其の七十七「最恐怪談の噂」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
『最も恐ろしい怪談』
世の中には数えきれないほどの怪談がありますが、
その中にひとつだけ「最も恐ろしい怪談」と呼ばれるものが存在するらしいです。
ただ、奇妙なのは、その怪談の内容を知る者が誰ひとりいないという点。
語り継がれているのはただひとつ――
その怪談は、他のどんな話よりも恐ろしい。
それだけが、まるで呪いのように広まっているのです。
ではなぜ、内容が知られていないのか。
それを調べていくうちに、私はこんな一文を見つけました。
「この怪談を聞いた人は、例外なく自分の意思で記憶を消してしまう」
「忘れさせられる」のではない。「忘れたい」と思うのでもない。
聞いた瞬間、脳が“生存のために”その記憶を切り落とすのだというのです。
さらに調べていく中で、こんなレポートも見つけました。
◇◆◇
ある大学の研究室で、この怪談を聞いた直後の被験者の脳波測定を行った。
その結果は異常だった。
恐怖反応を示す領域が、まるで焼き切れたように沈黙し、
代わりに“記憶の消去”に関わる領域だけが激しく活動していた。
後に被験者は皆、同じことを言った。
「……何かを聞いた気がする。でも、思い出したくない。そもそも、何を聞いたんだっけ?」
その後、研究は中止された。
理由は「研究者自身が怪談の内容を思い出せなくなったから」だ。
ただひとつだけ、研究ノートに走り書きが残っていた。
「聞いた瞬間、脳が“逃げた”。あれは、人間が知ってはいけない種類の恐怖だ。」
しかしその研究者も、翌日にはそのメモの意味を理解できなくなっていた。
それでも、この怪談は確かに存在する。
誰も内容を覚えていないのに、誰も語れないのに、
なぜか“最も恐ろしい怪談”としてだけは広まり続けている。
まるで、内容を知られないまま恐怖だけを増殖させる、得体の知れない生き物のように。
◇◆◇
『最も恐ろしい怪談』
この話を追っていく中で、私はとても興味深く感じる一文がありました。
「この怪談を聞いた人は、例外なく自分の意思で記憶を消してしまう」というものです。
人は心理的に、大きな恐怖の記憶を生存のために忘れてしまうことがある――
以前、そんな話を聞いたことがあります。
そして私自身も、一度だけそういう体験をしています。
あのとき見た“あれ”は何だったのか。
この「最も恐ろしい怪談」は、私の中でそれに通じるものがあり、
とても興味を引かれました。
しかし、その内容を知る方法はどこにもありませんでした。
どれだけ調べても、そこにたどり着くことはできなかったのです。
ただ、なんとなく――
これ以上関わるのはやめておこう。
そう思いました。
忘れてしまうような恐怖体験は、あの一度だけで十分です。
この話、本当なんです。




