其の八十弐「其の八十七:刑事の霊カンを読まれた読者様からのお便り」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
このお話は、其の八十七「刑事の霊カン」の感想と共に送られてきた、
“実際にそれに近しい場面を見てきた”というHさんの体験談です。
このお便りを読んだとき、私は「本当にこういうことがあるんだ」と、
とても興味深いものを感じました。
◇◆◇
風間先生。初めまして。
いつも「これ・こわ」の投稿を楽しみにしています。
前作、往路の中でも時々書かれていましたが、
先生の書く怪談は、創作なのか本当なのか、その境界が曖昧で、
その曖昧さこそが、先生のよく使われる「背筋がゾゾゾ」という感覚に
繋がっているのだと感じています。
今回お便りしたのは、復路の其の八十七「刑事の霊カン」を読んだとき、
僕も過去に同じような体験をしていたことを思い出したからです。
これは僕の実体験です。
20年ほど前、僕は地元の消防団に所属していました。
入団して最初の2年間、火災の出動はなかった代わりに、
4件の行方不明者捜索に出ることになりました。
そのとき先輩から「第一発見者にだけはなりたくないな」という話を聞きました。
先輩の同期(Aさん)が、山中で行方不明者を“発見”した際、
警察が来るまで遺体と二人きりで待つことになり、
その体験が強烈にAさんの記憶に残っているという話でした。
それを聞かされていた僕も、どこか不安を抱えながら、
その日“川で姿を消した小学生”の捜索に参加していました。
開始から1時間ほどで小学生は“発見”されましたが、その第一発見者も、またAさん。
以降、僕が出動した4件すべての第一発見者はAさんでした。
小さな町の消防団だったので、毎回第一発見者になるAさんは、
「何か持っている人」と言われていました。
そんなある日、Aさんとお酒の席で話す機会があり、
僕は軽い気持ちで「霊感とかあるんですか?」と聞いてみました。
Aさんは笑いながら「ないない」と言っていましたが、
僕がそれ以上聞かずにいようとしたとき、Aさんはこう続けました。
「霊感とかはないんだけど、初めて第一発見者になってから、なんとなく“この辺りかな”って感じることはある。でも、行方不明者の幽霊が『ここっす!ここにいるんす!』なんて言ってくるわけじゃないよ」
「なんですかその“ここっす!”って」
僕も思わず笑いましたが、この話を聞いたとき、
あまりに連続して第一発見者になるAさんには、やはり霊感があるのだろうと感じていました。
それから20年ほど経った最近、僕は山岳救助隊の方(Tさん)と話す機会がありました。
そのとき昔あったAさんの話をすると、Tさんは苦笑しながらこう言いました。
「山岳救助隊でも、発見者になる人はなぜか数名に限られるんだよ。
長年の経験からくる“カン”だと思っていたけど……時々、それだけじゃ説明できないこともある。
もしかすると、彼らは霊感に近いものを持っているのかもしれないね」
ただしと付け加え、Tさんは続けました。
「でも、霊感を頼りに任務にあたることは絶対にない。
だから彼らも“隊員としてのカン”と言い換えているんだ」
これが僕の体験談です。
其の八十七「刑事の霊カン」を読んで、昔の体験と最近聞いた話を思い出し、お便りしました。
108話が終わって続きがないかと思っていたとき、
また108話投稿されると聞いて、とてもうれしかったです。
まだまだ先は長いと思いますが、マイペースで頑張ってください。
楽しみにしています。
◇◆◇
……「これ・こわ」って。
でも長いタイトルなので、そんなふうに略されるのも
“有り寄りの有り”かなと、思わずクスリと笑っていました。
しかし、それに反してこのお便りの内容はとても興味深い。
やはりこの世界には“そういうもの”を持っている方がいるのだと。
そして、それを表に出せないからこそ生まれた言葉――それが「カン」なのだと。
もしかすると、様々な出来事の中で、“カン”と言い換えられた“霊感”が
事件や事故の解決の一助になっているのかもしれない。
それが本当かどうかはわかりませんが――
それはそれとして、どれも大変な任務に責任を持って働く方々であり、
頭の下がる思いなのは、本当です。
そんなことを思いながら、私は今日も「これ・こわ」のアイデアを
様々な方向から眺めながら探す日々を過ごすのでした。
この話、本当なんです。




