――
それは、とても困るのではないかという気がします……
以前からお話しているように、私は怪談を聞くのは好きなのですが、
怖いものを見たり体験したりすることは、
本当に、全力で、ご遠慮させてほしいという超絶怖がりです。
そんな私がとても好きなのは、事故物件サイト「大島てる」の管理人・大島てるさん。
想像の斜め上どころか、斜め上はるか遠くにぶっ飛んでいくあの話し方と、
どこかほっこりしてしまう印象が、とてもいいなぁと思うのです。
……それはそれとして、今回は「心霊現象はあるのに事故物件にならない」という物語です。
それはこんなお話。
◇◆◇
あるマンションに、一人の若い男性が引っ越してきました。
仕事の関係で2か月ほど住む予定だった彼ですが、
引っ越してきた当日から、このマンションでは今までになかった不可解な出来事が
毎日のように起きるようになりました。
明らかに人のいない状況で物音がするとか、
誰もいないはずなのに、誰かとすれ違ったような気がするとか。
そして決定的だったのは、引っ越しから1か月半ほど経った頃。
彼が“誰もいないはずの隣”に向かって、
まるで誰かがいるかのように楽しそうに会話している姿を
住民が目撃したことでした。
この話はすぐに住民の間に広まり、
「彼はおかしい」「何かを連れてきているのでは?」という噂が立ちました。
マンションの管理人が彼に話を聞くと、
彼は“ある女性の霊に憑かれている”ことを告白し、
「できるだけ外には出ないようにします」と言ったそうです。
そして15日後。
彼は予定通り、2か月でマンションを去りました。
するとどうでしょう。
それ以降、不可解な物音や気配は一切しなくなったのです。
管理人の話によると、彼に憑いていた女性の霊は彼の恋人で、
2か月の出張が決まった彼に“ついて来た”、いや、“憑いて来た”のだといいます。
マンションには平穏が戻りましたが……
もしあなたの住むアパートやマンションに、
新しく引っ越してきた入居者が幽霊を連れて来ていたとしたら――
あなたは、どうしますか?
◇◆◇
このお話は私の創作なのですが、
この話を思いついたとき、私は事故物件の定義について少し調べました。
調べた内容はこの物語のとおり。そしてその答えは「NO」です。
もしも引っ越してきた人が霊を連れてきて、そこで心霊現象が起こるようになっても、
その物件は事故物件にはなりません。
事故物件(心理的瑕疵物件)は、
その部屋や建物で自殺・他殺・事故死などの“人の死”が発生した場合に成立するもので、
国土交通省のガイドラインでも心理的瑕疵は
「過去の死亡事故などにより入居者が心理的抵抗を感じる状態」と定義されています。
つまりこのケース――「入居者が幽霊を連れてきた」
というのは、法律上の瑕疵には該当しません。
ということは……
事故物件サイトで炎マークがついていない場所にも、
不可思議な現象が起こる物件は、あちらこちらにあるのかもしれませんね――
ちなみに、この話は、本当なんです。




