其の七十参「いわれてみて、いわれたことで」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
それを彼女に言われるまで、私は“分かっているようで理解していなかった”のだと思います。
もしかすると気付いていたのかもしれませんが、
あまりに自然すぎて、考えようとすらしていなかったのかもしれません。
今日はそんなお話です。
これは、この話を書く数日前――多分五日前のこと。
私は友人のM子と会い、食事をしていました。
その中で、彼女は私が執筆中の怖い話や、出版中の小説について
こんなことを言いました。
「咲良の作品に出てくる女性のお化けって、みんな美女だよね」
言われてみれば――確かにそうだなぁ。
そのときは会話の流れとして受け取ったのですが、
少し考えてみると、確かに自覚がありました。
さらに思考を掘り下げてみると、
私の知っている怪談に登場する女性の幽霊、妖怪、
女性の神様や仏様の多くが「美女」と表現されていることに気付かされました。
まあ……ババア系怪異については例外として
(ババア系怪異のみなさん、本当にごめんなさい)
それはそれとして、M子は続けてこう言いました。
「咲良。これは聞いた話だけどね。怖い話に出てくる女性の幽霊って、
綺麗であれば綺麗なほど、めちゃくちゃ怖いんだって」
「……それじゃあ、私の作品に出てくる女性の怪異は全部怖い?」
「怖いかも。多分ね」
確かに、怖い話を書いているのだから、
登場する幽霊や怪異に怖さがないと本末転倒です。
でも――
“綺麗であれば綺麗であるほど怖い”という背景があることを、
私は分かっているようで理解していなかったのだと気付かされました。
いえ、分かっていて理解もしていたのかもしれません。
ただ、それを意識していなかっただけなのかもしれません。
ですが、それよりも。
M子が最後に言った言葉が、
私の背筋をゾゾゾとさせました。
「咲良は……咲良の書いてる怖い話の中に、入り込んじゃってないよね?」
その瞬間、私は私の想像力を、静かに、でも早急に停止させました。
”咲良は……咲良の書いてる怖い話の中に、入り込んじゃってないよね?”
その瞬間、私自身が“そちら側”へ足を踏み入れている
イメージが浮かびかけ――




