其の八十七「刑事の霊カン」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
私の友人の中に、元警察官のKさんがいます。
小説で事件の捜査場面を書くとき、私はよく彼に内容を確認してもらいます。
現実の捜査の進め方と矛盾がないようにするためです。
以前、私が幽霊を扱う作品を書いているとき、Kさんにこんなことを尋ねました。
「幽霊の証言が、犯人逮捕につながることってある?」
それにKさんは、「無いよ」と、間髪入れずに言いました。
あまりにも即答だったので、私は思わず笑ってしまいました。
しかしKさんは真顔で続けました。
「警察はね、現実的な物的証拠をもとに捜査するんだよ。“幽霊がこう言ってた”なんて、証拠にならない」
確かにその通りです。
誰にも見えない存在の証言など、信じてもらえるはずがありません。
ですが――
このあとKさんが話したことは、とても興味深いものでした。
「でも咲良さん。捜査の中で“ある言葉”が聞こえてきたときは、
その人には“見えないもの”が見えているかもしれない、って話があるんだ」
“ある言葉”。私は息を飲みその続きを待ちました。
「それはね……『これは、俺のカンだよ』って言葉」
それはドラマで刑事がよく言うあの台詞でした。
Kさんは、そのまま静かに話を続けます。
「もちろん、経験から来る推測って意味もあるよ。でも、時々それだけじゃ説明できないことがあるんだ。それでも現場で“幽霊がこう言ってる”なんて言えないだろ?だから、それを言い換える形で“俺のカン”って言うんだよ」
「じゃあ……現場で“俺のカン”って言う刑事さんは……?」
「多分、見えてるんだろうね。おそらく霊感がある人なんだと思うよ」
その言い方があまりにも自然で、私は妙に納得してしまいました。
刑事のカンと、刑事の霊感――確かに、絶妙な言い換えだと思います。
そして私は、この話を、自分の書いている作品の中に組み入れたいと思い、
私はメモ帳を取り出して、細かく書きました。
そんな私の様子に、Kさんは「これは噂話だけどね」と笑いましたが、
私はこれ、本当だと思います。
彼のその笑顔の奥に、言葉にしない“何か”が見えた気がしたからです。
すると、それに気付いたのかKさんは、ふと視線を落としながら言いました。
「咲良さん。現場ってね……時々、説明のつかない声が聞こえるんだよ。
誰もいないはずの場所から、“はんにんは~”ってね」
私は思わず、背筋がゾゾゾとするのを感じました。
そしてKさんの話は、このあとも続きました。
でもそれは――また、明日。




