其の八十八「本当に怖いのは――」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
創作怪談を書くようになってから、私は神社やお寺に足を運ぶことが多くなりました。
たくさんの方に読んでいただけますようにという願掛けももちろんですが、
やはりとても怖がりなせいか、どうしても気になってしまうのです。
「幽霊・怪異を扱う作品を書いていると、本当に幽霊や怪異が寄ってくる」という噂話。
そんな中、ある神主さんからこんなお話を聞きました。
「幽霊・怪異よりももっと怖い。ほんとうに怖いのは――神様です。」
それはこんなお話。
◇◆◇
お話をしてくれたのは、先日訪問した神社の神主さん。
この方とは数年前からのお知り合いで、
この日、久しぶりにお会いすることになり、
私たちはお茶をいただきながら、積もる話を和気あいあいと交わしていました。
そんな中、私がライター業のほかに創作怪談の執筆もしていると話すと、
神主さんは「あの怖がりな咲良さんが怪談を?」と驚き、そしてこんなお話をしてくれました。
「咲良さん、幽霊や妖怪よりもっと怖いものが何か、知っていますか?」
幽霊よりも怖い、妖怪よりも怖い……
そう聞かれた私は、思い浮かぶものがありませんでした。
静かに首を振り、「わかりません」と答えると、神主さんはコクリと頷きました。
「本当に怖いのは、神様ですよ。咲良さん。」
神様――。
私は思わず首をかしげました。
どうして神様が怖いのでしょう?
願いを叶えてくれる存在、守ってくれる存在。
そんなイメージしかなかった私は、「怖い存在」と言われて戸惑いました。
ですが、続きを聞くことで、神主さんの言うことは腑に落ちました。
「時々いるのですよ。神域を汚した罰当たりな方が、お祓いをしてほしいと神社に来ることが。
しかし、我々は神様に仕えています。幽霊や妖怪はお祓いできても――」
そして、一呼吸おいて、神主さんは静かに言いました。
「我々は、神様を祓うことなどできませんよ。」
それを聞いた私は、なるほど、と大きく頷きました。
確かに、神様に仕えている神主さんが神様を祓うなんて、できるはずがない。
当然すぎることなのに、言われるまで気づかなかった自分に驚きました。
「なので咲良さん。咲良さんはそんなことをしないと思いますが、
神社やお寺巡りをされるときは、くれぐれも神様、仏様に失礼のないようお願いしますよ。」
私が「はい」と返事をすると、神主さんはニッコリと微笑みました。
◇◆◇
神様に仕えている神主さん、仏様に仕えている和尚さん。
確かに言われてみれば、仕えている存在を祓うなんてできるわけがありません。
これからも神社やお寺を巡ることになる私は、このお話を聞いて、
神様、仏様に失礼のないよう気をつけることを心に誓いました。
でも――。
神様を怒らせるような罰当たりなことって、どんなことなのだろう?
そして、そんなことをする人間の方が、幽霊や妖怪、神様、仏様より
よほど怖い存在なのではないか、と。
久しぶりに会った神主さんとの会話は、そんなことを考えさせられる時間でした。
この話、本当なので、皆さんも神社やお寺に行くときは
神様、仏様には失礼のないように――。




