其の七十八「背筋がゾゾゾ」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
これから広まるかもしれない怖い作り話。
その中で頻繁に登場する一文――「背筋がゾゾゾ」。
これは私がこの作品を書き始めたとき、
「何か定番のキメ台詞が欲しいなぁ」とぼんやり考えていました。
そのときに、ふと浮かんだ言葉がこの「背筋がゾゾゾ」でした。
よし、これだ――そう思って以来、私はこの言葉をよく使っています。
けれど、ある日ふと気づいたのです。
……もしかして、この言葉が浮かんだのは、
私が若い頃に体験した“あの出来事”が関係しているのではないか、と。
今日は、その体験談をお話しします。
◇◆◇
あれは、私が20代の頃のこと。
夏の夜21時。久しぶりに集まった友達のA美、N子、そして私の3人で出かけた帰り道でした。
話が盛り上がり、気づけば時間は0時を回っていました。
帰り道、A美の運転する車の中でも、私たちはずっと喋り続けていました。
そのせいで、途中で寄ろうと話していたコンビニエンスストアを
気づかないまま通り過ぎてしまったのです。
「あ、A美。コンビニ通り過ぎてる!」
「あっ、ごめん!引き返すね」
A美はそう言って、車の向きを変えるため、
少し先に見えた広めの空き地へと車を入れました。
――その瞬間でした。
理由はわかりません。車が空き地に入った途端、
私の背筋に、ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ……と、
まるでゆっくりと指でなぞられたような嫌な感覚が走ったのです。
「A美、ここ早く出て!!なんだかここヤバい!!」
私は自分でも驚くほど大きな声を出ていました。
「え?え?えええ??」
A美とN子は驚きましたが、A美はすぐに車の向きを変え、元の道へ戻ってくれました。
すると空き地を出た瞬間、私の感じていた“背筋がゾゾゾ感”はスッと消えました。
よかった、と、私は思わず、ホッと深い息を吐きました。
「咲良、驚かせないでよ。何か見えたの?」
N子が心配そうに聞いてきます。
「なんだか……あそこに入った瞬間、背筋がゾゾゾってして……気持ち悪くて」
そう言った途端、車内は一瞬だけ静かになり――
「出たね、霊感少女・風間さん!」
「いやいや、それはない!怖い話は好きだけど、私そういうの無いから!」
「ほんとに?絶対咲良、霊感あると思うんだけど。ね、A美」
「うん。クラスのみんなもそう言ってたよ」
「ちょっと!本当に無いから!怖い話が好きなだけだから!」
そんなやり取りをしているうちに、車はコンビニに到着しました。
◇◆◇
後日、明るい時間にあの空き地の前を通りました。
そこは小さな工場の駐車場で、廃工場でもなく、いわくのある場所でもありませんでした。
ただの、どこにでもあるような場所。
それなのに――
あの日、あの瞬間、あの場所で、私は“背筋がゾゾゾ”を感じたのです。
霊感もない。霊が見えたこともない。
ただの怖い話好きな私が、あそこで何を感じていたのでしょうか。
◇◆◇
あれから25年。
「背筋がゾゾゾ」という一文をよく使うようになった理由は、
もしかすると、この体験が大元なのかもしれない――
そんなことを思い出しました。
あの日から今日まで、あの場所で事件や事故があったという話は一度も聞きません。
でも、改めて思うのです。あの場所はいったい何だったのだろうか。
背筋がゾゾゾの原点となったその場所は、私の自宅からそれほど離れていません。
だから私は、25年ぶりにその場所を見に行こうと思っています。
もちろん、夜は怖いので――お昼の明るい時間帯に。
この話は私の体験談。
だから、この話は間違いなく本当の出来事です。




